高校時代クラブをやっていたわけではなく(一時世界史研究部などというなんだかわからない部に所属していたことはあったけど)、帰宅部だった僕は、まったく普通の高校生でした。しかし、作者の豊島さんのように「高校生活は暗くて無様なものでした」ということはなく、今振り返ると懐かしいと思う気持ちでいっぱいです。受験という大きな壁を前にして、きっと辛いこともあっただろうに、長い時間の経過は、そんな辛い思い出を削ぎ落とし、あるいは美化して、今ではもう一度あの頃に戻りたいなあという気持ちにさせます。この物語を読んで、僕が高校時代を振り返ってしまったように、この物語は、未来を見据えて過去なんて振り返る余裕のない若い人たちよりも、僕のような高校を卒業してウン十年という、もう若いとはいえない人の方が読んでいてグッときてしまうかもしれません。本当におすすめの作品です。
物語は、コンビニもないような田舎の町にある高校を舞台にした7編からなる連作短編集です。その高校に通う高校生だけではなく、高校生相手の売店の息子で司法試験浪人中の青年や、高校生下宿の娘、その高校の教師なども主人公にして、高校生の気持ち(あるいは高校生だったときの気持ち)を描いていきます。
7編の中では「ルパンとレモン」が一番好きです。中学時代に幼い恋心が芽生えた西と秋元の二人だったが、高校に入学して新たな出会いがある中で二人の距離は次第に離れていきます。彼女への思いを心の中に抱きながら何もできない西。そのうちに友人の佐々木が彼女のことを好きになってしまいます。積極的で誰にでも好かれる佐々木と自分とを比較してしまう西の気持ちが痛いほどよくわかります。好きな女の子の気持ちが友人に傾いていってしまうのを見るのは辛いというより、苦しいです。
「ラブソング」は、他人と関わりを持たないでいた女の子が、同じ音楽好きの男の子を好きになってしまう話。彼女にとってはちょっと辛い現実を味わうことにはなるけど、いいラストでしたねぇ。
最後の「雪の降る町、春に散る花 」は、「ルパンとレモン」の続編というべき話。ここでは西は舞台から去り、交際するようになった佐々木と秋元の別れが描かれます。好きな人よりも東京での生活を選択する秋元を非難することはできません。彼女にはこれから先の未来が待っているのです。それをわかって、彼女を見送らざるを得ない佐々木の気持ちを思うと辛いですね。泣かせます。 |