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浦賀和宏の本棚

  1. 彼女は存在しない

彼女は存在しない 幻冬舎文庫
 すでに何年か前に文庫化された作品でありながら、出版元の幻冬舎で売ろうとしているのでしょうか、10万部突破!と新聞広告にも掲載していましたし、書店の平台にも山積みされていました。
 解離性同―性障害、いわゆる多重人格を扱ったミステリーです。ストーリーは、香奈子という女性と根本という男子大学生という二人の人物の視点で交互に語られていくという構成になっています。
 恋人の貴治と出かけた香奈子は横浜駅で由子という女性から亜矢子という女性に間違えられる。由子が男に絡まれているのを助け、貴治の家に連れて行くが翌朝彼女は姿を消し、部屋からは貴治のナイフがなくなっていた。一方根本は最近母親を亡くし、引き籠もりの妹・亜矢子との二人暮らしだったが、亜矢子が多重人格の様子を見せ始め、彼を悩ます。その後、貴治がナイフで刺し殺され、根本の叔父も駅から突き落とされて電車に轢かれて死亡するという事件が起きる。果たして犯人は亜矢子なのか。
 多重人格というテーマの上に、語り手を分けた構成をとっているということから、最初から叙述トリックだなと予想できてしまったので、何かおかしいところはないかと気にしてばかりで、逆に物語の中に入っていくことができませんでした。そのうえ、冒頭登場する貴治の軽薄なキャラが鼻について、どうも話にのめり込めませんでした。あれこれ考えながらも、最後に明かされる事実には結局思い至らず、作者に見事に騙されましたが、それにしても、このトリックの前提となるある事実の設定があまりに強引な気がします。
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