▲トップへ   ▲MY本棚へ

高野和明の本棚

  1. 夢のカルテ
  2. 6時間後に君は死ぬ
  3. ジェノサイド
  4. 13階段
  5. 踏切の幽霊

夢のカルテ 角川書店
 他人の夢に入り込むことができる能力を有する来生夢衣と、彼女にカウンセリングを受けたことから恋人関係になった刑事の麻生健介が遭遇する事件を描いた作品です。こうしたSF的なミステリは好きなんですが、う~ん、いまひとつかなあというのが正直な感想です。
 物語は二人の出会い、すれ違い、ハッピーエンドまでの流れを描きながら、その間に二人が遭遇する事件を描いていきます。自分の愛する人がこんな能力を持っていたら、恋人の刑事としては事件の捜査に役立てたいと思うのは無理からぬことでしょう。ただ、自分自身に置き換えると、やはり心が離れていくのが本当なところでしょう。夢の中に入られるということは、心の中をすべて覗かれるということです。いくら愛する人でも耐えられそうもありません。愛する二人の間であっても、知らない方が幸せだということもあるのではないでしょうか。
 この作品は、「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞した高野さんと、洋画・邦画への出資等映像ソフト事業を手がける(株)シネマゲート代表取締役社長の阪上仁志さんとの共作ですが、それからすると映像化を考えているのでしょうか。
リストへ
6時間後に君は死ぬ 講談社文庫
 街で出会った青年から、6時間後に死ぬと予言された女性の闘いを描く「6時間後に君は死ぬ」。思いどおりにならない現在を送る女性が過去からやってきた自分自身と出会う「時の魔法使い」。恋をしてはいけない日と予言された日に交通事故死を目撃した女性が、その場に居合わせた男性と恋に陥る「恋をしてはいけない日」。ダンサーを目指すがオーディションになかなか合格しない女性とドールハウスの不思議な関係を描く「ドールハウスのダンサー」。そして、ラストは再び「6時間後に~」の登場人物が爆発火災を未然に防ごうとする「3時間後に僕は死ぬ」という最初と最後のサスペンス作品の間に3編のファンタジーが挟まれた作品集になっています。
 6時間後にあなたは殺されると言われたら、果たして僕だったらどうするだろう。きっとそんな予言は信じないだろうけど、そうは言いながらも家の中に籠るだろうなあ。そんな弱虫の僕とは違って、主人公の美緒は果敢に運命と闘おうとします。このあたり、家に籠っては話が進まないので、必然的にこういう流れになるのでしょうが、ここでの美緒の行動力が、ラストの話で生かされてきます。やはり、運命って、ただ、黙って受け入れるだけでなく、自分で切り開いていかなければいけないのですよね。
 間に挟まれた3つのファンタジー作品も素敵なストーリーです。話の流れは想像ついてしまいますが、ラストはどれも温かな気持ちにさせてくれます。
リストへ
ジェノサイド bgcolor="#000099">角川書店
 これは、おもしろい! 2011年ベスト10のたぶん上位にくる作品ではないでしょうか。  急死した父から届いたメールによって、父が密かに実験をしていたアパートの部屋にやってきた大学院生の研人。二台のパソコンとノートに書かれた“ハイズマン・レポート”をヒントに父の研究を継ごうとするが、そんな彼の前に謎の女が現れ、さらには警察にも追われることとなる。一方、アメリカでは、大統領の命令の下、アフリカで発見された新たなウィルス、そして未知の生物に対しての秘密計画が実行に移されていた。その計画の実行者としてアフリカのコンゴに送り込まれたのは、息子が難病で余命幾ばくもないイエーガーら4人の傭兵。彼らが目的地にたどり着いたときに知った事実とは・・・。
