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平安寿子の本棚

  1. グッドラックららばい
  2. もっと、わたしを
  3. なんにもうまくいかないわ
  4. 素晴らしい一日
  5. くうねるところすむところ
  6. さよならの扉
  7. おじさんとおばさん
  8. 人生の使い方
  9. しょうがない人
  10. コーヒーもう一杯
  11. 心配しないで、モンスター
  12. 幸せ嫌い
  13. レッツゴー・ばーさん!
  14. オバさんになっても抱きしめたい
  15. 言い訳だらけの人生

グッドラックららばい  ☆ 講談社
 妻が家出してもおっとりとかまえている吝嗇家の父親。ひたすらマイペースの父親です。妻の家出に悲しむどころか、そのことによって家の中の生活がもっとケチケチできると考えるのだから、これはすごいです。また、セックスが最大の娯楽と考え、母親の家出にも動じない長女の積子と、母親の家出は悲しいというより世間体から許せないと憤慨している、家族の中で一番現実的な次女の立子。二人合わせると「積立」というのは積立貯金の好きな信用金庫に勤める父親の考えだろうけど、こんな理由で名前を付けられてしまった娘たちも、たまったものではないでしょうね。それに娘の卒業式の後、買い物に行くというような感じで家出をして、旅芝居の一座に加わってしまうという母親が何と言っても一番の"大物"です。娘の結婚式にも帰ってこないし、そのうえ夫以外の男とセックスしても、やっぱり夫が好きだと思ってしまうのだから。こんな、ちょっと、いや、だいぶ世間とは離れた常識を持つ一家が織りなす物語です。「もっと、わたしを」がおもしろくて、積読本の中から引っ張り出してきて読みましたが、こんな家族いるわけないと思いながらも、登場人物たちの生き方に魅了されました。
 次女の立子が言います。「人にどう思われるか気にしていたら、自分の思うようには生きられない」と。全くそのとおりです。この家族はみなそう考えて生きてきたのでしょう。ただ、実際には僕らは人からどう思われるか気にせず生きることができないので、いろいろ辛い思いもするのでしょうけど。
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もっと、わたしを  ☆ 幻冬舎
 5つの短編からなる連作短編集です。1つの話に端役として登場していた人物が次の話の主人公になるというリレー形式が取られています。
 とにかく、掛け値なしにおもしろいです。思わず笑ったり、ふむふむと納得したりしながら一気に読んでしまいました。その理由の1つはとても読みやすいリズム感のある文章というところにありますが、なんといっても、登場人物の人物造形が見事ということにあると思います。主人公は二股をなじられる優柔不断な男、世界は自分を中心に回っていると考える自己中心的な男、成り行き任せで生きている男、容姿抜群で男にもてすぎるほどもてるが本当の愛を知らない女、そして男に媚びて何が悪いと開き直って社長の御曹司との再婚をもくろむ女と非常に多士済々です。特に最初の「いけないあなた」の主人公江口真佐彦など、身につまされるキャラクターです。女性にもてないと思っていたのに、ある日恋人ができます。結婚を申し込んだけど、はっきりした返事がもらえなかったので、色々自分で考え込んで、これはきっと駄目だということだなと自分で勝手に納得してしまいます。自分に自信のない男にありがちなことです。あ〜非難できないなあ。だって僕も同じようなものだもの。
 通常はこうした人たちが自分のいけない点を克服してハッピーエンドとなるのが普通ですが、平さんはそんなまともには作品を料理していません。そこがまた、この作品集のおもしろいところです。

 「もっと、わたしを」という題名のあとには何と続くのでしょうか。「見て」かな。「信じて」かな。それとも「理解して」とかでしょうか。
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なんにもうまくいかないわ 徳間書店
