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鈴木智の本棚

  1. ラバウルの迷宮

ラバウルの迷宮  河出書房新社 
 太平洋戦争末期、南太平洋のラバウルには10万の日本兵が籠城し、連合軍の侵攻に備えていた。しかし、連合軍はラバウルを飛び越えて沖縄を急襲し、日本はラバウルに無傷の10万の兵士を残したまま降伏する。霧島謙吾は戦争前は商社マン、戦中は情報将校を務めていたが、ある日、司令部の青木中佐からラバウルの第九収容所の集団長・永峰中佐から通訳として霧島を回してほしいという要請があったと霧島に告げる。中島は霧島に第九収容所に暴動計画の噂があり、10万の兵を無事日本に送り届けるために暴動計画を阻止する任務を霧島に託す。第九収容所に赴いた霧島は永峰から、兵士の生きる目標のため、本土ではGHQにより上演が禁止されている忠臣蔵の芝居の上演をオーストラリア軍から承認を取るよう命じられる。霧島は元商社マンとしての能力を駆使してオーストラリア軍の承認を得るが、この芝居の中で暴動が起きるのではと調査を始める・・・。
 玉砕が日本兵のあるべき姿だと戦争終結後も思う上官によって画策された暴動に担ぎ出される一般兵があまりに哀れ。それも、上官によって心理的に追い詰められ、彼らが「自ら選んだ」と思わせる形で行動を誘導させられるのですから、たまったものではありません。せっかく、戦争が終わり、一度は生きようと思ったのに、自主的に死ぬという方向へ誘導させられてしまうのですから。永峰のような男が、日本の未来を担うようになったら大変です。
 ラバウルから復員する際、主役の大石内蔵助を演じた神崎が手を振るオーストラリア兵を見て「こんなよい人たちと殺し合っていたなんてねえ」とつぶやきます。実際に人と人として付き合うようになれば、こんなものですよね。
 この作品で描かれる、ラバウルの捕虜収容所で忠臣蔵が上演されたというのは実際にあったことのようです。
 作者の鈴木智さんは脚本家。映画「誰も守ってくれない」「ローレライ」やテレビドラマ「JKと六法全書」等既に多くの作品の脚本を書いています。
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