2010年の本屋大賞、第31回吉川英治文学新人賞を受賞した作品です。
時代小説ということで手が伸びなかったのですが、今年の9月に岡田准一くんと宮﨑あおいさん主演で映画が公開されることもあって、ようやく読む気になりました。ところが、読み始めたら、どうして今まで読まなかったのだろうと思うくらい、これがおもしろくて、いっき読みです。
物語は、江戸時代に改暦に尽力した渋川春海の人生を描きます。将軍家の碁打ち衆4家のうちの安井家の跡取りとして生まれた春海が、碁以上に算術に魅了され、和算の開祖といわれる、あの開孝和に憧れて切磋琢磨していく中で、保科正之や水戸光圀にまで目をかけられるようになります。そんな春海に、誤差が目立つようになってきた、そのときまで800年間日本で使い続けられてきた宣明暦を改暦しようということになり、春海に白羽の矢が立ちます。
作品は、改暦までの22年間の春海の苦闘を描いていきます。改暦のためにすべてを投げうって尽力する春海や仲間たちの生き方に読んでいて感動します。また、保科正之や水戸光圀ばかりでなく、彼の周りの人物たち、礒村塾の村瀬義益、和算家である関孝和ら学問に生涯を捧げる者や本因坊家の道策のように囲碁に生涯を捧げる者、そして跡取りでありながら囲碁とは違うことに力を注ぐ春海を理解する義兄や義弟など魅力的な人物の登場に、読んでいて飽きません。その中でも何といっても一番魅力的なキャラは、最初の金王八幡神社の場面で春海を叱りつけた武家娘のえんです。物語の初めの段階で嫁に行ってしまうので、あれっと思ったのですが、心配することなかったですね。
読んでいる最中、映画でえんを演じる宮﨑あおいさんのイメージがずっと頭の中にありましたが、ぴったりです。 |