 並河志津子40歳、独身、調査会社に勤めるキャリアウーマン、恋多き女、恋の遍歴をはじめ自分のことを全て話してしまう女。こんな志津子を巡る人たちを語り手とする5編にボーナストラック1編がついた短編集です。
 帯の惹句がすごいです。“子なしシングルの負け犬たち、40すぎたらオオカミだ!”ですからね。これは完全に今年ベストセラーとなった「負け犬の遠吠え」を意識したのでしょうが、凄すぎます。
 華麗なる独身生活で男性遍歴は数多く、仕事は有能ですが、周りの人からすればはた迷惑な女、果たして主人公は幸せなんでしょうか。持っている名刺の多くは仕事ではなく、飲む席で交換したもの。まあ、本人も真剣に交際しているのだろうけど、相手が結婚を考えないような人ばかりという、そういう意味では男を見る目がない女です。とはいえ、恋というものは仕事のように簡単に足したり引いたりはできないものなのでしょうね。あんなに頭のいい女性がなんであんな男と思うことが小説でなくてもありますものね。
 僕としてはは周囲にこんな女性がいたら好きになることができるのかなあとちょっと疑問符が付きます。。さてさて、女性の方々はこんな主人公をどう思うのでしょうか。友人の女性たちに聞いてみたい気がします。 
それにしても相変わらず平さんの文章は読みやすく、没入してしまいます。ボーナストラックの「亭主、差し上げます」もおもしろいです。夫が浮気相手の家にいるところに乗り込んだ妻と、浮気相手の女性との間で夫の押し付け合いが始まってしまうのですが、所詮男はみじめですね。
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素晴らしい一日 文春文庫
 第79回オール読物新人賞を受賞した表題作をはじめとする6編からなる著者のデビュー短編集です。
 どの話にも、どこかおかしな人たちが登場します。表題作の「素晴らしい一日」には、以前男に貸したお金の取り立てに行く主人公幸恵と、借金を返すために幸恵を引き連れて交際していた女の元に借金に歩く友朗が登場します。だいたい女性にした借金を返すために他の女性に借金をしに行く男というのもすごいですが、それについて行く主人公も相当おかしいです。
 また「アドリブ・ナイト」の、家出娘の代わりに主人公を無理矢理臨終前の男の娘に仕立ててしまう田舎の青年たちはあまりに常識はずれで強引すぎますが、断りもせずにのこのこついて行ってしまう瑠美には「何やってるの!」と思わず言いたくなります。そして、「商店街のかぐや姫」のラヴホテルから浮気女に払うお金を持って来てくれるよう妻に平気で電話してくる努は極めつけです。
 女性の怖さを教えてくれたのが「オンリー・ユー」の由佳子です。主人公の中原の行動もどうかと思いますが、それはともかく、あなたのためにできることがあったら何でもしようと言うのなら、何もしないでくれ!という中原の気持ちがよくわかります。怖いですねえ。女は強い!
 この作品集は、そんな自分勝手な人たちと、それに振り回される人の話と言えますが、振り回されながらも主人公はしだいに癒されていってしまうのです。
 確かにどの話も読んでいるとおもしろいです。登場人物が脇役の人も含めみな個性的です。しかし、現実に友人にこんな人たちがいて、自分が彼らと付き合うとなったらイライラしただろうなと思ってしまいます。
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くうねるところすむところ  ☆ 文藝春秋
 二人の人生の転機を迎えた女性の語りで物語は進んで行きます。一人は、30歳独身で求人誌の名ばかりの副編集長、実際はなんでも屋の梨央。妻子ある編集長との不倫をだらだら続けている女。30歳の誕生日祝いを愛人の編集長にすっぽかされ、一人酔って工事現場の足場に上り、下りられなくなっているところを助けてもらったトビの親方に一目惚れ。その勢いで会社を辞め、建設業界へとトラバーユ。
 もう一人は45歳の建設会社の女社長郷子。婿の夫がフィリピン女性に熱を上げたことに腹を立て離婚。社長だった夫に代わって建設会社の社長になって、未経験の建設業界に入った女。最初からリストラ断行で会社の中は大騒動。
