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歌野晶午の本棚

  1. 長い家の殺人
  2. 白い家の殺人
  3. 世界の終わり、あるいは始まり
  4. 葉桜の季節に君を想うということ
  5. ジェシカが駆け抜けた七年間について
  6. 女王様と私
  7. 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵
  8. 絶望ノート
  9. 春から夏、やがて冬
  10. 舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵
  11. コモリと子守り
  12. ずっとあなたが好きでした
  13. Dの殺人事件、まことに恐ろしきは
  14. 間宵の母
  15. 首切り島の一夜

長い家の殺人 講談社ノベルス
 綾辻行人、法月綸太郎に次ぐ、1980年代終わりに講談社ノベルスから出てきた、新本格派の一人、歌野晶午のデビュー作です。死体の消失と出現、夜歩く死者、浮遊する人魂など、本格推理ファンにはたまらない謎の数々が提示されます。そして、本格推理となれば、やはり名探偵の登場です。この作品にも、信濃譲二という名探偵が登場します。そして、当然のごとく市之瀬徹という記録者もいます。「葉桜の季節に君を想うということ」で昨年の「このミス」1位に輝いた歌野さんの若々しさを感じることができる作品です。
 それにしても、当時、講談社ノベルスで続々と刊行される島田荘司によって見いだされる、彼らいわゆる新本格派の本を首を長くして待ったものでした。
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白い家の殺人 講談社ノベルス
 資産家の娘、猪狩静香の家庭教師の市之瀬徹は、クリスマスからの年末年始に八ヶ岳にある猪狩家の別荘に招待を受ける。事件が起きたのはその夜。静香の部屋から不吉な物音が聞こえ、異変を感じた一同が鍵のかけられた静香の部屋の扉を破壊し、室内に躍りこんだところ、そこにあったのは、シャンデリアから逆さ吊りにされた、静香の凄惨な他殺死体だった。犯人はいったい誰なのか? そうこうする中、第二の被害者が出る……。
歌野晶午さんのデビュー2作目です。再び名探偵信濃譲二の登場です。しかし、この信濃という男、正義感あふれた規律正しい男というより、大麻は吸うし、アウトローといった方がお似合いの人物です。でも、かのホームズも薬物中毒でしたっけ。
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世界の終わり、あるいは始まり 角川書店
 小学生が誘拐され射殺されて発見されるという事件が連続して起きます。最初の被害者と同じ町内に住む主人公は、ある日息子の机の中に被害者の親の名刺があるのを見つけます。なぜ息子が、被害者の親たちの名刺を持っているのか。さらには二重底になっている引き出しの中から本物と思われる拳銃を発見します。息子が誘拐殺人事件の犯人なのか。父親の苦悩を巡って物語は展開していきます。
 子供が関係する事件が起きると、子供を持つ親たちは「なんとひどい事件だ」と激怒するけれど、一方では「自分の子供が被害者でなくてよかった」と胸をなでおろします。しかし、近年では被害者だけでなく加害者までもが子供という事件、それもあまりに残虐な事件が世間を騒がしています。今では親たちは、「被害者でなくてよかった」だけでなく「加害者でなくてよかった」と安堵することになります。「自分の子供はそんな育て方はしていない!」と、どの親も、もちろん僕自身も思うのですが、実際に事件を起こした子の親だって、「まさか自分の子供が」とは思わなかったでしょう。この物語は、こうした現在の世相を的確に捉えた作品だと思います。ただ、いったいこの後の展開は?果たして息子は加害者なのか?という読者の興味をかき立てておきながら、最後にああいう終わり方では「え!これで終わりなの」という感じでした。やはりあの終わり方では僕としては物足りません。本当の物語はこれから始まるのですから。
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葉桜の季節に君を想うということ  ☆ 文藝春秋
 主人公の元探偵、成瀬将虎は、霊感商法がらみの保険金殺人に巻き込まれる。この話を中心として複数の物語(過去の探偵時代の事件、自殺を助けた女性との恋等)が同時進行で語られ、最後にこれらの全てがあっと驚愕する解決を見る。
