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罪の境界 | 幻冬舎 |
浜村明香里は小学校の事務員として働く26歳になる女性。明香里の26歳の誕生日に、恋人で出版社で編集者をする東原航平と渋谷のレストランで食事をする約束をしていたが、到着する手前で電話をすると、航平は仕事が入り行くことができなくなったと告げる。仕方なく一人でスイーツの店に向かうが、途中のスクランブル交差点で突然斧を振り回す男に襲われてしまう。彼女を助けようとした男性のおかげで明香里は一命を取り留めるが、彼女をかばった男性・飯山晃弘は死亡してしまう。身体だけでなく心にも大きな傷を負った明香里は航平に別れを告げ、静岡の実家に身を寄せる。しかし、飯山が最後に言った「約束は守った・・・伝えてほしい」という言葉が気になった明香里は、その言葉の意味を調べ始める。一方、風俗雑誌のライターである溝口省吾は、事件の犯人・小野寺圭一の境遇が自分と同じではないかと興味を覚え、彼の取材を始める・・・。 作者のインタビューでは、この作品は2018年に走行中の東海道新幹線の車内で起こった無差別殺傷事件がモデルだそうです。あの事件も犯人が「刑務所に入りたかった」「無期懲役になりたかった」などと述べ、無期懲役の判決の言い渡しがあった際には万歳三唱をしたようで、世間では犯人が望む判決でいいのかと大きな問題になりました。 この物語でも、実際の事件と同様に犯人は死刑ではなく無期懲役を望んで、一人殺害なら無期懲役だろうと考え、犯行に及んでいます。更には仮釈放等で刑務所から出れば、また同じことをすると言います。他の事件との量刑を考慮してというなら、殺害された人が一人という被害者の数の問題だけでなく、犯人の犯行に対する考えや、今後改心する可能性があるかなども考慮して検察は求刑すべきですし、裁判官は判決を言い渡すべきです。 犯人の生い立ちには同情すべき点はあります。しかし、明香里が被害者参加制度によって参加した小野寺の裁判で述べたとおり、だからといって人を殺していい理由になどなりません。ラスト、小野寺が最終的に望んでいた彼を捨てた母への復讐は果たされませんでしたが、これから果たして小野寺は変わるのか、それとも更なる憎しみを募らせるのか、気になります。 |
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最後の祈り | KADOKAWA |
保阪宗佑は交際していた女性の姉・真理亜に会って一日惚れしてしまい、恋人に別れを切り出す。彼女は了承し、宗佑の前から姿を消すが、ある日、一人で秘かに生んだ宗佑との間の娘の由亜を残して自殺したという連絡が入る。そのことがきっかけとなって牧師となった宗佑。娘の由亜は真理亜の養女として育てられ、健やかに成長したが、結婚を間近に控えた日に殺害されてしまう。犯人の石原亮平は逮捕されるが、裁判でも贖罪や反省の色は見せず、死刑判決に「サンキュー」と高笑いし、控訴をせず死刑が確定する。死刑になることを恐れもしない石原に対し、宗佑は娘の復讐のため罪を犯したことを後悔させようと、たまたま病気で交代することになった刑務所の教誨師に代わって教誨師として石原に近づく。しかし、復讐の心を隠し、教誨師として石原と話をすることは徐々に宗佑の心を蝕んでいく。・・。 先進国と言われる国でいまだに死刑制度があるのはアメリカや中国、日本などで死刑制度廃止国に比べて少数派となっています。私自身はこの作品の中でも描かれるように、被害者遺族の感情という面からは廃止論には賛成できません。特に、この物語の石原のように、まったく反省の色を見せず、被害者遺族の心を逆なでするような発言を繰り返す殺人犯に対し、教育なんてことができるのかと思ってしまいます。しかし、死刑制度はある意味、国家による殺人ですが、実際にそれを行うのは刑務官たちですし、この作品の中で実際に死刑執行に携わった刑務官たちが精神を病み、職を辞めようと思うのは無理のないところかもしれません。私としても、娘を殺した憎い男であっても、自分で殺せと言われたら果たして実際に手を下すことができるのかわかりません。でも、やはり犯人は許せません。 様々な問題を内包する死刑制度ですが、ストレートにこうだと割り切ることは難しい問題ですね。 |
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籠の中のふたり ☆ | 双葉社 |
弁護士の村瀬快彦は、小学生の頃は正義感あふれる子どもだったが、母親の自殺以降、人と深く関わらないように生活していた。そんな快彦に病気で亡くなった父の葬儀の後に恋人の白鳥織江は自分に興味がないんじゃないかと言って別れを告げる。そうした中、快彦は静岡の弁護士の訪間を受ける。幼い頃会ったきりだった従兄弟の亮介が6年前に傷害致死事件を起こして服役中だったが、彼の仮釈放のための身元引受人として亮介から快彦が指名されたという。嫌々ながら、仕事を見つけるまでの半年限りということで、亮介は快彦の家に同居することとなる。周りの人と分け隔てなく付き合う亮介に振り回されながら、同居生活が続くが・・・。 前半は、DVを受けている小学校の同級生だった吉本清美の相談を受け、解決に動く快彦と亮介が描かれます。後半は、SNSにあげた小学校の同級生が営むバー・グリッパーで行ったライブに亮介が映っていることを目にしたかつて亮介の恋人だった女性・相田リサが訪れたことを契機に、亮介が起こした事件を快彦は調べ始めます。また、快彦の家の周囲で様子を窺う男の存在があったり、母が結婚前に父に送った手紙の内容を読むことにより、それらが亮介の事件の真相、亮介の父親の失踪の裏に隠された事実、母親の自殺の理由、そして快彦自身の問題へと収敏していきます。母親の自殺以降、人との関係が密接になることを恐れていた快彦が亮介との関わりにより、小学校の同級生たちが思っていた快彦に戻っていくところが読んでいて心地いいです。 人との関わりを避けることになった母親の自殺の理由が何なのかがこの物語の謎解きのメインになるのですが、なぜ亮介が彼を身元引受人にして、彼の元へと来たのかが明らかになるラストは、感動です。 |
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