 梨央が郷子の会社に就職したことから、二人が家を建てる仕事で悪戦苦闘する姿を描いていきます。
 とにかく、二人ともおとなしい女性ではありません。思い立ったら猪突猛進タイプ。思いこみが激しい女性です。極端に女性の進出が少ない建設業界、女性だからと許してもらえることもなければ、未経験者が簡単にどうにかなるという甘いものではありません。この話はそんな世界で挫けそうになりながらも奮闘する女性二人のお話です。
 帯に平さんの言葉が書いてあります。
  「五十の坂を越えてわかったのは人生、必死にならなければ何も得られないということです」
 二人は、何かを得ようと必死になります。平さんらしい読んで元気になれる話です。 
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さよならの扉 中央公論新社
 夫をガンで亡くした妻、仁恵と夫の不倫相手の女、志生子との奇妙な関係を描いた作品です。
 女性の視点で書かれているからというわけでもないのですが、仁恵の気持ちはわからないなあというのが正直なところです。普通だったら不倫相手の女に文句の一言も言ってやりたいと思うのでしょうに、なぜか仁恵は、不倫相手の志生子に友だちになりたいと言うのです。不倫していたという負い目からきっぱりと断れずに、情性で付き合ってしまう志生子もおかしい。ラストの方で仁恵がこういう行動に出る理由を二人で語り合っていますが、やっばりよくわからないですね。だいたい、こんな奥さんいますか?
 おもしろい設定かもしれないけど、共感を持って本の中に入り込んでいくことはできません。なんだこの奥さん?!
と思いながら読み続けました。男性の立場からすれば死ぬ間際に不倫相手がいると妻に言うのは不誠実ですね。もちろん、不倫すること自体がすでに妻に対して不誠実なのですが。知らないでいれば誰も傷つかないのに告自することは、傷つく人を増やすだけです。この男、そういう意味では男としては失格だな、などと考えながら読了。
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おじさんとおばさん 朝日新聞出版
 市長選に立候補する恩師の息子を応援する会で再会した小学校のクラスメイト6名のいわゆる"おじさんとおばさん"。あまりにストレートな題名ですね。
 女性陣は、独身を貫き、銀行員として働きながら、認知症の母親の介護に疲れている久美子、3人の子供を育て、韓流にハマる専業主婦の緑、美人で玉の輿の結婚をしたが、婚家とうまくいかず離婚し、働きながら一人息子を育てた順子。一方男性陣は、ローカルテレビ局のアナウンサーの三村、家業の仏壇屋を継いだ江口、妻に先立たれ、仕事は閑職に追いやられながら、ボランティアに生き甲斐を感じている中田の3人です。
 それぞれ異なる背景を持った6人なので、"おじさん、おばさん"の読者は、登場人物の誰かを自分に重ねて読むことができるかもしれません。まだまだ彼らの年齢には至りませんが、あちこちに生じる体の不具合に悩み、物忘れのひどさに認知症かと不安を感じるのは他人事ではありません。彼らの悩みや行動に「ああ、そうだよなあ」と思うことも数々です。失礼ながら作者の平さんも1953年生まれということですから、彼らと同じ年代ですね。どおりで、50代後半の男女の気持ちが生々しく書かれているはずです。
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人生の使い方 NHK出版
 あとわずかで定年を迎える夫に対し、定年後何もせずに自分にべったりではたまらないと思った妻が、夫をけしかけて定年後の生き甲斐を見つけさせようとするドタバタを描いた作品です。我が家では来春に娘が大学に入学すれば、家は妻と二人きりになります。定年にはまだまだあれど、定年後のことも考えなくてはならない年齢となってきており、かといえ、まだまだ子どもたちの学費に頭を悩ませなければならず、この作品は身につまされる思いで読みました。
