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竹吉優輔の本棚

  1. 襲名犯
  2. レミングスの夏
  3. ペットショップボーイズ
  4. たったひとつの冴えない復讐

襲名犯 講談社
 第59回(2013年)江戸川乱歩賞受賞作です。14年前に関東の地方都市で起きた連続殺人事件。当初、事件の概要がルイス・キャロルの「スナーク狩り」の内容に似ていたことから、そこに登場する怪物「ブージャム」が犯人の呼称となる。犯人・新田秀哉は6人を殺害後逮捕されたが、容姿端麗な新田には熱狂的な信奉者も生まれるなか、逮捕から14年後、ついに死刑が執行される。ところが、死刑執行後、ブージャム事件を模倣した事件が発生し、現場には「ブージャム」を名乗る血塗られた落書きが残される。地元の図書館の司書として働くブージャムの最後の被害者、南條信の双子の弟、南條仁も否応なく事件の渦中に巻き込まれていく・・・。
 ブージャムは死体をある理由から損壊しているのですが、その理由は明らかにされていません。模倣犯も同様に損壊をしているのですが、師匠とはその理由が違うところがこの作品のミソです。
 ともあれ、題名の「襲名犯」は単に模倣犯ということではなく、新田を師匠と仰ぐ弟子による殺人犯の襲名ということなのでしょうが、正直のところ、この新田という男が容姿端麗はともかく、それほど熱烈な信奉者が生まれるほどのキャラなのかが描き切れていない嫌いがあります。まったくの精神異常者以上の者に想像することができないところが、この作品に高得点を付けることができない点といえます。。
 また、乱歩賞の選考委員の東野圭吾さんも選評で述べていますが、「そもそも『ブージャム』というのが殺人鬼のニックネームとして魅力的だろうか」という点についても、ささいなことでしょうけど、新田という連続殺人犯に魅力(?)を与えられないひとつの原因かもしれません。
 ストーリー的には、叙述のトリックのような部分もありますが、ミステリを読み慣れている人は騙されることはないでしょうし、犯人についても想像できてしまうかもしれません。
 まあ、それにしてもそもそもの事件の原因ともなるべき、養子にもらった双子の片割れが死んだから、残った一人をまた養子にするという、子どものことなど考えない縁組があるんでしょうかねえ。
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レミングスの夏 講談社
 江戸川乱歩賞受賞後第一作です。ナギ、アキラ、モトオ、ヨーコ、ミトの小学校時代からの仲間が中学二年生の夏に実行した誘拐事件を描いていきます。
 題名にある「レミングス」とは彼らが計画を実行するに当たって名付けたチーム名です。「レミング」は和名が旅鼠で、かつては集団自殺をすると考えられていましたが、事実は泳ぎはうまく、集団で海や川を渡るそうです。名付けたアキラも集団で新天地に向かうという意味で付けたようです。
 彼らは同じ学校に在学する市長の娘を誘拐・監禁し、市長に対し鉄塔撤去工事の延期や市営プールの無料化など6つの要求を突きつけます。これだけだと、何だか純粋な若者たちと汚い大人の戦いという感じのほわっとしたストーリーになってしまいますが、実はこれとは別にある計画が進んでいるところが、単なる中学生たちの青春物語に留まらないところです。その辺りが、“ハサミ女”の都市伝説や小学校二年生までは友だちだったのに今は不良となっているヒカルの登場を伏線として読者に何かあるぞと語りかけています。
 また、この6つの要求も単なる正義感か何かからかと思ったら、それぞれがある思惑を秘めたものになっているとは・・・。なかなかここは竹吉さんも考えましたね。
 中学二年生たちの起こした誘拐事件に、ここまで警察が対応できないのかという点はありますし、最後の決着も彼らの思惑通りというのはいささか警察情けないとは思いますが、少年たちの青春物語という点ではそれもありでしょうか。エピローグなんてグッときてしまいますよ。
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ペットショップボーイズ  光文社 
