第12回日本ホラー小説大賞受賞作です。受賞作の「夜市」と書き下ろしの「風の古道」の2編が収められています。
ホラー小説大賞ということですが、ホラーという言葉から想像する恐ろしさより哀しさ溢れる作品でした。
余計なものが書かれない文章で、なぜ祐司はいずみを夜市に誘ったのかの説明も(いずみを売るためではないとは言っていますが)、そして唐突に出てくる永久放浪者の説明も何もありません。しかし、読みやすい文章で書き出しの1行目から読者はあっという間に異世界へと導かれていきます。かつて野球の才能と引き替えに弟を売った兄が弟を買い戻そうとする前半と、そして思わぬ事実が明らかとなる後半。見事に世界が転換します。ネタバレになるので書くことができないのが残念です。デビュー作とは思えないうまさです。
ラストは“買い物をしないと、ここからは出られない”という「夜市」のルールが上手くいかされていて、思わずジーンときてしまいました。
続く「風の古道」も異世界に迷い込んだ少年の物語です。こちらもあまりに切ない物語です。永久放浪者が登場しますので、「夜市」と同じ異世界を描いた話といっていいのでしょう。少年が主人公ですが、物語は彼に同行する異世界に住む青年の話がメインとなっています。彼の出生を巡る謎解きとともに、異世界の様子が描かれていてなかなか楽しめます。
「夜市」「風の古道」の世界にはすっかりはまりました。ぜひ、この世界に繋がる次作を期待したいですね。 |