ペンギンは空を見上げる ☆ | 東京創元社 |
佐倉ハルは小学6年生のクリーニング店の息子。彼の夢はNASA又はJAXAでエンジニアとして働くこと。今もカメラを載せた風船ロケットを打ち上げて成層圏からの地上の姿を写そうと試みている。そんなハルは、学校ではなぜか自ら孤立を望み、幼馴染である商店街の近所の和菓子店の息子・三好にも自分に話しかけるなと言っている。そんなある日、クラスに母親をアメリカ人に持つ鳴沢イリスが転校してくる。彼女は、最初のあいさつで「日本語はあまりとくいでないです。でも、どうせすぐむこうに帰りますから、だから、なかよくしてくれなくていいと思います」と言って、クラスに馴染むのを自ら拒否する。そのため、イリスはいじめの対象となるが、ある事件がきっかけでイリスはハルにまとわりつくようになる・・・。 東京創元社から出版されていますが、内容はミステリーというわけではありません。小学生を主人公にしたボーイミーツガールの物語です。学校で孤立する中で、風船ロケットの成功を夢見て努力をするハル、周囲に溶け込もうとしない中でハルと交流を深めていくイリス、そしてクラスで孤立している二人にも分け隔てなく接するお人よしの三好という第三者から見れば3人の爽やかな関係が描かれていきます。本当の思いを心の裡に隠し、表面上はちょっと尖った雰囲気のハルとイリスと、いつも二人のことを思いやっている三好くんの関係が最高に素敵です。 なぜハルがクラスの中で孤立しているのか、それ以上になぜ幼馴染の三好くんでさえ遠ざけて自ら孤立しようとしているのか。そこはやはり、東京創元社から刊行される作品ですから、物語の中にはミステリー作品のようなある仕掛けが施されています。ラストでその理由が明らかにされたときは、「そういうことだったのか」と、ページを前に戻ってあれこれ確認してしまいました。ハルがエンジニアにこだわる、いや、こだわざるを得ない気持ちを考えると、声援を送りたくなります。ラストは感動です。 ちょっとハルが大人びているかなという気はしますが、小学6年生が語り手ですから文章自体は難しくありません。僕自身に小学生の息子がいたらぜひ読ませたいと思う素敵な作品でした。おすすめです。 |
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