 作品の中にもあるように、男というのは職場というのが社会の中心であり、多くの人が会社を辞めると人間関係がなくなってしまうというのは、そのとおりですね。自分自身を振り返ってみても、友人といえば会社関係の人がほとんどで、趣味等を通じての友人といっても頭に思い浮かびません。人間関係なんてどうでもいい、一人でも好きな読書で毎日暮らせて満足だと妻に言ったら、家の中にいてばかりではボケるばかりだと冷たく言い放たれました。
 物語は、それぞれの生きがい探しを夫の側から、また妻の側から描いていきますが、夫の気持ちはよくわかります。やっぱり、どうせカルチャーセンターに通うなら美人な講師です(笑) きっと女性読者は妻の気持ちがよくわかると言うのでしょうけど。それにしても、妻に背中を押されながらも、生き甲斐探しに奔走する夫には見習うべきところはあります。なかなか最初の一歩が踏み出せませんからねえ。
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しょうがない人  ☆ 中央公論新社
 自然食品のサプリメントのネット販売の会社でパートをやっている日向子を主人公に、彼女の周りの“しょうがない人"を描く連作短編集です。
 ここで描かれる“しょうがない人"たちは、私たちの周りにもいそうな人ばかり。こんな人を相手にしたら、日向子と同じよう怒ったり、イライラしたり、呆れたりするのだろうなあと思う話ばかりです。おばさんを描くと平さんはうまいですね。 “しょうがない人"を相手に、面と向かってはっきりものを言えない日向子の心の声には笑ってしまいます。そして、そんな“しょうがない人"の話題を肴に、大いに盛り上がる職場の女社長やパートタイマー仲間のおばさんたちも、これまた愉快。
 終盤の日向子の両親がゲストハウスを経営したいと言い出したときの、妹夫婦、夫、姑を巻き込んでの騒動は、相続問題や嫁姑問題、親との同居問題とそこら中にころがっている家族の問題を浮き彫りにします。しかし、平さんは決してそれを深刻に描かずにユーモア溢れる文章に包み込んで描いていきます。おもしろくて、いっき読みでした。
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コーヒーもう一杯  ☆ 新潮社
 店舗内装デザイン会社に勤める山守未紀。ある日、お金持ちのお気楽な娘が以前開いたカフェの改装を依頼してきた際、つい、「何もわかっていない」「あなたの店がうまくいかないのも、最初から見えてた」と言ってしまう。そんなに言うなら自分でやってみろと言われ、勢いで会社を辞めカフェを始めることを決めてしまうが、資金繰りに店舗探し、メニューの決定、アルバイト探しと、開店に向けてやることはいっぱいで青息吐息。母の従姉妹から金を借り、どうにか開店にこぎ着けたが・・・。
 店舗の内装デザインをやっただけの素人が、知った気になってカフェ経営を始めてしまった顛末を描いていきます。平さんの作品を読むと、人の気持ちがよくわかっているなあといつも感心してしまうのですが、今回も、主人公は、きっとこういう人っているよねと思わせる女性です。
 ただ、平さんが描くのは頑張ってハッピーエンドという話ではありません。おもしろおかしいストーリーの中に現実の厳しいところもきちんと描いているのがいいですね。未紀の友人の加容子や、かつてレストランのオーナーシェフだった葉朗が未紀に抱く思いというのも、きっとこうだろうなあと納得です。
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心配しないで、モンスター 幻冬舎
 9人の主人公とそれぞれの主人公が心の拠り所とするビートルズ、演歌、オペラなどの9つの歌とともに語る物語。前の話にちょっと顔を出している登場人物が、次の話の主人公になるというゆるやかな連作の形を取っています。
 9人の主人公は、歳を取ってもお盛んな女友達が羨ましい“ばあさんデビュー”の女性、さえない中年男性と不倫をしている化粧品会社の女性、10歳も下のストリート・ミュージシャンを恋人に持つ同じ化粧品会社の女性、娘にべったりの母親に反発する女子高校生、パン屋の奥さんにほのかな恋心を抱く初老の駐車場係の男性、女装趣味が芽生えてしまった宅配便のドライバー、やっと就職できた不動産会社で上司のパワハラに苦しむ女性、自転車通勤をするOLといい仲になりたいと自らも自転車通勤を始めた大手不動産会社の社員、妻を突然の死で亡くしだビーチ・ボーイズファンの初老の男性。
