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瀧羽麻子の本棚

  1. ありえないほどうるさいオルゴール店

ありえないほどうるさいオルゴール店  幻冬舎 
 北海道の小樽にあるオルゴール店を舞台にした連作短編集です。7編が収録されています。
 そのオルゴール店では、心の中に流れている曲が聞こえるという30歳台半ばの店主が、訪れた客のために、客たちの心に流れる音楽をオルゴールにしてくれます。物語はその店を訪れた7人の男女、耳の聞こえない幼い息子に手術を受けさせるかどうか悩む母親(「よりみち」)、一緒に暮らしている女性が見合いをしに実家に戻るのを止められなかった男(「はなうた」)、大学時代打ち込んでいたバンドを卒業に際し、やめることにした3人の女性(「おそろい」)、漁師を嗣がないことで死ぬまでわかり合えなかった父の一周忌に故郷に帰る息子(「ふるさと」)、絶対音感を持つことで母親が過剰な期待を持つことに苦しむ娘(「バイエル」)、アルバイトをする喫茶店の向かいにあるオルゴール店の店主が気になる娘(「おむかい」)、脳卒中で倒れた妻がカレンダーに残した印が気になる夫(「おさきに」)のそれぞれの心の中が語られて行きます。
 心の中に流れる音楽が聞こえる店主のことは、詳しくは語られません。ファンタジーですが、店主の能力の部分は物語としては単にきっかけにとどまります。どうしてこの曲を?と、追及する客はいません。どの物語も、それほど大きな起伏もなく、静かに進んでいきます。果たして、このあとどうなるのだろうと読者に思わせたまま終わるものもあります。
 どれも読後感はいいですが、個人的な一番は、ラストの「おさきに」です。この夫婦のように晩年を過ごすことができたら幸せですね。 
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