 本の帯に書いてあった「最後の1ページまで目を離すな!」という惹句を見て、注意深く読んでいったつもりだが、見事にやられた。読み終わったあと見返すと、確かにいろいろな仕掛けが巧みに施されていたのがようやく分かる。最近の著者の作品からして素直な本格物ではないなと思ってはいたのだけど・・・。最後の「補遺」の部分では、著者が「どうだ!嘘は書いていないだろう」とほくそ笑んでいるようだ。
 最後の「約束」の章で主人公がある人に延々と話すことは、(ネタばれになるので細かいことは書けないが)今の僕自身にも言われているようである。そうでなくてはいけないと考えさせられる。主人公成瀬将虎バンザイである。
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ジェシカが駆け抜けた七年間について 原書房
 巷ではオリンピックの女子マラソンの代表選手の選考が話題になっていますが、この作品は女子マラソンの世界を舞台にしています。まさかその時期に合わせて出版したわけではないでしょうが。
 「誰も嘘をつかない作品を書きたい」と作者が言っていたそうですが、そのとおり読者にとってはとてもフェアな作品です。謎を解く鍵は読者の目の前に提示されています。僕自身は、ヒントはここだよと作者が言ってくれているにもかかわらず、そうなんだと思うばかりで深く考えることができませんでした。購入する前に原書房のホームページで作品の紹介を読んだのですが、その時点で完全に騙されていました。しかし、知識のある人には、この謎というか作者が仕掛けたトリックは簡単にわかってしまうかもしれません。作品の構成については、同じような作品がほかにあったと思います。
 昨年の「このミス」等で第1位を獲得した歌野さんの最新作ということで、かなりの期待はあったのですが、残念ながら前作の「葉桜~」のような衝撃というわけにはいかなかったですね。
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女王様と私 角川書店
 この作品は、読む人によって、好き嫌いがかなりはっきり出るのではないでしょうか。かくいう僕自身は読了後、正直これに費やした時間、他の本読めば良かったかなと思ってしまいました。
 女王様なんていうので、当然大人の女性を予想して読み始めたら、なんとこれが小学校6年生の女の子河合来未。主人公もオタクで、いい年して親に食べさせてもらっているというので、当然若い青年だとばかり思っていたら、なんと年齢が44歳のおじさん真藤数馬。そんな44歳の男が12歳の女の子に振り回されてヘイコラしているのです。「オイオイ、この年でオタクでロリコンかぁ~勘弁してほしいなあ。」と、このままロリコン小説で終わってしまうのかと、そろそろ嫌気がさしてきた頃に、事件が起こります。来未の友達が相次いで殺されたのです。数馬は、次は自分かと怯える来未のために犯人捜しを始めます。そこに待っていたものは・・・。
 このままだと、単にロリコン男の探偵譚にすぎなくなってしまう、歌野さんならきっと何かこのあとサプライズがあるのではないかと期待しながら読み進めました。やっぱり、ありましたねえ。でも、それは期待した意味でのサプライズではなかったです。まあ、ある意味では歌野さんは正直に書いているのですが(注意深い人なら最初からわかってしまうかもしれません)、それにしても・・・。
 帯に「今年最大の問題作」とありましたが、確かに「問題作」かもしれません。
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舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 カッパ・ノベルス
 題名からすると11歳の舞田ひとみが、探偵役をするミステリかなと思ったのですが、これは題名に偽りありです。ひとみはダンスもしませんし、探偵もしません。実際はひとみの叔父で刑事の舞田歳三がひとみとの会話からヒントを得て事件を解決していくという連作短編集です。
 歳三とちょっと生意気でかわいいひとみとの会話は楽しいものがありますが、探偵役としてみると歳三は地味ですね。刑事ですから地味で当然、派手な刑事がいるわけないといえばそうなんですけどね。
 収録されている6編のうち「いいおじさん、わるいおじさん」と「いいおじさん?わるいおじさん?」は独立しても読めますが、二つ合わせて「え!そうなんだ!」という驚きを与えてくれる作品です。収録作の中では一番のお気に入りです。題名がまた皮肉な題名です。
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絶望ノート 幻冬舎
