| 宰相Ａ | 新潮社 |
| 初めて読んだ田中慎弥さんの作品です。主人公はＴというイニシャルの、いかにも作者自身を思わせる作家です。 このところ、作品が描けないＴが母の墓参りを題材に作品を書こうと、故郷に向かう電車に乗る。途中で眠ってしまい、駅について目を覚ますと、そこは英語を話すアングロサクソン系の人間たちが「日本人」である世界だった。この世界では第二次世界大戦後、アメリカ人が移住してきて日本人に代わって統治をし、元々の“日本人”は、「旧日本人」として「居住区」で抑圧された生活を送っていた。ただし、首相だけはＡと呼ばれる「旧日本人」であり、彼はアメリカと一体となって戦争を積極的に推進し、「我々は戦争の中にこそ平和を見出せる」のだと人々を煽る。そんな世界で「旧日本人」の間で伝説的な人物であるＪに顔がそっくりだったＴははからずも「日本人」と「旧日本人」との争いの渦の中に巻き込まれていく。 ， ・ 「日本人」はみな一様に緑色の軍服のような服を着て、手を挙げる挨拶をし（まるでナチスみたいです）、芸術活動も認可を得なければ行えないという、自由の国アメリカ人の出身者が統治しているのにも関わらず、まるで全体主義のような国という設定が恐ろしいです。ひたすら紙と鉛筆を求める主人公がどこか滑稽に感じられます。ラストの拷問のシーンはあまりに残酷です。救いようのないラストでした。 傀儡である宰相Ａは、某首相を念頭に置いて書かれているのでしょう。イニシャルからして、あの人がモデルだと思うのは間違いではないでしょうね。そう思うと、今の政治の動きがちょっと怖くなります。 |
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