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高村薫の本棚

  1. 我らが少女A

我らが少女A  毎日新聞出版 
 合田雄一郎シリーズ第6弾です。久しぶりに読む高村作品です。合田シリーズを読むのも3作目の「レディ・ジョーカー」以来で、まさか合田が捜査の一線を離れて、今では警察大学校の教授になっているとは知りませんでした。
 池袋のアパートで若い女性が同棲相手によって殺害される。ありふれた事件かと思われたが、犯人の男が、死んだ女性、上田朱美が12年前に起きた未解決となっている元美術教師の老女殺人事件の事件現場から拾った絵の具のチューブを持っていたと供述したことから、過去に埋もれていた事件が再び動き出す・・・。
 未解決事件の再捜査は、被害者の老女の家族だけでなく、当時別件で逮捕された老女の孫娘をストーカーしていたADHD(注意欠陥多動性障害)の少年、浅井忍、そしてそのことにより退職を余儀なくされた少年の父親であった警察官の浅井隆夫、朱美に当時ほのかな想いを抱いていた同級生の小野雄太、そして朱美の母親など事件の周囲にいた人々の生活にさざ波を立てることになります。
 12年前の老女殺人事件を担当したのが、当時捜査一課にいた合田。今では事件現場近くにある警察大学校に勤務していることもあって、事件の再捜査は合田の心の中にも影響を及ぼします。ただ、現在は警察大学校の教授で捜査の一線を離れているので、合田自身が再捜査に携わることはできません。物語も合田だけでなく、事件の関係者たちそれぞれの行動や思いを短い間隔で次々に描いていきます。合田シリーズの1作ですが、合田が活躍して事件が解決するという流れではありません。
 この視点が目まぐるしく変わるところは、新聞連載小説ということがあったのでしょうが、今まで読んだ高村さんの作品と比較すると意外に読み易いです。
 それぞれの思いによって浮かび上がってくる12年前の事件の様相が、当時は明らかにならなかった事件の真実の姿を浮かび上がらせていきます。特にADHDである浅井忍の強烈なキャラがそのことに大きく貢献します。そういう意味でも、ラストに語られる出来事はあまりに悲しいです。
 物語の中では、元妻の兄である加納との関係も語られていますが、今後この関係がどうなっていくのかも気になるところです。ラストからすると、合田シリーズが続く余地はありますが、果たして高村さんが書き続けてくれるのか・・・。 
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