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津原泰水の本棚

  1. 蘆屋家の崩壊
  2. ルピナス探偵団の当惑
  3. ブラバン

蘆屋家の崩壊 集英社
 30代にして定職を持たない猿渡と「伯爵」と渾名される怪奇小説家のコンビを主人公とする7作からなる連作短編集。こうした趣の作品はホラーと言っていいのでしょうか。
僕自身はあまりホラー作品というのは読まないのですが、「このミス」で割と評判が良かったので、購入した作品です。表題作は誰でもわかるように、ポーの「アッシャー家の崩壊」からとられているのでしょうね。
 二人とも無類の豆腐好きというのが、ホラーの主人公には似合わない気がするのですが、作品の内容はどれも読んでいて怖さがじわりとくる感じです。特に最初の「反曲隧道」は猿渡と伯爵との出会いから始まる僅か6ページの掌編ですが、最後のラストの恐怖は見事です。

※ 文庫化にあたって「超鼠記」が加えられ、8作となっています。収録作品を1作増やすなんて、文庫も買えと言っているようなものです。ハードカバーの際におもしろくなければ買わなかったのですが・・・。集英社さん、やることがきたないぞ!と思ってしまう僕です。
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ルピナス探偵団の当惑 原書房
 私立ルピナス学園の生徒達が主人公の3編からなる連作短編集です。どうした理由かは、はっきり書いてありませんが、事件を解決したことによって警察官の姉の上司の若いキャリア官僚から、すっかり当てにされている吾魚彩子が主人公です。事件が起きると、彩子の元に話があり、彩子の友人のキリエと麻耶がそれに一緒にくっついていくという図式です。主人公を取り巻く、姉の不二子、キリエ、麻耶、そして彩子の片思いの祀島と、それぞれ強烈なキャラクターで、話を盛り上げて(?)いきます(特にキリエのキャラクターは最高です。個人的には大好きなキャラクターですね)。
 3編の中で一番おもしろかったのは最後の「大女優の右手」です。舞台で病死した女優の死体が楽屋から消え、トイレで発見された時には右手が切断されていました。なぜ、犯人は手を切断したのか? 全2作が少女小説文庫に書き下ろした作品を改稿したものだそうですが、3作目は書き下ろしということで、一番読みやすく、トリック的にも一番。最後の一行も印象的です。

※それにしても登場人物の名が吾魚(あうお)、祀島(しじま)、庚午(こうご)、勤野(ゆめの)、天竺桂(たぶのき)では、ちょっと簡単に読めません。特に天竺桂なんて、最後まで最初のルビのところに戻らないと読むことができませんでした。
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ブラバン バジリコ
 高校時代は吹奏楽部でコントラバスを弾いていた他片は、高校卒業から20年以上が過ぎた現在、赤字続きのスナックを経営している。そんな他片のもとに吹奏楽部の先輩桜井から当時の部員を集めてブラバンを再結成し、自分の結婚式で演奏をして欲しいと依頼される。
 高校時代の吹奏楽部の話と現在の話が混在して進みます。登場人物が30人以上ですが、本の帯に書かれた“群像劇”というほど、それぞれの人物が詳しく描かれているわけではありません。あまりに多くの人を登場させているので、せっかくの個々のキャラクターが書き切れていない気がします。冒頭で死が述べられる皆元や、ロックに傾倒する辻、引きこもりとなった幾田等々個性的なメンバーがいますので、彼らをもう少し書き込めばよりおもしろくなった気がしますが・・・。多くのメンバーをそれぞれ描くことによって、逆に散漫な感じになってしまったのは否めません。これは、高校時代の郷愁を描くのか、元部員のその後の人生の歩みを描くのか、それとも再結成の過程を描くのか、どれに重心を置くのかがはっきりしていなかったためでしょうか。
 今まで読んだ津原さんの作品とはまったく趣が異なります(とはいっても「蘆屋家の崩壊」と「ルピナス探偵団の当惑」しか読んでいませんが)。でも、なんだかんだいっても、こうした“青春小説”は、好きなんですよね。たわいもない恋愛や、ドタバタの合宿の様子、高校生だから許されるいたずらなど楽しく読むことができました。

※登場人物が多いこの作品で、最初に登場人物紹介のページがあるほか、別紙で登場人物紹介のしおりがついているのは便利でした。本の横にそれを置いておけば、「え?これは誰だっけ?」と思ったときにすぐ見ることができましたから。なかなかのアイデアでしたね。
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