第31回メフィスト賞受賞作。時が止まった校舎に閉じこめられた男女8人の高校生。不可解な謎を探る中で彼らは2ヶ月前の学園祭最終日に起こった自殺事件を思い出す。しかし、彼らには自殺した級友が誰かを思い出すことができない。果たして自殺した者は誰なのか。
僕はいわゆる青春ミステリーというジャンルが大好きです。それは、高校時代が僕の記憶の中では大学受験ということはありましたが、楽しい思い出がいっぱいで(もちろん、長い年月の中で記憶が美化されているかもしれませんが)、もう一度あの時代に戻りたいと思っているからでしょう。ただ、現実には戻ることができないから、その時代を舞台にした物語の中に自分を置いて、せめて本を読んでいる間だけでも高校時代の心を取り戻したいと思うのです。
物語は変則的ないわゆるクローズド・サークルの中で自殺したクラスメートは誰なのかという謎を中心に進んでいきます。一人また一人と姿が消えていくところは、クリスティの「そして誰もいなくなった」みたいな感じです。事件前後の状況がそれぞれの登場人物の視点で代わる代わる語られていきます。なかには、こんなこと、この物語には関係ないのではないか、これを書く必然性があるのか、余計なことが多すぎてあまりに冗長すぎやしないかと思ったのですが、作者には計算があったのですね。いろいろな伏線が張ってあり、振り返ると、なるほど、そうかと思わされました。しかし、あの結末であるなら、最初はかなり読者をミスリードしていて、ちょっと狡いのではないかなと思ってしまうのですが。
高校時代といえば、生活の全てが大学受験中心の中で、勉強はもちろん、恋愛、友人関係に悩むことも多い時代です。この作品でもそんな高校生の心の闇がそれぞれの歯車を狂わし、思いもかけない事件へと繋がっていきます。しかし、読んでいてうらやましくなってしまいますね。友人のいじめにあって、拒食症にまでなった深月をみんなが、それもクラスを引っ張るいわゆる優秀な生徒から、髪を染めて、進学校からははみ出しているような生徒までが、一緒になって支えあっていくのだから、こんな素晴らしい関係はないですね。現実はそんなに簡単ではないのでしょうが、僕らはやっぱりもう一度そんな時代に帰りたいと思ってしまうのです。
最後の方で本格ミステリのように読者への挑戦らしきものが挿入されています。これがテストの答案用紙みたいになっているのが高校を舞台にしているこの作品らしいですね。
ある作者インタビューの中で、辻村さんは「今のおじさま世代の方が高校生だった頃、きっと好きだったような女子高生も登場してきますよ(笑い)。」と言っていますが、おじさんの僕としては深月以外の女性三人はそれぞれ個性的で、好きになれるかなと思いますが、深月はちょっと僕には手に余るというか鷹野たちのようには支え切れませんね。 |