▲トップへ    ▲MY本棚へ

竹内真の本棚

  1. 粗忽拳銃
  2. 自転車少年記
  3. 風に桜の舞う道で
  4. 文化祭オクロック
  5. イン・ザ・ルーツ
  6. 図書室のキリギリス
  7. 図書室のピーナッツ
  8. 廃墟戦隊ラフレンジャー
  9. 図書室のバシラドール

粗忽拳銃 集英社文庫
 竹内真のデビュー作にて、小説すばる新人賞受賞作です。デビュー作ですが、次の作品も読んでみたいと思わせる出来になっています。
 前座の落語家、自主制作映画の監督、目のでない劇団俳優、修行中のフリーライターという、まだ、世間で一人前と認められていない4人の男女が、本物の拳銃を拾ったことから始まる物語です。4人とも人生に今ひとつ伸び悩む部分を抱えていたのですが、拳銃を拾ったことをきっかけにそれぞれ成長していくというストーリーです。最後に拳銃を巡る争奪戦があったりするのですが、それほど深刻な書きぶりではなく、拳銃という小道具を使いながらサスペンス、ハードボイルドとは異なる4人の成長記とでもいう話となっています。
 「粗忽拳銃」というのは、もちろん作品中にも出てくる落語の「粗忽長屋」から取ったのでしょうが、題名からも深刻さは感じられませんね。それにしても、「寿限無」から「銃ゲーム」とはよく考えたものです。
リストへ
自転車少年記 新潮文庫
 思えば自転車に乗れるようになったのは小学校1、2年生の頃でしょうか。近所の同級生たちがみんな乗れるようになったのがうらやましくて、一人で転びながら練習したことを思い出しました。補助輪がなくて乗ることができたときの喜びといったら、今でも心の片隅に残っています。乗れるようになると世界は一変。行動範囲も拡がって学校から帰ると、さっそく自転車に飛び乗って出かけましたっけ。
 この物語は、そんな自転車に魅入られた主人公の人生の歩みが描かれていきます。高校卒業後、東京の専門学校に入るに当たって、故郷の千葉から友人たちと自転車で東京に向かうところから物語は始まります。主人公と同じように自転車に魅入られた友人との友情、恋人との諍い、そして仲直り、就職、結婚、子供の誕生。それらの出来事の横には必ず自転車があります。時間の経過が早いので、その時々の出来事の語られ方が物足りないという嫌いがしないではありません。しかし、僕自身も親ですので、子供が自転車に乗ることができるようになる場面には自分が幼い子供と一緒に練習したときのことを思い出して感動してしまいました。
 解説を読むとこの作品は、ハードカバーの文庫化ではなく、新たな書き下ろしと考えた方がいいそうですね。
リストへ
風に桜の舞う道で 新潮文庫
 大学受験に失敗して予備校の寮で浪人生活を送ることになったアキラ。それから10年後、予備校時代の友人リュータが死んだという噂を聞き、アキラはその事実を確かめるためにかつての寮仲間を訪ねて歩きます。物語は、寮生活の1年間と現在の仲間たちの様子を交互に描きながら進んでいきます。
 ここで描かれる若者たちは、浪人とはいっても希望校が東大や早稲田、慶應といういわゆる一流どころの大学。そんな大学を目指す彼らはエリート然の鼻持ちならない若者かと思っていたのですが、竹内さんが描いた彼らは何ら他の若者と変わりのない当時を生きる等身大の若者でした。浪人という宙ぶらりんな状態にありながらも、それぞれの目標を見据えて一所懸命生きる登場人物たちの姿に思わず青春だなあと自分の若い頃を思い出しました。
 10年後の現在、自分が望んだとおりの人生を歩んでいる者、挫折しながらも再度人生に挑戦していこうとする者など現実の厳しさの中で、ここに登場する青年たちはみな前向きに生きており、非常に爽やかな青春小説になっています。
リストへ
文化祭オクロック 東京創元社
 高校の文化祭を舞台にした青春ミステリです。とはいっても、血なまぐさい殺人事件が起きるわけではなく、文化祭の最中に流れるFM放送のDJネガポジの正体は誰か、遙か昔、雷の直撃で動かなくなった時計台の時計(なんだか、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいですね)を動かそうとする行為には何か目的があるのかという話を中心として、高校野球のエース、その彼が一方的に恋する勝ち気な美少女(やっぱり青春ものには勝ち気な美少女が登場しないとね。)、ミステリー好きな文学少女、機械オタクな男子生徒、そして学園ドラマには定番の嫌みな教師に高圧的な体育教師等が登場し、今どきの高校生の文化祭初日の様子が描かれていきます。
