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白河三兎の本棚

  1. 総理大臣暗殺クラブ
  2. 神様は勝たせない
  3. ふたえ
  4. 小人の巣
  5. 田嶋春にはなりたくない
  6. 計画結婚
  7. 無事に返してほしければ

総理大臣暗殺クラブ  ☆ 角川書店
 双子の姉妹である茂子と三重子。妹の三重子は父親の死亡した直後に発した母親の言葉にショックを受け、母と姉に絶縁宣言し、父方の祖父母の家で暮らしている。姉の茂子は変貌する妹を心配して妹と同じ高校に入学する。そこで再会した妹から関係を改善する代わりに表向きは「政治部」、その実態は「総理大臣暗殺クラブ」への入部を求められ、部長に就任する。
 だいたい総理大臣を暗殺しようと考える三重子、そしてそれに同意する他のメンバーによる相当破天荒なストーリー展開といっていいでしょう。“総理大臣暗殺”という言葉からストレートなサスペンスを期待すると裏切られます。
 その破天荒なストーリーを支えるメンバーが個性的というか変わり者ばかり。姉妹のほかは、情報収集のスペシャリスト“ムセン”、金持ちでクラブのスポンサーとなる“ボンボン”、風貌が中年のおじさんの“オッサン”の3人(途中から1人加わりますが、ネタバレになるので伏せます。)。
 もちろん、総理大臣暗殺などという大それたことを高校生ができるわけがないのですから、青春大好き(?)な僕としては、当然クラブを舞台にした青春物語と期待して読み進みました。ところがこの5人、目的目指して格闘技や銃の使い方など真剣に取り組みます。こんなことあり得ないだろう、これってユーモア小説なのか、はたまたおバカ小説かと一度は途中で投げ出しそうになってしまいました。ちょっと、とっつきにくい作品かもしれません。
 茂子らは、万引き犯に間違えられたオッサンの妹が撮られた写真を取り返そうとしたり、スナイパーをスカウトするためにスナイパーから出された条件である生徒会長選挙での生徒会長の狙撃を阻止しようとしたり、ムセンをチビと馬鹿にした陸上部のエースの鼻を明かすため運動会の部活動対抗リレーで勝利しようとしたり、スリの天才のお婆さんからその技術を学ぼうとするなど着々とクラブ活動を展開します。お互いに騙しあいながらの活動の中で各部員の隠されたキャラがしだいに現れてきます。
 最後はとんでもないことが起きるのかと思ったら大団円となりますが、結局はこの作品は、思ったとおりの青春小説に着地しました。登場人物の一人が言います「学校にいれば、夢や惰性や退屈や恋なんかの全てが守られる。外から邪魔されない。人生の中でそういう時間があるって素敵なことだ」と。クラブのみんな、居場所を探していたのですね。
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神様は勝たせない  ☆ ハヤカワ文庫
 サッカー部顧問の阪堂の口車にうまく乗せられて中学校でサッカー部に入った潮崎。和気藹々の仲良しクラブだと思っていた潮崎だったが、体験入部から正式部員になった途端、阪堂の優しさは一変し、騙されたと思ったが時既に遅し、全国大会出場目指してスパルタ式の練習が続くようになる。
 チームの主要メンバーそれぞれの語りで進められていく物語は、県予選の準々決勝の試合の場面から始まります。2点を先取され、後半同点に追いついたものの、延長戦で勝ちきれずPK戦に突入、すでに潮崎のチームは先頭から2人が続けて外して大ピンチ。敗戦濃厚の中、ゴールキーパーの潮崎は勝利を信じて相手エースに対峙します。
 キャプテンとなった潮崎、女子サッカーの経験のある鬼マネージャーの広瀬、守りの要でモテ男だけど実は広瀬が好きな真壁、万年ベンチのユーティリティプレーヤーの宇田川、監督の息子でエースストライカーの阪堂、ゲームメーカーの司令塔の鈴木の6人の部員それぞれがこの試合に至るまでの道のりを振り返っていきます。そのなかで、準々決勝の試合を前にして、まとまりのあったチーム内に何らかの顧問の阪堂を信頼できない事態が生じ、チームがバラバラになってしまったことが語られますが、それが何かはなかなか明らかにされません。果たして、いったい何が起こったのか。それぞれのメンバーがまったく関係のないように語っていた話が伏線になっているとはねえ。
 想像もできなかった思わぬ事態に揺れ動く中学生たちの心の内が鮮やかに描かれています。先に読んだ最新作「総理大臣暗殺クラブ」は読む人を選ぶかもしれませんが、これは誰もにおススメです。
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ふたえ  ☆  祥伝社 
  物語は高校のあるクラスに手代木麗華という女の子が転校してくることから始まります。
