| うたかたの娘 | KADOKAWA |
| 第45回横溝ミステリ&ホラー大賞受賞作です。語り手の異なる4話からなる連作集です。 この物語では「薄紅伝説」という人魚伝説が語られます。人魚の肉を食べたことにより不老不死になった八百比丘尼の伝説は知っていますが、この物語で語られる「薄紅伝説」は、薄紅という名の美しい人魚を殺し、その肉を食ったことから醜女が別人のように美女となり人魚となってしまうという伝説であり、これに絡めて、ルッキズムの問題にも触れられていきます。 冒頭の「あぶくの娘」は、人並みの中に立つ紫のワンピースの老婆をネタにして女性をナンパした青年が高校時代に出会った水島藍子という美少女との思い出を語ることから始まります。藍子は「僕」に幼い頃病弱だったが、父と祖父から飲まされた“何かの血”によって病気が治り、顔が美しくなったという。ここで「薄紅伝説」のことが読者にも示されます。この高校時代の思い出を語っていくこの青年が何だかおかしいなと思ったら、思わぬ驚きの展開に。ところが、更に読者を驚かす展開が待っていました。おばあちゃんをネタにしてナンパなんかするからですねえ。 「にんぎょうにんぎょう」は、会社で上司からパワハラを受けている藤野が、飲み会の帰りに乗り過ごした駅の前のカフェで紫色のワンピースを着た老婆から、人を呪い殺すことができるという人魚の人形をもらうことから始まります。時を同じくして、藤野の会社に茗荷谷という驚くほど美しい派遣社員が入ってくる。なぜか藤野に近づいてきた茗荷谷に藤野は呪いの人形のことを話してしまい、茗荷谷はそれを見せてほしいと藤野に迫るが。紫色のワンピースの老女って「あぶくの娘」の冒頭のおばあちゃん?茗荷谷の名前と同じ人が「あぶくの娘」にも出ていたよなあと次第に怖さが明らかになっていきます。 「へしむれる」は、交際している杏から人を殺したと電話があり彼女のアパートに駆け付けた男が包丁を背中に突き立てられて死んでいる女を見るところから始まります。男は、北陸の若狭にある水族館で設備の保守を担当する神田。死んでいる女は最近水族館によく来る絶世の美人・夜明夕海子。この話の語り手の神田は「あぶくの娘」に登場していたた神田ではないのか?ここにも「ゆみこ」という女性が登場してくるけど、それまでの「ゆみこ」と関係があるのか、等々考えながら読み進めることになります。ラストで女性が美人であるかどうかは拘らない神田という人物が実は・・・というところが怖いですねえ。それにしても、魚に手足が生えてきたというのに、何ら騒ぎにならないのは、選考委員の黒川さんも言っていましたが、ホラーというジャンルにしてもリアリティはなかったですね。 最後の「鏡の穴」の語り手は薄紅という名の人魚。舞台は遥か1000年も昔の若狭です。この話でこれまで語られてきた物語の謎、紫のワンピースの老女の正体、「ゆみこ」という名前の絶世の美女の正体、「薄紅伝説」とは本当はどんな話だったのかの謎が回収されます。 個々にはラストでどんでん返しのあった「あぶくの娘」と「へしむれる」が面白かったです。 |
|
| リストへ | |