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山田正紀の本棚

  1. 人喰いの時代
  2. 僧正の積木唄

人喰いの時代 ハルキ文庫
 それまで、SF、伝奇時代小説などを手がけてきた山田正紀の初の本格ミステリ作品である。探偵役の呪師霊太郎とワトソン役の椹秀助を主人公とする6編の連作短編集である。
 背景となる時代は満州事変の数年後から廬溝橋事件の日までの、まさに第二次世界大戦直前の日本の暗い時代であり、作品中にはカラフト航路の定期船、特高警察、小樽博覧会といった時代を象徴するものが描かれている。6編の短編は、服を着たり脱いだりする宙づり死体、バスの中の毒殺、雪山の死体消失、足跡のない雪の上での喉を切り裂かれていた死体等々ミステリとしてはおなじみの話を扱っているが、全て「○○○の時代」と題され、それらをまとめて「人喰いの時代」としたのは、まさしく、その時代が戦争という狂気が人を飲み込む時代だったからであろう。
 呪師霊太郎は、なかなか魅力的なキャラクターであるが、この作品のほかは1作品しか登場作品がなく、僕は未読であるが、この「人喰いの時代」のようなおもしろさはないようだ。
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僧正の積木唄 文藝春秋
 あの有名なヴァン・ダインの「僧正殺人事件」になんと横溝正史が生んだ日本の名探偵金田一耕助が挑むというミステリファンにはたまらない作品。
 僧正殺人事件は終わっていない、かのファイロ・ヴァンスは事件を解決してはいなかったのである。反日感情が高まる第二次世界大戦直前のニューヨークで、僧正殺人事件2と名付けられた事件が起こり、日本人が犯人として逮捕される。日本人の無実を信じて金田一耕助は事件の解決に立ち上がる。
  それにしても、中学生の時に夢中でヴァン・ダインの「僧正殺人事件」を読んだ身としては、ファイロ・ヴァンスが実は僧正殺人事件を解決していなかったという設定は受け入れがたい。それに事件が起こっているのに、欧州旅行へと行ってしまうなんて。今でもあの「コックロビンを殺したのはだ〜れ、私だわって雀が言った」というマザーグースの唄は忘れられない。
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