妻が家出してもおっとりとかまえている吝嗇家の父親。ひたすらマイペースの父親です。妻の家出に悲しむどころか、そのことによって家の中の生活がもっとケチケチできると考えるのだから、これはすごいです。また、セックスが最大の娯楽と考え、母親の家出にも動じない長女の積子と、母親の家出は悲しいというより世間体から許せないと憤慨している、家族の中で一番現実的な次女の立子。二人合わせると「積立」というのは積立貯金の好きな信用金庫に勤める父親の考えだろうけど、こんな理由で名前を付けられてしまった娘たちも、たまったものではないでしょうね。それに娘の卒業式の後、買い物に行くというような感じで家出をして、旅芝居の一座に加わってしまうという母親が何と言っても一番の"大物"です。娘の結婚式にも帰ってこないし、そのうえ夫以外の男とセックスしても、やっぱり夫が好きだと思ってしまうのだから。こんな、ちょっと、いや、だいぶ世間とは離れた常識を持つ一家が織りなす物語です。「もっと、わたしを」がおもしろくて、積読本の中から引っ張り出してきて読みましたが、こんな家族いるわけないと思いながらも、登場人物たちの生き方に魅了されました。
次女の立子が言います。「人にどう思われるか気にしていたら、自分の思うようには生きられない」と。全くそのとおりです。この家族はみなそう考えて生きてきたのでしょう。ただ、実際には僕らは人からどう思われるか気にせず生きることができないので、いろいろ辛い思いもするのでしょうけど。 |