第51回江戸川乱歩賞受賞作です。久しぶりにハードカバーで購入した乱歩賞作品です。
4年前に13歳の中学生3人によって妻を殺された主人公桧山。少年たちへの処分は、刑事責任を問えない年齢のため、児童自立支援施設への入所と保護観察だけにとどまり、やりきれぬ思いを抱きます。今当時赤ん坊だった娘の愛実との二人暮らしをしていますが、そんなある日、3人のうちの一人の少年が殺害されるという事件が起きます。
少年法をテーマにした作品としては、近いところでは、東野圭吾さんの「さまよう刃」がありますが、テーマとしては目新しいものではありません。
少年法による加害少年の更生と被害者の家族の感情にどう折り合いをつけていくのかという問題は、従来から問題となっているように、非常に難しいものがあります。特に犯罪者の低年齢化、凶悪化の一途を辿る昨今においては、今までのような少年の保護を重視するということでは、犯罪の未然の防止ということは図られないのではないかと思ってしまいます。
物語の中でも書かれていたように、近年の少年法の改正により、ようやく被害者家族が、加害少年の姓名を知ることができるようになりましたが、それ以前は、名前さえ知ることができなかったのです。いったい被害者家族の気持ちはどこへ持って行けばよかったのでしょうか。
私的制裁が許されない法治国家においては、それなりに被害者感情の慰撫ということも考える必要があるのではないかと僕は思うのですが。物語の中で主人公は、自分が殺してやりたいと叫びますが、実際問題として、人を殺すなんてことは、普通の人間の精神で簡単にできるものではありません。だからこそ、死刑制度があって、被害者に代わって国家が死という制裁を加えることになっているのでしょう。
今回の衆議院の解散によって、郵政法案にばかり目がいきがちですが、それ以外にも障害者自立支援法案など重要法案が廃案となりました。その中に「少年法改正案」があります。これは、刑事責任を問えない14歳未満の少年の事件で、少年への調査権を認めるなど警察の関与を強めるものだったようです。昨今の少年による凶悪事件の増加が、“少年の保護”から“厳罰”の方向へ向かっていることを端的に表しています。
この作品では、犯人の少年たちのその後を訪ねる主人公が、事件の裏に隠された思わぬ事実を知ることになります。ラストにおいても“更正”と“被害者感情”の問題に明確な回答を与えているわけではありません。しかし、思わぬラストに一気に読み進んでしまいました。 |