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知念実希人の本棚

  1. 屋上のテロリスト
  2. 神のダイスを見上げて
  3. レフトハンド・ブラザーフッド
  4. 硝子の塔の殺人
  5. 真夜中のマリオネット

屋上のテロリスト  光文社文庫 
 初めて読んだ知念作品です。
 校舎の屋上から飛び降りようとした酒井彰人に声をかけてきたのは、転校してきてからほとんど学校に来ていなかった佐々木沙希。彼女は、彰人にアルバイトをしないか、アルバイト代はアルバイトが終わった後で彰人を拳統で殺してあげることだという。そんな沙希の言葉に彰人は自殺を思いとどまり、沙希を手伝うこととするが・・・。
 舞台となるのは第二次世界大戦でポツダム宣言を受諾しなかったために、広島、長崎だけではなく新潟にも原爆を投下されたパラレルワールドの日本。その後の日本は西日本側の群馬、埼玉、東京と東日本側の福島、栃木、茨城、千葉との間に東西ドイツを隔てたベルリンの壁のように壁が築かれ、東は社会主義国家の東日本連邦皇国、西は自由主義国家の西日本共和国に分断されているという世界です。
 アルバイトをOKしたために、沙希と現金輸送車を襲ったり、核弾頭が備えられたらしいミサイルを購入したり、東日本連邦皇国の陸軍特殊部隊と出会ったりと、彰人の普通の高校生生活は大きく変わっていきます。文庫の帯には「あなたは100回騙される」と書いてありますが、そこはあまりに大袈裟というもの。沙希の行動の目的や着地点は読んでいる人ならだいたい予想が付いてしまいます。しかし、文章が読みやすいせいか、飽きることなくいっき読みでした。
 いくら高校生の沙希が西日本を代表する企業グループの会長の孫だとしても、そのトッブになるなんて、会社組織のあり方からしてもあり得ないことですが、もともと日本分新が絵空事ですから、それもありで、“もしもそうだったら”の世界を楽しむのが一番です。 
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神のダイスを見上げて  光文社 
(ちょっとネタバレ)
 この物語は、地球に小惑星「ダイス」が接近し、衝突するかもしれない日の5日前から始まります。
 母を病気で亡くし、父は職場の部下の女性と暮らす中、高校生の漆原亮は大学生の姉・圭子と二人でマンションで暮らしていた。しかし、その姉が何者かによって殺害されてしまう。姉が助けを求める電話をかけてきた時、恋人の家にいて電話に気づかなかった亮は、自分を責め、ダイスが衝突する前に自分の手で犯人を殺そうと決意し、クラスメートで危ない筋の娘である四元美咲から拳銃の売人を紹介してもらって拳銃を手に入れる・・・。
 ダイス衝突までの短い時間の中で犯人を捜すことができるのかというミステリーであるとともに、日頃話をしたこともなかった美咲との関わりの中で次第に彼女に惹かれていく青春小説でもあります。
  しかしながら、主人公・亮のあまりに思い込みが激しく、短絡的に行動をする姿に共感を覚えることができません。それに、クラスメートが、そして四元さえそう感じていたような姉弟の関係はちょっとなあと思ってしまいました。
 小惑星が地球に衝突するという設定は、映画では作中で触れられていた「アルマゲドン」があり、最近の小説では惑星衝突目前にしてまだ事件を追う刑事を描いたベン・H・ウィンタースの「地上の刑事」三部作や小惑星衝突を前にそれぞれ生きる人々を描いた伊坂幸太郎さんの連作短編集「終末のフール」が思い浮かびます。それらと比べると、この作品はいまひとつというのが正直な感想です。 
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レフトハンド・ブラザーフッド  文藝春秋 
 物語は高校生の岳士とその左手に宿った兄の海斗の逃避行から始まる。
 左手から亡くなった兄・海斗の声が聞こえると訴えたため、精神疾患の疑いで強制的に入院させられる直前に家出をして東京に向かった岳士。その途中、殺人事件に遭遇し、犯人として警察に追われることとなってしまう。容疑を晴らすためには真犯人を探すしかないという左手に宿った海斗の言葉に従い、岳士は被害者の部屋にあった違法ドラック「サファイヤ」を密売する半グレ集団の中に潜り込み、手がかりを得ようとする・・・。
 左手に宿った海斗は岳士の左肩までを岳士の意思に関わらず自由に動かすことができ、岳士とのみ会話をすることが可能ということが読者に示されますが、どうして海斗が左手に宿ったのか、そもそも海斗はどうなったかが最初に説明もなくストーリーは進行していきます。正直のところ、二人が選択する行動のひとつひとつが、なんて浅はかな行動だ、自分で真犯人探しができるわけがないだろう、全然現実味がないと思って投げだしそうになったのですが、海斗の意識がなぜ左手に宿ったのだろうという興味だけで読み進みました。
 やがて、海斗と岳士が双子で、事故で海斗が亡くなったことが語られますが、海斗に負い目を感じる岳士がサファイヤや美女におぼれたり、半グレの空手の使い手と闘ったりと、ハラハラドキドキのシーンが続き、ページを繰る手が止まらなくなります。ラストは一時はどうなるのかと思ったら、どんでん返しで、だいたいの予想通りの着地点となってホッとしました。
 結局最後まで海斗が左手に宿ったことへの合理的な理由は語られませんが、そこは大筋とは関係ない部分なんでしょうね。 
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硝子の塔の殺人  ☆  実業之日本社 
 本の帯に島田荘司さんや綾辻行人さんをはじめ、有栖川有栖さんらの賛辞が掲載されていたので、新本格ミステリ好きとしては読まないわけにはいきません。そう思う新本格ミステリファンが多かったのか、ようやく図書館の貸し出しの順番が回ってきました。
 ノーベル賞受賞も期待される有名な科学者であり、大金持ちの神津島太郎。大のミステリ好きで世界的なミステリーコレクターとしても知られる神津島は“硝子館”と呼ばれるいかにもミステリーの舞台となりそうな円錐形のガラスの塔を建てて住んでいた。その館に神津島から重大な発表があるとして、探偵、ミステリ作家、霊能力者、編集者、刑事が招待されて集まる。神津島の発表を間近にして、彼のかかりつけ医の一条遊馬は、ある理由から神津島が収集したふぐ毒を使用して、神津島を殺害し、部屋を密室にして自殺に見せかけようとする。時を同じくして周辺で雪崩が起き、館へ通じる道路が埋まり、電話も不通となり警察はすぐにはこれなくなってしまう。ところが、遊馬が関わらない第二、第三の密室殺人事件が起こり、遊馬は最初の事件も第二、第三の事件の犯人の犯行にしようと、探偵のワトソン役に名乗り出て捜査に加わる。
 クローズドサークルの中、奇妙な館での密室殺人ですから、ミステリファンにはたまらない設定です。自ら“探偵”という碧月夜が捜査を進めますが、彼女の口から古今東西の様々なミステリ、それもつい先頃のミステリ小説まで含めて話が出てきて、「あれはあの小説のことだな」とか「そういえば、あんなトリックだったな」と思い浮かび、ミステリ好きとしては読んでいて本当に楽しいです。そのうえ、ミステリファンとしては嬉しい密室、ダイイ、そして読者への挑戦もあります。ミステリの要素がてんこ盛りですね。
 個人的にはこの中で“名探偵”の矛盾のことが語られるのが興味深かったです。さんざん殺人が重ねられた後に「名探偵皆を集めてさてと言い」ではなく、一人が殺害された後にすぐに犯人を指摘するのが名探偵ではないかというのは、そのとおりですよね。何人も殺害された後にそれを解決すれば名探偵とは、おかしいですよね。
 最後はどんでん返しで真犯人が明らかになるのですが、これも想像できてしまう展開でしたが、ストーリーとしては面白くいっき読みでした。
 ただ、以下のこともあって評価は難しいですが、碧月夜の独特のキャラと様々なミステリの話に堪能し、いっき読みだったことからおすすめにできるかなという感じです。