 あ〜、学園祭って楽しかったよなあ。クラス対抗の発表にも燃えたし、そしてなんといっても最終日のファイヤーストームの周りで踊ったフォークダンス・・・。等々昔のことを思い出しながら読みふけりました。
 ただ、話の内容としては(ネタバレになるので詳しく書くことができませんが)、今回の騒動を考え、そして陰湿ではなく明るく実行に移すことができ、また、それを手伝うほどその人物のことを考えてくれる友人もいるという事実が、その生徒が置かれている状況とうまくかみ合わない(そんな状況に陥るわけないだろう)と思ってしまうのですが・・・。
リストへ
イン・ザ・ルーツ 双葉社
(ちょっとネタばれ)
 プロのトランペット吹きの多々良三四郎。ある日、彼は、3人の孫に自分の形見だと根付けのコレクションの中からそれぞれ1つを選ばせます。それぞれの根付けが持つ物語を解き明かすようにと言って三四郎はラスヴェガスに旅立ちますが、その後、アメリカで墜落した飛行機の乗客名簿に三四郎の名前があり、墜落現場から焼けこげたトランペットケースが発見されます。物語はそれから3年後、7年後、12年後、3人の孫たちが根付けの謎を解き明かしていく様子とともに、彼らの成長を描いていきます。
 3人の孫の性格が異なり、根付けが持つストーリーを解き明かす過程も3人の孫それぞれの性格を反映しています。さらに言えば、選んだ根付け自体の持つストーリーが3人の孫の性格にぴったり合った感じがします。根付けの謎を解き明かすことが、題名にもある彼ら多々良家の“ルーツ"を明らかにすることになる多々良家物語となっており、なんと明治時代に起こった彼らの先祖が関わった殺人事件の謎を解くことにもなるという贅沢なストーリーになっています。根付けの謎から多々良家のルーツの謎へと向かうストーリー展開は見事です。
 多々良家のルーツが明らかになることにより、すでに亡くなった妻を三四郎がどれほど愛していたのかという理由も明らかとなり、ちょっとホロッとさせられます。多々良三四郎というキヤラクターが飛び抜けていて、できればもっと三四郎の出番があればなあという残念な気もします。
 「お!ついに解けたか。よくやった。」と3人の孫の前にひょっこり現れて欲しかったなあ。
リストへ
図書室のキリギリス 双葉社
(ちょっとネタばれ)
 カメラマンだった夫が突然失踪し、3年が過ぎて離婚が成立した詩織。今後の生活のことを考えて、親友の教師から話のあった学校司書に応募し、採用されてからの1年ちょっとの間の出来事を描く、連作短編集です。
 物に刻まれた思いを読み取ることができる能力を持ったいわゆるサイコメトラーの詩織。舞台が高校の図書室で、サイコメトラーが主人公ということで、当然、その能力を使って学校の図書室を舞台にして起こる様々な事件を解決する話かと思ったら、予想外の展開。その能力があまり使われることはありません。
 また、前任の司書の突然の辞職が、この作品全体を通した大きな謎として最後に明らかにされるかと思ったら、2話目であっさりと理由がわかってしまいます。事務長たちがその理由を隠しているようだったので、その背景には不穏なものがあるのかと思ったのですが、そこには、ミステリとしての謎解きというほどのものはありません。学校司書という不安定な職業の問題とともに俎上に上がったある事実も、結局はうやむやのままです。
 夫の失踪の理由も自然に明らかにされましたし、読む前に思っていたSFが少し入ったミステリという予想は完全に裏切られました。それより、図書室に来る生徒の成長と彼女自身も前向きに生きていくようになる様子を描いた話といった方がいいかもしれません。
リストへ
図書室のピーナッツ  双葉社 
 「図書館のキリギリス」に続く、高校の図書室に勤務する司書の詩織を主人公にした連作集です。詩織は物に触れた者の心の動きを読み取ることができる能力を持つ、いわゆる“サイコメトラー”。ただ、前作でもそうでしたが、今作も詩織がサイコメトラーの能力を使って謎を解き明かしていくということが主体の話ではありません。
 4つの話が収録されていますが、サンタクロースが実在するという記事が載っていたどこかの国の新聞を探す話や、“朝寝朝酒朝湯が大好きで、それで身上つぶした”の小原庄助さんの正体を調べる話、村上春樹の「1973年のピンボール」の中で言及されていたスヌーピーのことを探す話など、どれもが図書館のレファレンスサービスを使ったり、自ら調べるなどして謎が解き明かされる話となっています。図書館をうまく利用すれば、いろいろなことがわかるという、ある意味、図書館の魅力を語った作品と言えるかもしれません。
