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天童荒太の本棚

  1. 永遠の仔
  2. 包帯クラブ
  3. 包帯クラブ ルック・アット・ミー

永遠の仔 幻冬舎
 かつて同じ小児精神科病棟に入院した過去を持つ3人の男女、久坂優希、長瀬笙一郎、有沢梁平が17年後に運命的な再会をする。彼らは、それぞれ現在では看護婦、弁護士、警察官になっている。物語は17年後の現在と入院中の回想シーンが交互に並行して展開していく。過去の事件の謎、そして現在の彼らの周辺で引き起こされる殺人事件。読み進めるにつれてぐいぐい物語に引き込まれていく。
 幼い頃それぞれ、親からの虐待を受けていた3人の子供たち。17年前、世界から見捨てられたと信じている彼らの身に果たして何があったのか。そして、現在で起こる事件は過去と関係があるのか。
 単に児童虐待とかトラウマという言葉だけでは、この小説を語りきることはできないだろう。現在子供の親として、この小説は僕の前に大きな課題を突きつけているような気がする。果たして僕の子供の育て方は間違っていなかったのか。僕の不用意な行為が子供たちの心の中に大きな傷を負わせることはなかったのか・・・。
 結末は後味よいものではない。読み終わっても心の中に重石を置かれたようである。しかし相変わらず、世間では幼児虐待による子供の死が毎日のように報道される。自分の子の命を自らの手で奪ってしまうというのは、いったいどういうことなのであろうか。
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包帯クラブ ちくまプリマー新書
 心に傷を負っている人に代わって、傷を負った場所に行って、そこに包帯を巻くという「包帯クラブ」を作った少年少女たちの物語です。人が受けた傷に向き合い、自分がそれをどう感じ取ることができるかをテーマに彼らが悩みながらも行動していく姿を描いていきます。
 天童さんの6年ぶりの書き下ろしでしたが、期待していたほど、いまひとつ物語の中に入って行くことができませんでした。帯には感動的な物語と書いてありますが、そうかなあと思う程度。どちらかといえば、登場人物の1人が言うように、傷を受けた場所に包帯を巻くことだけでほっとするなんてことは、ほとんど考えられないし(そんなことくらいでほっとするなら、最初からそんなに傷つかないと思ってしまうのです)、それをする人の自己満足に過ぎないと思ってしまうのです。登場人物の1人ディノが、服を着るものがない人やごみの山の近くで住む人、泥水を飲むしかない子と同じ気持ちになるために傍から見ると奇妙な行動をとるのも、まったく理解できないですしね。
 時々挿入される「○○報告」によって、包帯クラブの面々がそれぞれ地元でそして世界で活躍している様子が伺えますが、それもそんなに自分の考えを貫いて生きていけるのかなあと思ってしまうのです。結局この本は、既に人生で嫌なことを見すぎてきた僕らのような中年が読むより、これからを希望を持って生きる若い人たちが読んだほうがいいのでしょう。素直に感動できない自分が悲しい。
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包帯クラブ ルック・アット・ミー  筑摩書房 
 心に傷を負っている人に代わって、傷を負った場所に行って、そこに包帯を巻くという「包帯クラブ」を作った少年少女たちの物語の16年ぶりの続編になります。前作は読んでいたのですが、続編と言っても16年ぶりですから、前作の内容はすっかり忘れてしまっていました。
 この作品では包帯クラブのメンバーの高校2年から3年のときの出来事と彼らが大人になって社会へ出た現在のことが交互に描かれていきます。市中の様々なものに包帯を巻きつけたことによるメンバーそれぞれに起きた波紋と、包帯を巻く代わりにバンドを組んで音楽演奏を始めたメンバー、更にバンドメンバーに加わった韓国人のミンジョンに降りかかる+ヘイトの問題、そして彼らが仲良くなった支援学校の生徒との交流が描かれる高校時代に対し、現在のパートでは、前作でも登場人物たちの地元や世界での活躍が「〇〇報告」という形で語られていたのですが(それもすっかり忘れていました。)、この作品ではそれがはっきりと描かれます。国際医療団で看護師をするワラ、世界をまたにかけたフォトジャーナリストとなったディノ、国際弁護士となったテンポ、有機農業を営むリスキ、LGBTQや障害者への差別反対の市民運動を行うシオ、そして包帯クラブの活動の連絡役をするギモと、高校時代の思いを体現している彼らが姿が、紛争地帯で行方不明になっているディノとそれを心配するワラを中心に描かれていきます。
 包帯クラブが現在では“バンドエイジクラブ”として世界的にも存在を知られており、メンバーがそれぞれ世界に羽ばたいている姿が凄いし、羨ましいです。前作を読んだときに大人になっても高校時代の考えを貫いて生きる彼らの姿に素直に感動できないのが悲しいと書きましたが、やっぱり今も同じですね。 
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