▲トップへ   ▲MY本棚へ

天藤真の本棚

  1. 遠きに目ありて

遠きに目ありて 創元推理文庫
 5話からなる連作短編集です。成城警察署の真名部警部が話す事件の内容を聞いた脳性マヒの少年・岩井信一が事件の謎を解く、いわゆる安楽椅子探偵もののミステリです。警察しか知らない事件の内容を関係のない少年に話してしまっていいのかということは横に置いておきましょう。
 団地の4階のベランダで息絶えた男。団地の庭でバレーボールをしていた被害者の妻たちが目撃した女性の姿形は全員の証言がくい違っていた(「多すぎる証人」)。東京の同窓会の会場から忽然と姿を消した男は、遥か離れた長野の湖で死体となって発見される。昔の交際相手に女性に手切れ金を渡しに行ったはずの男がなぜ東京で同窓会に出席していたのか(「宙を飛ぶ死」)。暴力団との癒着を問われて刑事から降格された警官は、自分の無実を証明する男を見つけて後を追うが、その男はアパートの部屋で絞殺されているのが発見される。事件のあった―角から犯人らしき人物が逃走した様子はなく、いったい犯人はどこに消えたのか(「出口のない街」)。甥に殺されると警察に相談に来た女性。女性に依頼された探偵がアパートの自室にいる甥を見張っている間に女性が殺害される。果たして犯人は誰なのか(「見えない白い手」)。暴力団員に脅迫されていた元俳優とその娘。ある日、元俳優の家で暴力団員の他殺死体が発見されたが、元俳優はアリバイを主張し、それを証言するのが山の中で会ったマタギと浮浪者だという(「完全な不在」)。
 どの作品も、ラストの謎解きがちょっとあっさりしすぎという感がします。5編の中では、冒頭の「多すぎる証人」の謎解きが一番なるほどなあと納得です。ラストの「完全な不在」は張ってある伏線が見え見えで、謎解きが予想できてしまいました。
 作品中に事件の謎を解いた信一を表彰したいが、警察署の入り口は階段であるからうんぬん・・・と、障害者に理解がない現実が語られていますが、この作品が書かれたのは1976年。あのころは公共施設の入口にスロープもなかったし、車イスごと乗れる車もなかったのでしょう(作品中では特別に改造しています。)。ミステリ作品ですが、こうした事実を語ることにより、障害者に対する当時の優しくない状況を暗に批判した作品ともなっています。
リストへ