▲トップへ   ▲MY本棚へ

住野よるの本棚

  1. 君の膵臓をたべたい
  2. また、同じ夢を見ていた
  3. か「」く「」し「」ご「」と
  4. 青くて痛くて脆い

君の膵臓をたべたい  双葉社 
 何とも強烈な題名です。ゾンビ映画の題名のようですが、その中身といえば、なんと高校生のラブストーリーです。
 他人との関わりを極力避けて過ごしてきた、クラスの中でも目立たない高校生の「僕」は、手術後の経過観察で行った病院で置き忘れてあった文庫本らしきものに気づき、手にとって中を読む。それは「共病文庫」と名付けられた日記で、膵臓癌で余命幾ばくもないクラスメートの女の子・山内桜良のものだった。ノートを探しに来た桜良は、病気のことを黙っていてくれるよう「僕」に頼む。それ以降、桜良はなぜか今まで交流のなかった「僕」に声をかけてくるようになる。
 クラスでも人気者の女子生徒と目立たない男子生徒の関係が描かれていきます。それは死を目前にした病気の女の子と目立たない男の子の恋というにはあまりにサバサバとした感じのつき合いです。
 目立たないというと根暗なオタクというイメージを持ってしまうのですが、「僕」は、自分としての考えをしっかり持っているが、それを主張しないだけ。ある意味、ちょっと変わった少年ではあります。一方桜良は死と向かい合っているのに、表面上はまったくそれを感じさせず、明るく振る舞います。あまりに強い子です。
 そんな桜良が単に自分の病気を知ってしまった男の子になぜこうまで関わろうとするのか、そして今まで他人と関わろうとしなかった「僕」がなぜ桜良に振り回されるのを止めないのか理解できませんでした。その理由はラストで明らかにされますが・・・。
 かなりの評判を呼んでいると聞いて、読んでみたのですが、正直のところ、二人の会話は言葉遊びみたいなところが多くて、こういう会話の経験のないおじさんには読みにくかったです。作者がなぜ、二人の関係の終わりをあの形にしたのかも理解できません。二人のストーリ一には関係ないエピソードが挿入されたことから想像がついてしまいましたが、より大きな悲しみをもたらすためかと穿った考えをしてしまいます。
 泣けるラストですが、ちょっと僕には合わないかなあという作品でした。 
 リストへ
また、同じ夢を見ていた  双葉社 
 デビュー作は「君の膵臓をたべたい」というショッキングな題名(「キミスイ」と言われているそうですね。)が評判を呼びましたが、個人的には評判になるほどの内容ではないだろうという感想でした。それより、今回の作品のほうが僕好みです。
 小学生の小柳奈ノ花は、周りの人より自分は賢いと思っている、口も達者な、ちょっと子どもらしくない生意気な女の子。そんな子だから、当然学校には彼女の友達と呼べる人はいない。彼女の友達は、傷ついた野良猫を肋けてくれたアパートの住人、アバズレさんと、素敵な木の家に住むおばあちゃん。彼女は学校が終わると、尻尾のちぎれた野良猫を連れて、アバズレさんとおばあちゃんの家を訪ねて時間を過ごす。そんなある日、奈ノ花は、四角い箱のような建物の屋上でリストカットをしようとしている女子高校生の南さんに出会い、その日から奈ノ花の放課後の行先は一つ増えることとなる・・・。
 奈ノ花は、僕が小学生でクラスメートだったとしたら、なるべく関わりたくないと思う女の子。でも、大人の僕から見れば自分でしっかり考えて行動するたいした子でもあります。隣の席の桐生くんと関わることによって、菜ノ花は自分の考えが正しいと突き進むだけでなく、相手の気持ちを慮るということも学んでいくのですから、こんな賢い子はちょっといません。
 奈ノ花は、学校の授業で宿題となった「幸せとは何か」をアバズレさんたちと話して考えます。そして、そんな奈ノ花に「幸せとは何か」を尋ねられたアバズレさんたちも、奈ノ花と話すことによって、自分たちの「幸せとは何か」に気づきます。このあたり、ちょっと切ないです。
 その中で、やがて訪れる別れに、読者は作者が仕掛けていた伏線に気づき、この物語が語ろうとしていたことに、大きく感動することになります。
 「君の膵臓~」は悲しいラストでしたが、こちらはハッピーエンド。温かな気持ちになります。思わせぶりな最後の一行は何を意味しているのでしょうか。 
 リストへ
か「」く「」し「」ご「」と  新潮社 
 5人の高校2年生の男女による青春物語です。物語は5章からなっており、それぞれ5人の視点で描かれます。変な題名だと思ったら、各章は「」の部分に、第1章は句読点が、第2章は斜めの線やイコールが、第3章では数字が、第4章ではトランプのマークが、第5章では矢印が入ってきます。これが何かと思ったら、5人が5人とも、周囲の人の頭の上に浮かぶ句読点やトランプマーク等々を見ることにより、相手の気持ちを見ることができる能力を持っているというもの。
 ファンタジックな設定だけみれば、「なんだこの小説!?」と呆れてしまう人もいるかもしれませんが、内容は青春小説そのものです。誰かのことを思いやったり、誰かのことを好きになったり、卒業後の進路に悩んだり、クラスで力を合わせてひとつの目標に突き進んだりと、「青春っていいなあ」と、ついつい、若き頃のことを思いやりながら読み進むことができました。
 それぞれ見る形は違いますが、相手の気持ちを見ることができる能力は同じです。いつも「自分なんて」と尻込みしてしまう京をはじめ、それぞれのキャラが書き分けられていますが、嫌なヤツは誰もいません。こんなヤツいたよなあと懐かしく高校時代を振り返りながらいっきに読了です。 
 リストへ
青くて痛くて脆い 角川書店 
 自分の行動で相手に不快な思いをさせたくないと考える田端楓は人に不用意に近づきすぎない、誰かの意見に反対する意見を口に出さないことをモットーに大学生活を送ろうとしていた。そんな楓に、講義中に空気の読めない発言を繰り返し、周囲から浮いている秋吉久乃が声をかけてきて、いつしか話をする間柄になる。やがて、二人は“なりたい自分になる”という理想を掲げて「モアイ」と名付けたサークルを結成する・・・。
 物語は、二人が名付けた「モアイ」が結成当初と異なる目的を持った学内でも幅をきかせる大きな団体になったことを苦々しく思っている楓が、内定を得たことをきっかけに「モアイ」を当初の理想を持ったものに戻そうと、現在の「モアイ」に戦いを挑む様子を描いていきます。
 読み終わって思ったのは、この作品は読む人によって好き嫌いがかなりあるのではないかということ。そういう私は嫌いな方です。とにかく、主人公の楓にイライラしてしまいます。物語前半には一緒に戦ってくれる友人の董介を騙すような言い方、ひいては読者をミスリーディングするような話をしていたことに対し、事実が明らかになったときには、この男は何をかっこつけているんだと思ってしまいました。内定となって将来に目処がついたので、それまで何もしなかったのに今更ながら時間潰しにやるのかと、意地悪な目で見ればそう思わざるを得ません。自分だって理想より現実を追いかけているのではないのか、何だか独りよがりで、自分に酔っているとしか考えられませんでした。
 このように主人公に共感することがまったくできなかったので、残念ながら感動することはできませんでした。ラストの展開はちょっとホッとしましたけど。
リストへ