初めて読んだ日明恩(“たちもりめぐみ”なんて読むことができませんよね。)さんの作品です。
死者を見ることができる少年と心に傷を負った元刑事との話です。ホラーではない、幽霊が登場する話というのは以前から大好きなジャンルです。物語中に少年がレンタルビデオ店で借りるDVDの題名として「天国から来たチャンピオン」や大林監督の「ふたり」などファンタジックな幽霊映画が登場しますが、これらも大好きな映画。「天国から来たチャンピオン」が出てきただけで、この作品への評価はアップです。
幽霊を見ることができる少年ということからすぐ思い浮かぶのは映画の「シックス・センス」です。あの映画も幽霊を見ることができる少年と男との話ですから、設定としては同じです。この物語では、二人が出会うきっかけは、元刑事が働くレンタルビデオ店で、少年が「シックス・センス」の並ぶ棚の前で涙を流していることからでした。
物語は、少年が死者が見えることを知った元刑事の須賀原が、少年と一緒に何らかの理由があってこの世に残っている死者の謎を解き明かして、死者をあの世に送ってあげる話です。涙腺の弱い僕としては、死者たちの抱えるストーリーに思わずグッときてしまいました。虐待されていた犬の話や7歳で池に落ちて死んだ女の子の話は特にいけません。
ただ、派遣の女性の幽霊の話だけは別です。この話が挿入されることで、単なるお涙頂戴の話になっていないのがいいですね。
最後は須賀原の心に大きく傷となって残っていた事件のことが描かれます。一人の人間の死に対し、自分を責める者、他人を責めることで心の決着をつけようとする者、それぞれの苦しみ、悲しみが少年の働きで癒されていきます。切ないけれど、ホッとするラストです。
肝心の少年自身の選択した道は、彼にとっては決してハッピーエンドではありません。ただ、須賀原に会うまでは俯き加減で歩いていた彼も今後は前を向いて生きていくことができるのでしょう(幽霊が見えるという現実は変わりませんが)。 |