第54回日本推理作家協会長編・連作短編集部門賞受賞作品です。
物語の舞台は、地球の衛星軌道上に浮かぶ博物館惑星アフロディーテ。この惑星は、その全体が博物館を構成しており、全世界のさまざまな美術品が収蔵されています。音楽・文芸担当部門は「ミューズ」、絵画・工芸担当部門は「アテナ」、動・植物部門は「デメテル」、そして、それらを統括する部門として「アポロン」が置かれており、それぞれのデータベース・コンピューターを頭脳に直接接続した学芸員によって、研究が進められています。
主人公は、アポロンに所属する田代孝弘。物語は、田代の元に持ち込まれるやっかいごとを巡る9編からなる連作短編集です。
理系の頭を持っていない僕にとっては、随所に出てくる理系の言葉が、理解できないところがありました。直接接続という概念がうまく創造できませんでしたし、科学的な単語、例えば黄金率の説明もよくわかりません。でも、わからないで読み進めていっても、それを補って余るほどの素敵な物語でした。
その中でも一番は、やはり、表題作の「永遠の森」でしょうか。若き頃、交際していた二人。男は彼女を捨てたばかりでなく、彼女のアイディアを盗用し名声を高めていく。残された女は、その後も結婚をせず、彼との思い出を胸に人形作りに専念する。そんな二人が生前残した「エターニティ」と名付けられたバイオ・クロックと「期待」と銘打たれたオルゴール人形が並べられたとたん・・・。
ラストの情景が心の中に浮かび上がりました。
それぞれの物語は完結するのですが、全編をとおして、その底辺に流れているテーマがあります。それが最後の「ラブ・ソング」で描かれますが、実はそこまでに伏線がそっと置かれていたのに気がつきます。そして、それまでさらっと書かれていたある人物が登場し、素敵なラストを迎えます。ボキャブラリーに乏しくて、こんな言い方しかできませんが、オススメです。 |