 中学校でいじめに遭っている照音は、毎日の鬱屈した思いを表紙に“絶望"と書いたノートに記していた。ある日、いじめっ子が蹟いて怪我をした石を学校の庭から掘り返して持ち帰り、神様“オイネプギプト様”と名付けて、それに対し、いじめっ子が死ぬように祈ると・・・。
 ノートにいじめっ子を殺してくれと書いたらそのとおりになるなんて、まるで“デス・ノート"のようです。とはいえ、この作品はSFではないので、当然犯行を実行した犯人がどこかにいるはず。論理的に考えれば、本人自ら犯行に及んでいるのでなければ、ノートを読む機会のあつた人が犯人ということですが。さて、そうなると考えられるのは身近にいる両親ということになります。実際に、読み進むうちに母親が照音の日記を読んでいることが読者に明らかにされます。
 歌野さんの作品を以前から読んでいる人にとっては、そうは単純に物事が進まないだろう、何か読者を編すトリックがあるだろうと考えてしまうのは当然のこと。しかし、そこはさすが歌野さん。いくら疑心暗鬼になって読み進めていっても、そんなに簡単には読者が真相を暴くことはできません。読者をミスリードする仕掛けがあちこちに張り巡らしています。でも逆に読者へのヒントもあって、注意深い人には話の全体が見えるかもしれません。
 それにしても、最後はそうきたかと唖然。ちょっとそれはあまりに御都合主義と思うようなところもありますが、楽しめる1冊となっています。
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春から夏、やがて冬 文藝春秋
(ちょっとネタ晴れあり)
 帯に『「葉桜の季節~」を超える衝撃』と書いてあったので、大いに期待しました。でも、残念ながら「葉桜の季節~」のような衝撃はなかったというのが正直な感想です。
 高校生の一人娘をひき逃げで失い、妻もそのショックから自殺したことからエリートコースを自ら外れて、スーパーの保安責任者をやっている平田。ある日、万引きをした女性の生年月日が娘と同じであることを知った平田は、説諭だけで彼女を解放します。その後、彼女との交流が始まりますが・・・。
 歌野さんのことですから、当然一筋縄ではいかず、読者をどこかで騙しているのだろうなと、疑り深く読み進みました。しかし、生年月日が同じだけで、なぜそこまで彼女に肩入れするのか、平田の心情が理解できなかったので、物語の中に没入することができませんでした。読んでいてイライラしてきてしまいました。読者に仕掛けた罠も違和感があります。これは、まずあり得ない、これが真実だとしたらこの作品はまったくの駄作だとまで思ってしまったほどです。もちろん、ラストに明かされる真実は違うのですが、疑り深い読者としてはこれでは騙されません。あまり僕は良い読者ではないようです。
 ミステリーとしての衝撃はありませんでしたが、それにしてもラストで明かされる真実は悲しすぎます。
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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 光文社文庫
 シリーズ第2弾です。前作では11歳だった舞田ひとみも、今作では14歳、中学2年生になりました。前作ではひとみの叔父である刑事の舞田歳三が語り手となって物語が進みましたが、今回はひとみの小学校時代のクラスメートであり、今は別の私立中学校に通う高梨愛美璃が語り手となった6編が収録されています。6編とも高梨愛美璃とその同級生萩原夏鈴、織元凪沙の周囲で起きる事件に、ひとみが顔を突っ込み、事件解決に導くというストーリーになっています。
 6編は、詐欺まがいの募金活勁をする女が殺された事件(「白+赤=シロ」)、愛美璃たちの中学校で起こった窃盗事件(「警備員は見た!」)、幽霊に出会ってことで激やせしてしまった先生の謎(「幽霊は先生」)、愛美璃の弟が携帯でやりとりする暗号のようなメールの謎(「電卓男」)、愛美璃の弟の誘拐事件(「誘拐ポリリズム」)、道路の中央分離帯で踊る女性の謎(「母」)という、犯罪や日常の謎など様々です。
 今回はひとみだけでなく、かわいい顔をしているのに男のようにしゃべる萩原夏鈴、逆に時代がかったお嬢様のようにしゃべる織元凪沙というそれぞれキャラが異なる女の子たちの登場で、雰囲気はちょっとかしましい短編集になっています。ただ、後半、愛美璃が思わぬ家族の陰の部分を明らかにするなど、深刻な面も描かれます。
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コモリと子守り  ☆ 光文社
