日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作を含む3話からなる短編集です。
表題作「熱帯夜」では、訪れた友人の家で、借金の金策に行く友人の代わりに、友人の妻とともに借金取りのやくざに監禁された男の視点で語られる章と、仕事から帰る途中の看護師の視点で語られる章が交互に描かれます。この二つの章がどこで繋がってくるのかがこの作品の見せどころです。曽根さん、見事に読者をミスリーディングします。さらに、メイントリックだけでなく、読者のミスリーディングを誘うちょっとしたトリックもあり、読ませます。いろいろ伏線は張られているのですが、見事に騙されました。
「あげくの果て」は、近未来の日本を描いたブラックな作品です。日本は、隣国と戦争をしているという設定で、なんと高齢者に徴兵制度があり、“お迎え”と称する召集令状により戦地に赴きます。世の中には、この制度に反対する敬老主義過激派組織「連合銀軍」がいる一方、国が疲弊したのは今の高齢者のせいであると主張する若者たちの廃老主義青年組織「アオ」があり、対立しています。この作品は、こうした世の中に翻弄されるある一家を描いたもので、一家の行き着く先には、あまりに悲しい現実が待っています。切ないです。
「最後の言い訳」は、ブラックなホラー作品です。市役所の苦情処理係として勤める主人公の現在と小学生の頃の回想、そしてところどころに挿入されるニュースにより、ゾンビが次第に増加し、今ではゾンビの方が多数派という世の中の現状を描き上げていきます。ゴミ屋敷のゴミの撤去に行った先で彼が直面する重要な選択の結果を表わす最後の一行が何とも言えません。これは、悲しいラストですが、ある意味爽やかなラストでもあります。 |