 日本、アメリカ、アフリカを舞台とするスケールの大きなエンターテイメントです。翻訳物の冒険小説を読んでいるみたいです。イエーガーたちが無事にアフリカを脱出できるのか、研人は新薬を開発できるのか、そして彼らの裏にいる協力者や内通者は誰なのかとわくわくドキドキしながら読み進みました。エシュロンというアメリカの全世界盗聴魍のことや、アフリカの少年兵など今ある問題も描かれており、現実味も感じさせてくれます。ときどき、専門用語が出てくるので読みにくいところはあるのですが、それを補って余りあるストーリーのおもしろさで、ぐいぐい物語の中に引きずり込まれます。休暇を取って、この先いっきに読みたいと思うくらいでした。
 ちょっと残念なのは、傭兵の1人、日本人のカシワバラが、この作品の上で重要な役どころを担っているのですが、彼の行為の理由なり背景が描かれなかったところでしょうか。
 第145回直木賞候補となりましたが、残念ながら受賞ならず。今後の高野さんに期待です。
リストへ
13階段 講談社文庫
 第47回江戸川乱歩賞受賞作品です。評判の「ジェノサイドJ読了後に、遅ればせながら高野さんのデビュー作を読んでみました。当時のこのミスでも第8位になっただけのことはあり、おもしろく読むことができました。
 傷害致死で刑に服し、仮釈放となった三上は、定年間近の刑務官・南郷から10年前に起こった殺人事件で死刑判決を受けた樹原の無実を証明するための調査の手伝いを持ちかけられる。民事賠償で家族が苦しい生活を強いられていることを知った三上は、多額の報酬がもらえるということで、南郷の手伝いをすることを決意するが・・・。
 題名の “13階段"というと、すぐに頭に思い浮かぶのは死刑台に上る階段の数ですが、今は地下降下式になっているので、階段を上るということはないようです。ほかにもこの題名は言い私から死刑執行に至るまでの過程が13あるとか、記憶喪失になった樹原に微かに残る階段の記憶ということも意味しているようです。
 ミステリーとしての謎解きのおもしろさももちろんありますが、犯行の記憶をなくしている者に死刑を執行できるのかとか、冤罪だったらどうするのかという死刑制度の根幹に関わる問題や犯罪者の更正という難しい問題を孕みながら物語は進んでいきます。
 それにしても、ある人物の動機はわかるのですが、あんな複雑なことを考えるものなのかと、読了後思ってしまったところが、手放しでおすすめといかなかったところです。
リストへ
踏切の幽霊  文藝春秋 
 前作「ジェノサイド」から11年。題名からファンタジーかと思って読み始めましたが、幽霊は登場するものの、途中の内容はミステリです。
 松田法夫は元新聞記者だったが、仕事に没頭する中、妻を孤独に病死させてしまったという後悔から仕事に意欲を失い、今は新聞記者を辞めて知り合いの婦人誌の編集長・井沢に拾われ、遊軍として働いていた。ある日、松田は井沢から幽霊話の取材を命じられ、取材を続ける中で下北沢駅近くの踏切で撮られた心霊写真に行きつく。その踏切では何度も列車が止まるということが起こっていた。飛び込み自殺等の列車事故はなく、ただ、1年前にその踏切近くで若い女性の殺害事件があり、調査の結果、被害者の女性が心霊写真に写っていた女性であることがわかる。事件の犯人は逮捕されたものの現場で逮捕されたときには心神喪失状態であり、その後、刑務所でも口をきけない状態が続いており、被害者である女性の身元は不明のままであった。松田は彼女の身元を探るため、彼女が働いていたというキャバクラを辿るが・・・。
 “幽霊もの”となれば、感動のファンタジーか、怖ろしいホラーに分類されると思うのですが、この作品では、幽霊となった女性が身元不明のため、主人公の松田が彼女の身元を探っていくというミステリの雰囲気をまといます。更に彼女の殺害事件に暴力団や政治家が関係していくことがわかり、この辺りは社会派ミステリという感じです。
 ただ、主人公の松田が妻を寂しく一人で死なせたことを後悔していることが、この作品を社会派ミステリやホラーにするのではなく、感動のファンタジーであることに留めています。そんな妻を思う松田ゆえに幽霊の彼女が松田の周囲に登場してきたのではないでしょうか。ラスト近くで霊媒師が松田に話すシーンには涙がこぼれてきてしまいます。やはり、後悔する前に常日頃から奥さんは大切にしないとね。 
リストへ