 舞田ひとみが探偵役を務めるシリーズ第3弾です。ひとみも第1作のときは11歳、第2作の時は14歳、そして今回は17歳と3歳ずつだんだん大きくなってきました。そのうえ、小柄だった身長も172センチにまで伸びているのですから、女性としては逆に大柄といった方がいいですね。
 今回、ひとみが遭遇するのは誘拐事件です。小・中学時代の同級生で、今は高校を辞め家でほとんど引き籠り状態の馬場由宇が、両親がパチンコをしている間、車の中に置き去りにされたジブリ映画の“ポニョ”に似たピンク色の髪の子どもを家に連れてきてしまったのが発端。その子が由宇の家からいなくなってしまったことから由宇に泣きつかれたひとみは誘拐事件に巻き込まれていきます。
 「コモリと子守り」とは不思議な題名です。今回は前2作のように「舞田ひとみ○歳」と題名の頭に冠されていません。“子守り”の方は、ひとみの父が18歳も歳の離れた女性と結婚し、幼い弟ができたため、弟の“子守り”で大忙しということからでしょうけど、“コモリ”の方は何でしょうか。由宇の“ひきこもり”を指しているのでしょうか。
 相変わらず、論理的にパッパッと話を進めていくひとみですが、由宇のような男の子では到底太刀打ちできないですね。この作品では、17歳になって、子どもだと思っていた読者に女性を感じさせる場面もあります。誘拐事件については、犯人からの指示が不親切すぎるところから論理的に犯人へたどり着いていきます。
 さて、第4弾は“舞田ひとみ20歳”になるのでしょうか。
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ずっとあなたが好きでした 文藝春秋
(ちょっとネタバレあり)
 13編が収録された短編集です。発売元の文藝春秋のHPでは、『国内外の様々な場所で、いろいろな男女が繰りひろげる、それぞれの恋模様。サプライズ・ミステリーの名手が贈る恋愛小説集・・・だが?』とあったので、「葉桜の季節に君を想うということ」を書いた歌野さんの作品ですし、単なる恋愛小説集ではなく、何らかのトリックが仕掛けられているのではないかと期待して読み始めました。
 ひとつひとつの話は、ラストでそれまで見えていた世界が反転する作品や、叙述トリックっぽい作品など、ミステリとしてもおもしろいという作品もありましたが、単なる男女のばかばかしいと思える話もあり、これを雑誌で単独で読んだとしたら、たぶん「なんだ、これ!」とがっかりの声を上げていたかもしれません。
 ラストから2番目に置かれた書き下ろしの「錦の袋はタイムカプセル」で、それまでの作品に登場していた人物たちの関連が明らかとなり、「へえ~そういう繋がりがあったんだ」と、よくもまあいろいろなパターンで繋がりを作ったものだとは思いましたが、やっぱり「だから、なに?」という印象です。
 最初から共通の人物が登場していることから、関連のある作品だとわかるものもありましたが、そうとはわからないものもあり、最初から繋がりを意図していたとしたら、それはすごいと言わざるを得ません。ただ、この短編集を編むに当たってかなり強引に関連づけたのではないかと思うものもあります。
 個々の作品でいえば、転校した彼女の家を目指して50キロの道を自転車で出発するが、目的地についても彼女の家が見つからない「遠い初恋」、次期社長と目される社長の息子の結婚式に夫婦揃って招待されたときから、周囲で不審なことが起き始める「ドレスと留袖」、ブランド品に身を包んだ女性がチラシ配りの手から割引券付きのチラシを大量に受け取るという不審な行動を見せる「幻の女」、パリのレストランで起こった殺人事件を描く「舞姫」というミステリ色の強い作品の方が読み応えがありました。特に、読者をミスリーディングする「ドレスと留袖」と謎解きより読者が頭の中で思い描いていたイメージを逆転させる最後の一行が見事な「舞姫」がお気に入りです。
 一方、恋愛小説集という意味ではいまひとつという印象です。
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Dの殺人事件、まことに恐ろしきは  角川書店 
 江戸川乱歩の8つの短編(「人間椅子」「押絵と旅する男」「D坂の殺人事件」「お登瀬登場」「赤い部屋」「陰獣」「人でなしの恋」「二銭銅貨」)を歌野さんが現代風にアレンジした作品集です。
 乱歩作品といえば、小学生の頃、図書館にあった子ども向けの明智小五郎と少年探偵団シリーズを友だちと競い合って夢中で読んだものですが、それ以外の大人向けの作品は読んだことかありません。
 ここに取り上げられた作品も題名は知っていても読んだことがないので、歌野さんがどうアレンジしたのかもわからず、あくまで歌野作品として読んでみました。
