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十市社の本棚

  1. ゴースト≠ノイズ(リダクション)
  2. 滑らかな虹 上・下

ゴースト≠ノイズ(リダクション)  ☆ 東京創元社
 当初はキンドルの電子書籍として出版され、評判を読んでいた作品です。
 ただでさえ人見知りの性格の一居士架は高校入学後なかなか友人ができない日が続いていた。そんなある日、彼は大きな失敗をしたことをきっかけにクラスの中で孤立し、今では“幽霊”と言われ、級友からは無視される存在となっていた。そんな彼に席替えで前の席になった玖波高町が話しかけてくる。彼女からクラスメートには内緒で文化祭のクラス発表の調べ物を手伝わないかと言われた架は放課後の図書室で彼女と過ごすようになる。一方、学校内では動物の殺害死体が連続して発見される・・・。
 舞台はとある高校。そこでいじめの対象となっている主人公と、そのクラスメートの謎めいた行動を見せる女子高校生、さらには連続動物虐待死事件という設定に、青春ミステリの好きな僕としては、新人作家の作品であるものの、つい手にとって読み始めてしまいました。ネタバレのないように感想を書くのが難しいのですが、何度も作者に騙されました。「これは、こういうことになるのだろうな」と思うと、そのとおりに話が進んでいき、現れてくる事実に「ほら、自分はこんなことには騙されなかったぞ」と鼻高々だったのに、直後に目の前に見えていたものが、まったく異なる事実へ180度くるっと変わりました。見事に足元をすくわれました。ただ、高町と1つ上の男子生徒との話はこの物語に必要があったのかなという点は気になりました。
 ミステリらしい書きぶりはしているのですが、謎解きよりもその年代を生きる主人公たちの悩みや苦しみを描いた青春小説と言った方が適切かもしれません。“青春もの”が好きな人にはおススメです。
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滑らかな虹 上・下   東京創元社
 デビュー作の「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」がおもしろかったので、期待して購入したのですが、これはちょっと期待外れでした。
 まず読み終えて思ったのは、これはミステリというジャンルからは外れた作品だということ。上下巻540ページ弱の大作でしたが、上巻を読み終えても、事件らしい事件は起きず、小学校5年3組の日常が語られていくだけ。ただ、その学校生活の日常が、担任の柿崎が生徒に提案した「ニンテイ」と称したゲームによって支配されていく様子が描かれます。最後になって大きな事件が起こりますが、それまでは、この「ニンテイ」ゲームに翻弄される生徒たちの毎日が語られていくだけです。
 そもそも、担任の柿崎が、この「ニンテイ」ゲームをしようとした意図がまったくわかりません。この「ニンテイ」ゲームによって、クラスの中にグループができたり、それぞれが疑心暗鬼になったりしており、生徒にとって何らプラスになるものがありません。いじめを助長するだけになってしまうのではないかと考えなかったのでしょうか。実際に、いじめがゲーム感覚で行われたりしているのに、そして、その事実を把握しているにもかかわらず柿崎がこのゲームを止めなかった理由が理解できません。帯に書かれた「ねぇ先生。私たち、あの時どうすればよかったの?」という問いをさせる前に「ニンテイ」ゲームは止めなければいけなかったのです。柿崎は教師として失格以外のなにものでもありません。そして、その周辺の教師たち、この物語で重要な役割を与えられている田児先生も同じです。

(ここからちょっとネタバレ)
 結局、この「ニンテイ」ゲームは、それぞれの生徒の心に傷を負わせただけです。後半、子どもたちが、自分たちが許せないある大人を、この「ニンテイ」ゲームを利用して罠に嵌めようとしますが、そもそも子どもたちに糾弾された状況にいる大人が、子どもから挑発されて、彼らのいいなりに「ニンテイ」ゲームのルールを守って行動するなんてこと、普通考えたらあり得ないでしょう。現実の子どもたちなら、大人がそんなことに従うなんて思わないでしょう。あくまでも物語の中での作者の考えた子どもたちに過ぎません。
 「ニンテイ」ゲームを教師がどうして止めないのかという思いに加え、更に現実にはあり得ないということをあり得ることとして話が進んでいくので、物語の中に入り込むこともできず、読むのが苦痛でした。せっかく高いお金を出して買ったのだからという思いだけで読み通したというのが正直なところです。帯にある担当者の「正真正銘の傑作」という惹句は個人的には大いに疑問です。 
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