 9編の中で一番気になった1編は、主人公が年齢の近い「夕星に歌う」です。初老の駐車場係が、パン屋の奥さんのちょっとした態度に舞い上がってしまうというのは、男としてはよく理解できます。第三者から見れば笑ってしまうし、相手は決して自分の思ったようには思っていないのですけどね。勇気を出してオペラに誘った結末は・・・。まあ、そんなところでしょう。不動産会社の社員が主人公の「真夏の果実はかじりかけ」も、ばかな男ですが、気持ちわかるなあという作品です。
 平さん、相変わらず人の心の動きを描き出すのが上手ですね。 
幸せ嫌い  ☆  集英社 
 杉浦麻美は30歳になった女性。以前はまあまあモテて、エリート社員と婚約までしながら、たまたま参加した合コンでジョニー・デップ似の男と会い、すっかりのぼせ上がってしまい、婚約は解消。ジョニー・デップー直線で頑張るが、彼は麻美から金を借りると雲隠れ。結局騙されただけで、その後結婚もせずに独身を通していた。とはいっても結婚願望は溢れるばかり。ある日、親戚の葬儀で出会った漆原克子から開業したばかりの結婚相談所で働かないかと誘われる。事務所に来る電器屋の男に―目惚れした麻美はあわよくば彼と結
婚できるかもと、そこで働くことに・・・。
 一人で自由に生きたいと、結婚をせずに歳を重ねる男女が増えてきている昨今、―方では婚活支援に役所まで乗り出し、“婚活ブーム”ともなっています。でも不思議に思えて仕方ありません。昔のホームドラマを見ると、お節介なおばさんがお見合いの話を持ってくるというシーンが多かったのですが、今は昔より男女の関係は自由なので、自分でどんどん出会いの機会を作ることができると思うのですが。男の面だけを見ると、“草食男子”という言葉が作られたように、あまり恋愛に積極的ではない男が増えてきたのも原因なのかなぁ。
 この作品は、胡散臭い結婚相談所を舞台に、そこを訪れた客の結婚に向けて克子らユニークなキャラのスタッフの奮闘ぶりを描いていきます。とにかく相談所に登録した性格に難のある男女に対する克子たちスタッフのツッコミがおもしろいのなんのって。端で聞いていれば、よくそんなに褒めたり貶したり、歯の浮くようなことを言えるなあと呆れながらも思わず笑ってしまいます。麻美の心の中でのつぶやきは最高です。
 ただ、笑いながらも、克子の厳しい言葉には「そうそう!」と納得させられることもあり、「結婚」や「幸せ」について改めて考えさせられる1作になっています。 
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レッツゴー・ばーさん!  ☆  筑摩書房 
 昔は60歳になれば、もうおじいちゃん、おばあちゃんで、還暦祝いに赤いちゃんちゃんこを着せられてお祝いされたものですが、今は60歳ではまだまだ老人の域には入りません。平均寿命が延び、年金支給開始年齢が遅くなった今では60歳だからといって仕事を辞め、のんびり孫の世話というわけにはいきません。
 さて、本書の主人公・東西文子も60歳を過ぎましたが、まだまだ“ば−さん”ではなく、彼女の言葉を借りれば“プレば−さん”。他の読者の方も書いていましたが、小説というより、60歳を過ぎた女性(年齢的に平さんご本人といってもいいかな)が、これからのより良き“ば−さん”としての生き方を目指していくというエッセイ風な作品です。
 物を置いた場所がわからない、人の名前が思い出せない、ちょっと歩けば息が上がるといった老いを感じさせることが頻繁に起きるようになってきました。見た目だってあんなに硬い髪だったのに今ではさらさらで地肌も透ける、皺も目立って法令線も深くなってきた、加齢臭だってあるかもしれないと大いに気になってきました。文子は「老いを隠そうとするのは、そこまで生きてきた自分の人生をまるごと否定するのと同じ」と、老いていく自分を受け入れつつ、楽しく生きるために努力します。見習うべきですね。
