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斜線堂有紀の本棚

  1. 楽園とは探偵の不在なり
  2. 廃遊園地の殺人

楽園とは探偵の不在なり  ☆  早川書房 
 今年の「このミス」で第6位、「本格ミステリ・ベスト10」で第4位にランクインした作品です。
 舞台は天使が降臨した世の中です。ただ、この世界の天使は“天使”というと思い浮かぶエンジェルのイメージとはまったく異なり、翼は灰色がかった骨ばった色の悪い血管が透ける翼で、その翼が接続しているのは手足の異常に長い灰色の身体、更にその顔は鉋で削られたかのような平面になっていて表情はおろか目鼻口もないという見た目グロテスクな存在です。そして、人を二人殺すとこの天使によって炎に焼かれ地獄に引きずり込まれるという、天使なら天国に連れていくイメージとは逆です。これでは天使というより悪魔ですね。この状況下で、「一人だったら人を殺してもいいのではないか」と「二人殺して地獄行きなら、まとめてたくさん殺すべきなんじゃないか」という発想をする人が出てきて、天使によって殺人が減るのではなく、逆に殺人事件や大勢の人を巻き込む自殺事件が増えます。
 探偵の青岸焦は、大富豪の常木王凱の誘いに応じ、彼が所有する常世島を訪れる。そこに集まったのは、青岸、常木のほか政治家の政崎、天国研究家の天澤、記者の報嶋、実業家の争場、常木の主治医の宇和島に執事の小間井、メイドの倉早とコックの大槻、更に青岸が乗ってきた船に密航していた記者の伏見の11人。翌朝、常木が殺害されて発見され、その次の日には政崎が死体となって発見され、報島が行方不明となったことから、彼が二人を殺害して天使によって地獄に落とされたと考えられた。しかし、更に殺人は続く・・・。
 物語は、天使が降臨した特殊な世界で起きる殺人事件を描きます。事件としてはミステリによくある孤島というクローズドサークルにおける殺人事件です。ただし、二人殺せば地獄行きですから、通常であれば連続殺人事件は起きないところですが、ところが連続殺人が続くというところがミソ。
 警察や探偵より前に天使が殺人者を断罪してしまうので、探偵の存在理由が見つからず、くすぶっていた青岸のところに集まって正義の味方であろうとした赤池、木乃香、島野、石神井のキャラが強い印象を与えます。彼らがこの作品だけで会えなくなるなんて、本当にもったいない限りです。
 天使の存在理由は結局最後まで分からぬままでしたが、この世界の中での事件はまた描かれるのでしょうか。 
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廃遊園地の殺人 実業之日本社 
 20年前、プレオープンの際に起こった観覧車からの銃乱射事件により12名の死傷者が出たため、そのままオープンされることなく廃園となった遊園地“イリュジオンランド”。その後、廃墟となった“イリュジオンランド”を資産家で廃墟マニアの十嶋庵が買い取り所有していたが、今回、応募により選ばれた9人が招待されて“イリュジオンランド”にやってくる。そんな招待客に十嶋の代理だという佐義雨という女性から「このイリュジオンランドは、宝を見つけた者に譲る。」という十嶋庵の言葉が伝えられ、招待客たちは宝探しを始める。夜になり、みんなが集まったコテージで「乱射事件の犯人は、この中にいる」と書かれた紙が発見され、更に翌朝、招待客の一人がイリュジオンランドのキャラクターの着ぐるみを着たまま、イリュジオンランドと外界を隔てる12メートルほどの高さのある鉄柵に貫かれ息絶えているのが発見される・・・。
 最初に殺人事件が起きるのが第2章になってからですから、まずはそこまで頑張って読む必要があるのですが、とにかく難儀だったのは登場人物全員の姓がみんな変わっていて、覚えるのが大変だったことです。なるべく特徴ある名前をつけてキャラを印象付けたいという思惑もあったのでしょうけど、私自身こんな姓の人には一人も会ったことがありません。主人公と言うべき眞上くらいはましですが、勘弁してほしいです。
 個人的には眞上とミステリ作家である藍郷がイリュジオンランドに着いた時に対応した女性の名前を、彼女が自己紹介していないのに眞上が知っていたので(P28)、この2人が他の招待者に何かを仕掛けているのだろうと思って読み進んでいたのですが、その前提はおかしなことになっていきました。結局,P28は誤りだったようですね。私が読んだのは1刷だったのですが、その後書店で見た2刷では「佐義雨」と書かれてあった部分が“女性”に改められていました。「うわ~!それを前提に読んだ貴重な時間を返せ!」と言いたくなりました。探偵役の眞上の過去を引きずった中でのどこか淡々としたキャラは好きだったし、何より着ぐるみを着たまま鉄柵に刺さったトリックなど面白かったんですけど、この誤りは残念です。
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