 巨大ホームセンターの中にあるペットショップを舞台に、そこでアルバイトをする南学人の周りで起きる事件を描く連作短編集です。
 小学生の瑠璃ちゃんは母親の仕事が終わるまで間、ペットショップで時間を過ごす常連さんだったが、ある日、気に入っていたインコのルリが瑠瑞ちゃんに向かって突然、「ルリ、シネ」と連呼する。いったい誰がルリに暴言を教え込んだのか(「ペットショップボーイズ&リトルレディ」)。
 人員不足を補うためにやってきた新入社員の鹿田だったが、「ペットショップは大っ嫌い」と言い放ち、学人たちと打ち解けようとしない(「ペットショップボーイズ&ナーバスキャットウーマン」)。
 青森に遊びに行ったカップルが、そこで捕まえたキツネを持ち帰ったあげく地元で離してしまう。それをツイッターに書き込んだことから大騒ぎに・・・(「ペットショップボーイズ&フォックス・イン・レイニーデイ」)。
 最近顔を見せる大柄な男性客。何かを買うわけでもなく、店の中を彷徨っている彼にストーカー疑惑が・・・(「ペットショップボーイズ&アンフィビアンラブ」)。
 幼い頃から自分に無関心の父親を嫌って実家に帰ろうとしないバイト仲間の幸多。彼を気遣って実家に帰るように言う店長の柏木と言い争いになるが・・・(「ペットショップボーイズ&サモエド・スマイルズ」)。
 大学3年生となり、就活を前にして、学人は自分に自信が持てないでいた。そんな学人の様子を撮ったと思われるビデオが、意識の低いペットショップの店員としてネットに流される(「ペットショップボーイズ&ロンリネス・アニマル」)。
 ミステリー作品というよりは、ショップの人間関係や店員の恋愛問題、親子間の確執等々が描かれており、ペットショップを舞台にしたホームドラマといった方がいいかもしれません。最後に置かれた「ペットショップボーイズ&ロンリネス・アニマル」は、自分は何もできないと悩む主人公・学人の成長物語とも言えます。
 その中でミステリー色が強いのは冒頭の「ペットショップボーイズ&リトルレディ」です。ただ、登場人物が少ないので犯人を予想するのは簡単です。他の作品が爽やかなラストを迎えるのに対し、この作品だけは事件は解決するものの重苦しい雰囲気の残るラストとなっています。
 時々勣物たちの様子を見に来てくれる獣医の瀬川先生は、もう少し登場場面を多くして欲しかったキャラです。 
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たったひとつの冴えない復讐  ☆  講談社 
(ちょっとネタバレ)
 高校2年生になったときに努力が実って普通クラスから特進クラスヘと編入した和泉七生。ある日、登校すると教室の黒板にQRコードが印刷された紙が貼られており、それを読み取ると、闇と名乗る人物が1年時にクラス内で起こったいじめを糾弾する映像が流れる。誾はひとりの女子生徒がクラスの中でいじめに遭ったことをSNSで拡散するという。 ただその前にわからなかったことを教えてほしいと、1年時にはクラスにいなかったため、いじめに加担していない七生は闇から謎解き役に指名される。最初は「彼女のバラを折ったのは、誰?」、次は「髪を切ったのは、何故?」、そして「破壊したのは、誰?」。
 果たして闇とは何者なのか。主人公というべき七生にも隠された苦悩があり、現在夜尿症という病気を抱えており、彼の悩みはどこにあるのかも読みどころとなっています。積極的にいじめに加担する者、自分は手を下さないがいじめを面白がって見ていた者、あるいは見ない振りをしていた者等それぞれいじめへの加担の差はあるが、闇から投げかけられた問を解いていくうちに、七生はクラス内に、いじめを裏から操っていた黒幕がいることに気づきます。黒幕については、よくあるパターンなので誰かは想像がつきますし、実際その通りだったのですが、恐ろしいほど陰険です。
 竹吉さんは、更にどんでん返しを見せますが、これにより救いのあるラストとなっています。
 なお、題名はジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著「たったひとつの冴えないやりかた」(ハヤカワ文庫SF)から取られているようです。 
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