 それにしても平さんの文章は相変わらずユーモアに溢れていて、読んでいるうちに老いを吹き飛ばせそうな感じになります。 
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オバさんになっても抱きしめたい  ☆  祥伝社 
  才川美結は28歳、独身、会社に入って6年目のOL。「ロスジェネ」と「ゆとり」の間の名前のない空白の4年間に生まれ、両親の影響からか好きなのはビートルズという、そういう点では今どきとはいえない女性。一方、山元里佳子は45歳、独身で会社のお局的存在。若き頃にバブル時代を迎え、時代を謳歌し尽くしてきた女性。
 美結にとってみれば、40半ばになっても、相変わらずイケイケで、「私が若い頃は」といろいろ説教してくる里佳子が腹立たしくてしょうがない。里桂子にしてみれば、若いにもかかわらず、服装も地味で不景気面している美結たちにイライラする。物語は、そんな世代の異なる二人のジェネレーション・パドルを描いていきます。
 最後の章の前まで美結と里佳子が交互に主人公になりながら、自分の気持ちを語っていくという構成になっていますが、これが愉快です。それぞれの生きてきた時代によって、当然考え方も違うわけですが、読者にどちらの言い分もなるほどと思わせてしまうところが作者の平さんのうまいところです。
 二人の共通の思いが、結婚をしたいということで、ラストの章で二人がついに本音で語り合いますが、「私はひとりで強く生きていく!」という落としどころにしなかったのが、平さんらしいところでしょうか。楽しませてもらいました。おすすめです。
 題名の「オバさんになっても抱きしめたい」は、里佳子の好きな森高千里の「私がオバさんになっても」と美結の好きなビートルズの「抱きしめたい」を合わせたもののようです。
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言い訳だらけの人生  光文社 
 田中修司は家電メーカーに勤める49歳の誕生日を迎えたばかりの男。いわゆるバブル入社組だが、会社の中ではもう出世の芽がなく、団塊世代の上司とバブル後に入社してきた理解不能な部下との板挟みに苦しむ毎日を送っている。そんな修司の元に中学時代に友人だった菊池和彦から「徳市じいさんが死んだ」との電話が入る。徳市じいさんは修司が中学時代に過ごしたニュータウンの裏山で他人との交流もなく一人暮らしをしている偏屈老人だったが、徳市じいさんの家は当時、親には内緒の遊び場だった。遺骨の引き取りを拒否したじいさんの娘に代わって葬式をするので参列して欲しいとの和彦の頼みに、修司は子どもの頃を過ごしたニュータウンに出掛けていく・・・。
 主人公は、修司と、会社経営に失敗し自己破産、今ではニュータウンの実家に戻り、認知症となった母親の介護をしながらニュータウンで便利屋稼業で食いつないでいる和彦、そして修司たちより2歳年下で家族経営のガス設備会社の入り婿となっている高瀬達也の3人の男。物語は、彼らが今では高齢化が進むニュータウンの裏山の徳市じいさんの家に集まり、当時を思い出しながら自分たちのこれまで生きてきた道を振り返っていく様子を描いていきます。
 女性を主人公にした作品を書くことが多い平さんには珍しく男たちの物語です。読めばわかりますが、男というのはいつまでも子どもだなあと思わざるを得ないストーリーになっています。
 各章のタイトルが愉快です。「男は現実が苫手だ」「男は説明するのを好まない」「男は夢の中で目覚めるのだ」など、すべて「男は〜」となっています。これはどれも男というものを自虐的に表しているといえますが、逆に女性が男を婉曲的に批判しているともいえますね。
 大人になってもガチャに夢中になってしまうオヤジたちの姿は何だか自分を見ているようです。男って、誰もが、幼い頃は、みんなおもしろい遊び場を探して走り回ったものですし、大人になってもその思い出を大切に心の中にしまっているものなんですね。 
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