ゲームセットにはまだ早い ☆ | 幻冬舎 |
社会人野球の佐久間運輸の野球都に所属する高階。彼は大学時代ドラフトにかかる選手と言われていたが、怪我のためプロには進めず、社会人野球の佐久間運輸野球都に所属しながらプロヘの道を諦めきれないでいた。ところが、突然野球都が廃部となることが決まり、今後どうするか悩んでいたところに、新潟にあるクラブチームから誘いの声がかかる・・・。 初めて読む須賀しのぶさんの作品です。高校野球の監督時代、無名の学校を甲子園ベスト4まで進め、その後海外で野球を指導していた監督、高校時代剛速球投手と名を馳せながら、巨人に入団後素行の悪さから2年で首になった選手など、誰もがプロや社会人から見捨てられ、一度は夢破れた男たち、そしてチームのマネージャーとなった一人の女性が再度夢にチャレンジするまでを描く作品です。 各章、語り手を変えて物語は進んでいきます。ストーリー的にはよくあるパターンの作品で(最近テレビでも放映した池井戸潤さんの「ルーズヴェルト・ゲーム」が廃部となりそうな社会人野球のチームが、元高校野球の投手だった男を中心に奇跡の逆転劇を見せる話でしたね。)、ラストの落としどころもだいたい想像できてしまうのですが、想像できながらも不思議とこういうストーリーにはワクワクドキドキ心惹きつけられてしまいます。 |
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革命前夜 ☆ | 文藝春秋 |
須賀しのぶさんの初めて読んだ「ゲームセットにはまだ早い」とはまったく雰囲気の異なった作品でした。 物語は、ベルリンの壁が崩壊する直前に日本から東ドイツのドレスデンの音楽大学にピアノを学ぶために留学した眞山柊史が彼の地で経験したことを描いていきます。 東西冷戦の中、築かれたベルリンの壁が壊されたのはいつだったろうと思うほど、すでに忘却の彼方に過ぎ去ってしまった歴史の1ページの出来事ですが、改めて調べてみると1989年11月のこと。あれから25年以上がたちました。遠い東ドイツの地で起きたベルリンの壁の崩壊はニュースで見た記億がありますが、バブル景気で浮かれていた日本人がどれほど真剣にその出来事の意味を考えていたのでしょうか。ベルリンの壁のことなど知らない若者も多くなっていると思いますが、そんな現在、この作品はどう読まれるのでしょう。 国民が密告者か、そうでない人に二分されるという想像もつかない世界に、平和な日本から留学生としてやってきた柊史。二人のバイオリンの天才、音楽のためなら他人の不幸など気にもしないハンガリー人のラカトシュ・ベンツェルと、彼とは逆に柊史にも気を遣ってくれる明るいドイツ人のイェンツ・シュトライヒや様々なものを背負ってきている共産圏からの留学生たち、更にはその美しさと彼女の弾くオルガンの音に心惹かれるクリスタとの交流を通し、柊史も時代の荒波の中に巻き込まれていきます。 その場にいなくても読者に時代の潮流を感じさせてくれた須賀さんの筆力に脱帽です。ミステリ的な要素もあって、これからどうなるのだろうとページを繰る手が止まりませんでした。おすすめです。 |
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また、桜の国で ☆ | 祥伝社 |
主人公の棚倉慎はロシア革命によって国に帰ることができなくなった白系ロシア人を父に持ち、外見は日本人というよりスラブ系の面立ちの青年。1938年9月、慎は外務書記生としてポーランドの日本大使館に着任する。 物語は、第二次世界大戦の暗雲が立ちこめる時代に、ポーランドの日本大使館に着任した慎が、ユダヤ系のポーランド人、ヤン・フリードマンやアメリカ人のジャーナリスト、レイモンド・パーカーと出会う中で、西からはナチスドイツ、東からはソ連の侵攻に脅かされるポーランドと日本との親交が失われないよう尽力する様を描いていきます。 高校生の頃学んだ世界史は受験の関係で第一次世界大戦くらいまでで、ロシア革命とかナチスドイツやヒトラーによるユダヤ人虐殺などは学校の授業でなく知識として知ってはいたものの、ポーランドという国がソ連とドイツの狭間で国が地図上から消滅している歴史はまったく知りませんでした。ましてや、日本がロシア革命で孤児となったポーランドの子どもたちを保護したことや成長した彼らが「極東青年会」なる組織を作るほど日本に対して親近感を持っていたなどということはなおさらです。 大国の思惑で翻弄されるポーランド人の姿には衝撃を受けざるを得ません。かつて、国が消滅した経験のあるポーランド人の最後まで戦うという思いは、日本人の玉砕とは最後は死ということは同じでも、まったく違う意味であることがわかります。歴史的な状況がポーランド人にそういう思いを抱かせるのでしょう。 「革命前夜」にも圧倒されましたが、この作品もそれ以上に心に訴えるものがあり、500ページ近い大部でしたが飽きることはまったくありませんでした。オススメです。 |
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荒城に白百合ありて ☆ | 角川書店 |
(ネタバレあり) 久しぶりに時代劇を読みました。いっき読みの面白さです。 作者の須賀さんは「革命前夜」や「また、桜の国で」などヨーロッパを舞台に激動の時代に翻弄される人々を描いた作品を多く書かれていますが、今回の舞台は幕末の日本です。 主人公は二人。江戸定詰の会津藩士の長女として生まれた青垣鏡子と昌平黌で学ぶために江戸にやってきた薩摩藩士の岡元伊織。会津藩と薩摩藩といえば、旧幕府側と新政府側とに分かれ、会津戦争で激しく戦った敵同士。そんなこともあって、家同士が敵対する中での悲恋ということから“ロミオとジュリエット”が頭に浮かびます。ただ、須賀さんのインタビューを読むと二人の関係は“トリスタンとイゾルデ”だそうです。とはいえ、“トリスタンとイゾルデ”を知らないので、個人的には“ロミオとジュリエット”と言ってくれた方がわかりやすいのですが、鏡子と伊織の関係は、激しく恋焦がれ、相手を求めるということはありません。江戸が安政の大地震により、家屋が崩壊し火事が起こる中で、伊織は一人でさまよい歩く鏡子に出会い、鏡子の家を探して連れていくのが最初の出会いです。その後、父と兄と親しくなった伊織が青垣家にやってきても、鏡子が恋する少女のような態度を取ることなく、やがて青垣家は会津に戻り、鏡子も森名家に嫁ぎ、子をなします。結局、二人はそれほど会っていないのですよね。お互いに心の裡を見せることもしませんし。 そんな二人がどこか惹かれ合ったのは、お互いに自分と同じ何かを相手の中に見たからというもの。ラスト、会津に攻め入った新政府軍の一員である伊織と会津の女として潔く死んでいこうとする鏡子がそれぞれどうしたのか。最後に至って、ようやく二人はすべてを捨て、命を懸けて求め合ったということなのでしょう。やっぱりここは悲恋です。 作中に登場する中野竹子や神保雪子は実在の人物。中野竹子は会津戦争で戦死、神保雪子も自決したそうです。NHK大河ドラマ「八重の桜」の主人公・山本八重の名も登場します。 |
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