(ここからネタバレあり)


 ただ、よく考えれば第二の殺人の際の火災が起きた理由は最初にその部屋の説明がある人物から述べられたときに想像ついてしまいましたし、第三の殺人での密室殺人の方法を月夜が暴いた時も、そんなにうまくいくわけがないだろう、これが正解ならあまりに読者を馬鹿にしているなと思う綻びが目立ちました。島田荘司さんの「斜め屋敷の犯罪」のようにはいきません。更に言えば、死んでいるかどうかわかりませんかねえ。少なくとも遊馬は医者ですよ。まあ、これはミステリ好きが高じて綾辻行人になりたいと思っていたけど、ミステリー書きとしては全く才能がなかった神津島が考えたものですから、やむを得ませんか。 
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真夜中のマリオネット  集英社 
(ネタバレあり)
 小松秋穂は臨海第一病院救急部の医師。ある夜、バイクの自損事故を起こした少年・石田涼介が運び込まれ、秋帆が治療にあたる。彼は、この一年頻発しているバラバラ殺人事件の犯人“真夜中の解体魔”であり、犯行現場から逃走を図り、警察に追われる途中で事故を起こしたという。それを警察から聞いた秋穂は、彼女の恋人が“真夜中の解体魔”の二人目の被害者となっていたことから、復讐のため涼介を殺害しようとするが、思い止まる。涼介は自分は冤罪だ、何者かによって現場に呼び寄せられたと主張する。果たして真犯人は別にいるのか・・・。
 主人公の秋穂にまったく魅力を感じることができません。恋人を殺害した犯人と思われる涼介を殺そうとするのはともかく、そんな憎しみを持ちながら涼介の美少年ぶりに心を動かされたり、あげくに事件に関連する場所に勝手に入ったり、ついには人を傷つけたりと、医者でありながら暴走しまくりです。賢い女性とはまったく思えません。そのうえ、冤罪だと主張する涼介にしても、その言動に嫌悪を感じてしまうばかり。偽悪的に演じているようには見えないんですよねえ。いい年齢をして母親のことをママ呼ばわりはないでしょう。魅力的な登場人物としては、「髭女王の館」のマスター、紅くらいですか。
 ラストの種明かしの展開も、最初からそうくるんだろうなと予想ができましたし、更にその先のどんでん返しも、やはりここに着地したかという感じです。 
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