 一番印象に残ったのは表題作の「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」です。写真の専門学校に行きながらカメラマンになれずに、探偵社で不倫の現場写真等を撮る仕事をしていた「私」は、渋谷の路地裏の小さな公園で小学生の聖也と出会い交流するようになる。ある日、道玄坂の「ダイニングバー」で聖也と話していたとき、閉店時間になっても店を閉めない向かいの薬局に不審を感じ、中に入ると店主の娘が裸のまま殺害されているのを発見する。やがて、「私」は、あることから事件の謎を解き、聖也を呼び出すが・・・。
 これは、ミステリーというより、ある意味ホラーです。下手な推理のしっぺ返しがあんなことになるとは。子どもというのは怖ろしいですねえ。
 オリジナルを知らなくても十分楽しむことはできましたが、知っていれば歌野さんがどうアレンジしたのかを楽しむこともできたでしょう。そこはちょっと残念です。 
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間宵の母  双葉社 
 小学3年生の西崎詩穂と間宮紗江子は仲のいい友達同士。紗江子の父・夢之丞はイケメンでお菓子作りや読み聞かせが上手でクラスの子どもたちのヒーローだった。そんな夢之丞と詩穂の母が駆け落ちをしてしまう。紗江子の母・己代子は詩穂の夫を責め、その行動は次第に常軌を逸していく。そんな己代子の行動に、詩穂の父も生活が荒れ、詩穂にも暴力を振るうようになり、家庭は崩壊する・・・。
 第1章は家庭が崩壊するまでを詩穂の視点で描きますが、第2章は大学生になった紗江子を同級生・八塚の視点で描きます。この第1章と第2章で詩穂と八塚が現実か幻想かがわからない世界に迷い込みますが、これが後の展開の大きな伏線となっています。
 第3章は就職した紗江子と母との異様な関係に不審を抱いた同僚の〇〇の視点で物語が進みますが、好奇心旺盛だったがゆえに、恐ろしい状況に陥ります。ラストは衝撃のホラー感満載の事実が読者の前に突き付けられます。これは怖いですねえ。
 第4章では詩穂の息子・栢原蒼空の視点で物語が進みます。紗江子の家に押し入った蒼空の口から、間宮家と西崎家を崩壊させることになった出来事の本当の姿が明らかとされ、幻想だと思っていたことに論理的な説明がなされます。ここで、この作品はホラーの名を借りたミステリだと認識させられ、ホッとしたのですが、歌野さん、ここで終わらせません。ラストで更なるどんでん返しがありました。さて、最後の一行のあと、蒼空はどういう行動を取ったのでしょうか。 
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首切り島の一夜  講談社 
(ちょっとネタバレ)
 永宮東高校の同窓会で企画された40年前の修学旅行の再現ツアー。60歳近くなった当時の高校生と元教師が向かったのは濤海灘に浮かぶ弥陀華島。夜の宴席で参加者の一人、久我陽一郎は当時、他の高校とは違う自由のない永宮東高校の生活を忌み嫌い、永宮東高校を舞台とした教師たちが次々に殺されるミステリを書いて留飲を下げようとしていたことを告白する。その久我が、その夜、旅館の風呂場で殺害されているのが発見される・・・。
 作者は歌野晶午さんですし、更に荒天で船が運航しないという孤島のクローズドサークルの設定もあり、当然本格ミステリだろうと大いに期待して読み始めたのですが、探偵役はいつになっても現れず、警察はどうにか来たものの、事件の謎解きも始まりません。クローズドサークルものといえば連続殺人ですが、久我以外は誰も殺されません。
 物語の構成としては、参加者それぞれを主人公に今の生活のことや高校時代のことが語られていくのですが、久我が登場する話はまだしも、例えば栗原が語る森田先生と朝日桐子の話等々いったいそれが久我の殺害事件にどう関わっているのかもさっぱり想像もつきませんでした。三上友花の話だけは、彼女がやったことを久我に知られて脅されているのかとも思いましたが、結局そうではないようですしね。
 そして唐突に事件の謎解きがされます。野尻のバッグに血が付いたタオルを誰が入れたのかとか最後まで回収されずに残されたものもあります。歌野さんは、いったい何を書こうとしていたのかまったくわかりません。
 冒頭の1節は、久我が書いたというミステリの1節でしょうが、これはこの物語にどう関わりがあったのでしょうか。実はカヴァーの裏にこれに関連する物語が書かれているようですが、図書館から借りた本はカヴァーがとれないようにしっかり装丁されていて見ることができませんでした。 
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