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矢樹純の本棚

  1. マザー・マーダー

マザー・マーダー  光文社 
 全5話が収録された連作短編集です。どれもがラストで驚きの展開を見せ、それだけで完結しているのですが、当初の話で脇役であった登場人物が途中の話から前面に出てきて、最後に驚きのラストとなるという体裁になっています。
 「永い祈り」の主人公はローンで一軒家を購入し、夫と幼い娘と引っ越してきた主婦の佐保瑞季。ある日、娘の泣き声がうるさくて仕事ができないと息子が怒っていると隣家の梶原美里が怒鳴り込んでくる。その後も宅急便の車がうるさいなどの苦情を言ってくるという美里の行動から、これは息子へのゆがんだ愛情を持つ母親に恐怖に落とされる家族の話かと思ったら、途中から話は次第にうまくいかなくなる夫婦の関係、そして仕事をあっせんしてくれた元部下の女性とのトラブルが描かれていきます。最初はいたいけな主婦だと思っていたら、実は驚きの秘密があってという話になっていきます。
 「忘れられた果実」の主人公は病院で看護助手をする相馬。ここにも梶原美里が登場します。息子の話をすると止まらない女性として描かれますが、ストーリー上はただそれだけの存在。でも、ここで、後半の話に大きく関係のある事実が読者に示されています。話は亡くなった別れた夫の遺産相続を巡って娘と夫の隠し子だという男との間に立たされた相馬が描かれていきます。これまたラストで驚きの事実が明かされます。
 「崖っぷちの涙」の主人公は引きこもりの自立支援を掲げる施設で働く戌亥。彼は施設を運営する三浦に命じられて同僚の野崎とともに、引きこもりの息子を引き取るために依頼された家に行くが、これがなんと梶原家。やがて、戌亥は自分が危険な立場に立たされたことに気づきます。これにも思わぬどんでん返しが隠されています。この話からは、いよいよ脇役だった梶原美里が前面に出てきます。
 「シーザーと殺意」の主人公は、美術室でシーザーの石膏像が棚から落ちてきて怪我をして以来不登校になってしまった娘を持つ城戸早苗。娘からシーザー像を落としたのは梶原恭介だと聞いた早苗は学校に行く。この話は事件の謎解きという体裁になっているのですが、ここにも次の話に繋がる伏線が隠されています。
 「Mother Murder」の主人公は駆け出しのルポライターの寺町梨沙。イケメンの親殺しとして話題になった梶原恭介の記事を書くため彼に接触しようとし、やっと会う約束を取り付け彼の家に行くが・・・。読んでいて違和感があったのですが、うまくミスリードさせられていました。ラストは恐ろしいですねえ。 
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