 転校生紹介の際の言動から教師やクラスメートたちから触らぬ神にたたりなしの存在となった麗華は、三泊四目の修学旅行の班分けでクラスの仲間はずれが集まる『ぼっち班』に入る。『ぼっち班』のメンバーは、麗華の他、暇さえあれば将棋をしている「渡辺右京」、どのクラスにも一人はいる地味な男子「宮下寛」、何をやっても鈍くさい「ノロ子」、クラスで一番大人しい「桜井加代」、タロット占いが趣味の「小堀しずえ」。彼女ら6人の修学旅行の旅が始まるが・・・。
 クラスで常にひとりぼっちの者たちが語り手を変えながら、修学旅行の日を語っていきます。マンガミュージアム「えむえむ」から抜け出した麗華とそれを追う寛とノロ子を描くこの作品の重要な位置づけとなる冒頭の「重なる二人」、舞妓体験で一日だけ舞妓になって周囲の人から目立ちたいと考える日立たない女の子を描く「素顔に重ねる」、常に弟の“劣化版”である渡辺右京が将棋のネット対戦をしている京都の女の子に会いに行く様子を描く「重なる想い」、修学旅行をずる休みし、誰もいない教室にある生徒の持ち物から情報を収集しタロット占いに活かそうとするしずえを描く「偶然に重ねる」、弟の事故死をきっかけに父母との心の繋がりをなくした加代を描く「重なる生徒」と続き、ラストの「過去に重ねる」で、そこまでに頭に描いていた情景が別の情景へと変わってしまう驚きの事実が明らかにされます。
 書評家の北上次郎さんが「本の雑誌9月号」で“今年の夏のベスト1!”と絶賛していたので、読んでみました。見事に白河さんに騙されました。修学旅行の中でひとりぼっちの生徒たちの心情を描く青春小説として読ませますが、ただそれだけにとどまらず、最後の章で驚きの事実を読者に明らかにします。慌てて前に戻って確認すると、あちこちに伏線が張ってありました。そもそも麗華の転校の挨拶の口の悪い言葉遣いやひとりぼっちたちのあだ名からして白河さんのミスリーディングです。ミステリとしてはよくあるパターンのトリックだったのですが、やられました。
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小人の巣  双葉社 
 いじめに遭い、学校の屋上から飛び降りようとした木原沙菜は、そこにいた保健室の春日先生から、自殺幇助サイト“小人の巣”を教えられる。サイトの管理人“シャーマン”から自殺をするための薬を渡すと言われた沙菜は指定された病院の病室を訪ねるが、そこにいたのは10歳の少女・若宮明だった。明は臓器移植を待っており、彼女の父は自殺者から臓器提供を受けようと、自殺幇助サイトを設けたが、明は父親の思惑とは異なり、自殺を考えている者に自殺を思い留まらせようとしていた。
 5編が収録された連作短編集です。それぞれの自殺を考える者がなぜ自殺を考えるに至ったかを一人称で描きながら、自殺の考えを翻すまでの様子を描いていきます。前作「ふたえ」と異なって、読者をミスリードするような叙述もほとんどなく(ある登場人物の正体をぼやかしていたくらいでしょうか。)、ミステリ色は薄い作品です。ラストの5章でそれまでの伏線が回収されていきますが、ちょっとあっけない終わり方だったかなという印象は否定できません。もう少し、明という少女の人となりが描かれても良かったのでは。 
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田嶋春にはなりたくない  新潮社 
 東京の一流私大の法学部の学生である田嶋春、ニックネーム“タージ”を主人公に、彼女と関わる5人の男女の語りによって“田嶋春”という一人の女性を描いていきます。
 田嶋春という女性、とにかく真っ直ぐな人物でルールは厳格に守るし、守らない人には守るようしつこく迫る、他人から見ると余計なお節介や親切の押し売りですが、本人はお節介や押し売りと思っていないのだから始末に悪いです。その場の空気は読まないし、人を苛つかせるが、そんなことは何とも思わない、というより人がどう思っているかは関係なく正義だと思えば突っ走る、他人から見ると理解不能な不思議ちゃんという人物です。
 こんな女性が実際にいたら関わりたくないというのが本音ですが、この物語では、彼女と関わった5人の男女、コンパで酔った女性をお持ち帰ろうとしている先輩から酔った女性が心配だとついてくるタージをどうにかするよう言われた菅野、アルバイトの女子学生と不倫をしている生協職員の深井、浪人して入学したことを負い目に感じながら姉御肌キャラとなってしまった高橋奏、タージからバイト先の先輩について相談を受けたサークル“N・A・O”の部長・宮崎、タージがアルバイトをしている遊園地の観覧車乗り場のセンパイが、そんな彼女の言動に閉口しながらも次第に彼女を理解するようになっていく様子を描いていきます。
