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高橋三千綱の本棚

  1. ハート型の雲

ハート型の雲  幻冬舎 
 久しぶりに読む高橋三千綱さんの作品です。昭和30年代から現在に至るまでのひとりの女性の人生を描きます。雰囲気的には朝ドラの原作のような作品です。
 塗料メーカーの社長令嬢である菱川恵美子は、幼い頃から両親に大切に育てられ、母から理由もなく嫌われている兄と違って、世間を知らないお嬢様として短大を卒業し、花嫁修業として様々な習いごとをしていた。一時は自分を縛る母親に反発し、就職をしたものの結局は両親の元に戻っていた。やがて、兄の友人である今村と交際するようになり結婚を考えるが、今村と交際することには賛成していた母が結婚には強く反対する・・・。
 ひとりの世間知らずの女性の昭和から平成に至るまでの人生を描いた作品です。兄が経営者として時代の中で苦労をして生き抜くのに対し、恵美子は結局は父母や兄、そして結婚してからは夫の庇護のもと、あまり苦労もなく過ごしていきます。
 そんな主人公の恵美子より、物語の中で強烈な印象を残すのは彼女の母親。とにかく、その強烈な個性にびっくりするばかりです。継子というわけでもなく実の子どもである兄を幼い頃からいじめ抜いたり、兄の結婚相手に自分が紹介した女性なのに、いざ本人たちが結婚を意識し始めると今度は反対するといった、ちょっと精神的に異常な母親です。そんな母親の元でいじめ抜かれ、結婚も反対された兄がよく普通に育ったものだと思うくらいです。
 高度成長時代の昭和と違って、平成の時代はバブルからその崩壊まで、会社を経営する人にとっては大変な激動の時代だったと思うのですが、そのあたりが駆け足に語られていたのはちょっと残念な気がします。
 最後に会社が「染めQ」に社名変更されたことが語られますが、ネットを見たら「染めQ」という会社が実際にあるんですねえ。それも社長の名前は「菱木貞夫」さん。一字違いですし、製品には“ミッチャクロン”がありますから、この会社がモデルの小説だったのでしょうか。 
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