 サイコメトラーとしての詩織の能力は、第三話の「ロゼッタストーンの伝言板」の中でロゼッタストーンの写真に込められた思いを読み取ることに使われます。謎解きではなく、これからの詩織の人生を左右する写真に込められた思いが今後どうなっていくかは気になります。
 作品中に、筒井康隆さんの「七瀬ふたたび」や村上春樹さんの「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」等が登場してくるのも本読みとしては嬉しいところですね。 
 リストへ
廃墟戦隊ラフレンジャー  双葉社 
  物語は、大学生の頃、演劇サークルで新入生の発表をするときに同じグループになった5人の男女が、ちょうど5人だから戦隊ものをやろうと始めた“寸劇戦隊ラフレンジャー”での彼らの活動を描く過去のパートと、卒業から10年が過ぎてメンバーの二人が偶然出会ったことから、再びラフレンジャーとしてみんなが集まって撮影をしようということになる現在のパートが交互に描かれていきます。
 スーパー戦隊シリーズ第1作の“ゴレンジャー”が放映されたのは昭和50年ということですから、個人的には年齢的に夢中になる歳ではなく、5人の色の異なるコスチュームを着たヒーローたちが活躍する子ども向けのテレビ番組だという認識しかありません。でも、それから延々と今に至るまでシリーズが続いているのですから、凄いとしか言いようがありませんね。
 大学の演劇サークルで「戦隊もの?」という気がしないではありませんが、彼らの年代にとっては5人となれば“戦隊もの”がすぐ頭に浮かぶものなのでしょう。それぞれの性格からレッドは誰、ブルーは誰と決まっていくところは子どもの頃の遊びと変わりはありません。それぞれ性格が異なるキャラが力を合わせて悪に対峙するというところがいいのでしょう。僕らの小学生の頃は戦隊ヒーローものはまだありませんでしたが、テレビドラマの“遊撃戦”という7人の兵隊の物語があり、その7人に扮して遊んでいた覚えがあります。ラフレンジャーもそうでしたが、不思議とドラマの役柄の性格と同じような性格の同級生がその役に扮したものでした。
 現在のパートで、彼らは現実の事件に遭遇することになります。本当のヒーローではない彼らが“ラフレンジャー”として、“悪”にどう立ち向かっていくのか。ラストはできすぎという気はしますが、やったなあという満足感もあり、子どもの頃スーパー戦隊シリーズに夢中になった人たちには読後感は最高でしょう。
 リストへ
図書室のバシラドール  双葉社 
高校の図書室で司書として働く高良詩織を主人公とする「図書室のキリギリス」、「図書室のピーナッツ」に続くシリーズ第3弾です。
 直原高校図書室での勤務も2年目となり、詩織は“なんちゃって司書”からきちんと司書資格を取るべく通信教育を始めます。物からそれを触った人の思いを読み取ることができる特殊能力を持つ詩織ですが、今回もその能力を発揮して事件を解決するという場面はありません。詩織の特殊能力はもう物語の前面には出てきません。それよりも、本を巡っての人間模様が語られる物語と言った方がいいかもしれません。
 物語は三話から成り立っています。第一話の「夏休みのバシラドール」は、夏休みに親に黙って旅に出た生徒の行方を彼が借りた本から推理するストーリー、第二話の「文化祭のビブリオバトル」は、文化祭でビブリオバトルをやりたいと生徒たちが奔走するストーリー、第三話の「来年度のマジックシード」は、図書室のノートに書き込まれたことから起こった喧嘩をきっかけにリテラシーとは何かを考えるストーリーとなっています。
 第一話は地元のことが描かれており、駅から高台にある住宅街につながるエスカレーターのドームや甲府にある白河ラーメンの有名店、それに駅の天むすといえばあそこだなあと頭に思い浮かべながら読んでいたので、なかなか楽しかったです。
 第二話は最近はやりのビブリオバトルをテーマにしています。自分が面白いと思った本を他人が面白いと思ってくれるのかは、それぞれ感性が違うので必ずしも同じ思いを抱いてくれるわけではありません。自分の面白いという思いを相手に伝えることはそもそも難しいですし。物語では生徒たちが様々な本の面白さを自分なりに伝えようとしていくところにビブリオバトルの楽しさがあることを教えてくれます。
 第三話は「リテラシーとは何か」を直原高校の教師たちが自分の専門分野を通して生徒たちに語っていくわけですが、これはちょっと難しいですが、考えさせられます。 
 リストへ