 タージのいうことはまったく正しいです。ただ、正義を貫くのもいいけど、社会の中ではその場で言わなくてもとか、そういう言い方をしなくてもいうこともあります。そういうことを、彼女は大学生になるまでにまったく学んでこなかったのでしょう。こんなこと言うのは、すっかり世間に毒されたおじさんだからでしょうけど・・・。タージを理解するようになる、この物語の5人の男女は基本的に優しい人だからですね。
 ただ、ラストの「手の中の空白」では、タージの印象がちょっと変わります。行動は相変わらず変ですが、タージをかわいいなと思ってしまうストーリーとなっています。
 一番心に残ったのは第2章の「自作自演のミルフューユ」。結婚当初のように素直に心を打ち明けられなくなった夫婦関係をどうにがしようとした妻に温かい拍手を、そしてそれに気付かず浮気までしていた夫に力のこもった張り手をお見舞いしたいです。 
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計画結婚  徳間書店 
 結婚式で同じテーブルに座った新婦側招待者の佐古怜美、桜田祐介、富永仁、新郎側招待者の高原満男、小暮宏、三谷信之助の6人。新婦側の招待者のうち怜美は新婦の久曽神静香の幼馴染みで桜田は美容師。かつて二人は静香の仲立ちによって交際していたが、桜田が静香を好きになってしまい、交際を解消した過去があった。もう一人の富永は結婚相談所の相談員。会員になった静香の相談に乗っていたが、ある日、静香は婚活パーティーで知り合った男と結婚すると宣言する。一方、新郎側の招待者3人は実は結婚式のための代理出席のアルバイト。更に高原は身分を偽っており、実は警察官で、新郎が妹を騙した結婚詐欺師だと知り、彼を捕まえるために結婚式に潜り込む。小暮は花嫁姿フェチで3年間に14回も結婚式に雇われ友人として出席している。高原に正体を明かされ、彼を手伝うこととなるが・・・。
 各章、語り手を変えながら、久曽神静香という女性の人となりから結婚に至るまでのことが新婦側の招待者3人によって語られるとともに、新婦側の招待者高原によって新郎の正体が明かされていきます。
 予想もつかないフィナーレと本の紹介にありましたが、まあ確かに、この展開は予想できませんでした。誰もが目を瞠るほどの美人だけどある意味面倒くさい女性である久曽神静香。人の心の裡も読み取るような頭のいい女性がどうして結婚詐欺師に引っかかったの
か。思わぬ詐欺師の反撃もあって、事態は急展開です。ラストは読者も実はミスリードさせられていた事実が明らかとなって、物語は大団円を迎えます。
 それにしても、いくら絶世の美人でもあの性格では相手の男性は疲れてしまいます。よほど彼女のことを理解してくれる人でないと結婚生活は続かないのでは。
 ちょっとコメディタッチの作品で250ページ弱なのであっという間に読了。これで税込み1728円は高かったかなあという感じです。 
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無事に返してほしければ  小学館 
 日野拓真はレストランのオーナーシェフ。彼には2年半前、川で幼い息子・啓太と乗ったカヤックが転覆し、自分は助かったが啓太が行方不明となる過去があった。そんなある日、死んだはずの啓太を誘拐したという電話が入る。最近誘拐を装った悪戯電話が多発していることもあって、日野は本気にはしていなかったが、やがて、身代金を要求する犯人の電話で啓太の声を聞いて、もしかしたら生きているのではと思い警察に通報する・・・。
 作品は4章から構成されますが、前半2章と後半2章は共通の登場人物はいるものの、まったく別のストーリーです。前半2章のストーリーが後半2章にどう関係してくるだろうと思いながら読み進みましたが、まったく関係ありませんでした。これには肩透かしです。同じなのは、テーマが誘拐ということだけです。
 前半2章については、あの犯人にここまでのことができるのかということがまず疑問です。それに、だいたい刑事が家の中にいるのに長女を部屋から誘拐するという犯人の行動は異常だと思わないでしょうか。いくら何でも、不自然な行動です。それに妻から一方的に非難される拓真がかわいそうです。妻の方がより強く非難されるべきだと思うのですが。また、捜査に当たる女性刑事・ヒナが刑事になろうと考えるきっかけとなった幼い頃の事件も、犯人がそこまで計画を立てることができるのかと言いたくなります。
 後半2章については、ミステリによくあるトリックが使われており、読者はミスリードされます。第3章から第4章に移った際に、多くの読者が「あれ?」と思うのではないでしょうか。ストーリー展開はだいたい予想がつくのですが、ラストの女性刑事がナイフで刺される場面が説明不足で、未だにどういうことだったのかがよくわかりません。 
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