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庄司薫の本棚

  1. 赤頭巾ちゃん気をつけて
  2. さよなら怪傑黒頭巾
  3. 白鳥の歌なんか聞えない
  4. ぼくの大好きな青髭

赤頭巾ちゃん気をつけて 中央公論社
 薫くんシリーズ第1作にして芥川賞受賞作
 高校時代、友人が読んでいるのを見て買った本。お手伝いさんがいる主人公の家の裕福さに反発をおぼえながらも、自分もこんな生活を送りたいと憧れた作品。大学時代文通していた女の子に面白いと勧めたこともある。また、この本を読んでから将来自分の子供に「薫」という名前を付けることを決意したが、結局周囲の反対から希望がかなえられなかった。大学紛争で東大受験が中止されたという時代は遥か昔となった。
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さよなら怪傑黒頭巾 中央公論社
 薫クンシリーズ第2作。この作品では理想が厳しい現実の前に敗れ去ってしまうことが描かれている。それを表す人物として二人の男性が登場してくる。一人はシュバイツァーにあこがれ 、理想に燃えて学生運動を行っていたが、今や敵としていた教授の仲人で病院のあととり娘と結婚式を挙げようとする山中。一方薫クンの次兄の友人である政治学者で70年安保を前に留学することが敵前逃亡ではないかと見られることに不安になり、飲みつぶれる中村。結局、彼らも彼らを批判する人たちもそれぞれ純粋に物事を考えていたのだろうと僕は思う。今の若い人(こんなこと書くと、僕は相当年とっているようだけどそんなことないよ。)には、この本の背景となる時代、学生運動が激しく、あれほどまで学生が政治に真剣に関心を持っていたということを理解できるだろうか。
 薫クンの兄たちがいつも口癖のように「まいったまいった。」と言っているのは、そうやって、どうにか現実と折り合いをつけようとしているのだろうか。
 それはともかく、本作品には、女性の登場人物として薫クンシリーズにはおなじみの「由美」ではなく、披露宴の招待客として山中の義妹である「のんちゃん」とその従姉妹である「アコ」が登場しているが、二人とも可愛いらしく、優しく、そして逞しく、とても魅力的である。特に、アコが薫クンに「あなた、断固として頑張らなきゃ殺すわよ。」と言うところがいい。僕だったら絶対頑張ってしまうだろうなあ。こんな魅力的な子が、この後の作品に登場してこないのは非常に残念である。
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白鳥の歌なんか聞えない 中央公論社
 薫クンシリーズの第3作。今回は死という現実に直面した主人公がそれに悩み戦う姿を描いている。死を目の前にして薫クンのガールフレンドの由美が薫クンを部屋に誘い、服を脱いでいく。由美としてはセックスをすることによって生を実感したかったのだろう。それに対し、薫クンは駄目だよと言いながら射精してしまう。本を読んだ当時はなんてもったいないと思ったものだが、実はこれが本当は「かっこいい」ことなのかなあと今では思う。
 それにしても、やはり、この小説の主人公たちは当時の僕らとは違う世界の人だと思うのは、僕だけだろうか。「赤頭巾ちゃん気をつけて」にも書いたけど、家にはお手伝いさんがいるんだよ。共感しろと言ったってやっぱりチョッと違うんじゃないと思ってしまうよ。
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ぼくの大好きな青髭 中央公論社
 薫くんシリーズ完結編。自殺を図った友人の母親の依頼で、自殺を記事にするという週刊誌の記者に会う薫くん。この作品では自ら行動する薫くんが描かれており、やがて薫くんは友人の自殺に理由を知ることとなる。薫くんがサングラスをかけ、八の字の付け髭つけて、麦藁帽子に虫取り網という格好で、紀伊国屋書店の前に立つというシーンがあって、実際に当時歩行者天国で人がいっぱいの紀伊国屋書店の前に行ってみたものだ。この4部作以降、庄司薫氏は残念ながら小説を発表していない。薫くんシリーズで若者のやさしさ、夢、挫折等を描いて、庄司薫の使命は終わってしまったというのであろうか。今頃は何しているのだろう。
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