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篠田真由美の本棚

  1. angels 天使たちの長い夜
  2. 未明の家 建築探偵桜井京介の事件簿
  3. 玄い女神 建築探偵桜井京介の事件簿
  4. 原罪の庭 建築探偵桜井京介の事件簿
  5. Ave Maria
  6. 失楽の街 建築探偵桜井京介の事件簿
  7. 風信子の家 神代教授の日常と謎
  8. 一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿
  9. 桜の園 神代教授の日常と謎
  10. 桜闇 建築探偵桜井京介の事件簿

angels 天使たちの長い夜 講談社ノベルス
 建築探偵シリーズ番外編。薬師寺香澄こと蒼が高校三年生の時の事件を描いたものです。夏休みの登校日の夕方、校舎内で身元のわからない男の死体が発見されます。死体には学校の購買部で売っているナイフが刺さっていました。犯人は自分たちの中の誰かなのか。思わぬことから校舎内に閉じこめられてしまった蒼たち男女15人の高校生は、自らの手で真相を解明しようとします。果たして高校生たちの前に現れる真実とは・・・。
 建築探偵シリーズは「未明の家」と「灰色の砦」を持っているのですが、積読ままになっているため、これが初めて読んだ作品です。物語にはシリーズの主役である桜井京介は登場せず、そのうえ、語り手は薬師寺香澄の同級生・結城翳で、蒼は15人の1人に過ぎません。どうもこういう"青春もの"には惹かれてしまうので、最初に読んでしまいましたが、シリーズを読んでいなくても十分楽しめます。もちろん、読んでいれば、今の蒼と比較ができて、より楽しめるのでしょうが。
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未明の家 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社文庫
 大学構内の掲示板に貼られた建築物を鑑定するとの張り紙。この張り紙に誘われて、桜井京介のもとを一人の女子大生遊馬(あすま)理緒が訪ねてくるところから物語は始まります。遊馬家の別荘「黎明荘」では理緒の祖父歴が事故死、その息子で理緒の父が自殺未遂という事件が起きています。そして、京介たちがその別荘の調査を始めると、また新たな事件が・・・。
 建築探偵シリーズの記念すべき第1作です。前髪を垂らしていて表情が読み取れないが、実は類い希なる美貌を有している桜井京介、それに蒼と名乗る何らかの秘密を有しているらしいアシスタントの少年、さらにもう一人の相棒は髭面のむくつけき男とくれば、なんだか少女漫画みたいな設定です。京介の美貌が、本人にとっては弱点だとありますが、そんなことは歯牙にもかけない性格のように思えるのですが(探偵役というのはどうしてみんないい男なのでしょうか。不細工だっていいじゃないか、名探偵なら!と、ひがみたくなります)。
 正直のところ、犯人は途中で予想できてしまいます。また、建物が主人公という割には、綾辻行人の「館シリーズ」と比較すると「館」があまりインパクトがないような気がするのですが・・・。
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玄い女神 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社文庫
 建築探偵シリーズ第2作です。10年前にインドで起きた殺人事件の真相を明らかにするために、山奥のホテルへと呼び集められた関係者。彼らを呼び集めた狩野都は10年前は高校生でインドに行かなかった桜井京介に真相を明らかにすることを依頼します。しかし、狩野都は自殺をしてしまい、さらに彼らは悪天候によりホテルに閉じこめられることになります。そんな中、新たな殺人事件が・・・。 
 10年前の事件の夜彼らが何をしていたのかは分かってしまいましたし、最後の“ある事実”については、読んでいるうちになんとなく予想がついてしまい、驚かされるということはなかったのは残念です。それにしても、第1作でもそうだったのですが、あまり家そのものと事件とは関係ない気がします。事件自体の謎より、僕としては蒼の謎の方が気にかかってしまいます。この作品の中でも蒼についての謎がほのめかされます。いったい何なんでしょうか。
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原罪の庭 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社文庫
 ベッドの上で薬を服用して死んでいた痴呆の老女、さらに密室状態の温室の中で天井の梁に結ばれたロープに足首を縛られてつるされた3つの死体。その下のチェストの中で7歳の蒼は発見されたのです。果たして、この凄惨な事件は7歳の蒼が行ったものなのか。
 シリーズ第5作にして第1部完結編です。この作品で、桜井京介と蒼との出会いが語られ、ついに蒼の過去が明らかとなります。そして、どうして蒼という名前で呼ばれているのか。蒼の無実を信じる桜井京介が、事件の謎に挑みます。
 今まで読んだシリーズの中では一番おもしろかった作品です。相変わらず桜井京介が少女漫画に出てくるようなかっこいい青年の印象が拭えませんが・・・。それにしても、あの蒼の過去にこんな悲惨な出来事があったなんて思いもしませんでしたね。
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Ave Maria 講談社ノベルス
 建築探偵シリーズ番外編です。初めに篠田さんも述べているとおり、この作品はシリーズ5作目の「原罪の庭」のネタばれとなっており、この作品の前にそちらを読む必要があります。いつもの建築物があってそれに関わる人の間で起こる事件を京介が解決するという話ではありません。ミステリというよりは蒼の成長物語です。シリーズのファンの人には重要な作品であるといえます。番外編としては、僕は未読ですが、蒼が11歳から20歳までを描いた「センティメンタル・ブルー」があります。やはり蒼の物語である限り、年齢順に読めば良かったのかと少し後悔しています。
 この作品で気になったことがありました。この作品では蒼は大学生ですが、読んでいてどうも大学生にしては幼いという気がしました。高校生、いや中学生という感じだなあと。それについては、シリーズを読み続けている人も蒼が年齢より幼いと感じている人が多かったらしく、この作品のあとがきの中で作者はそれに対する回答(理由)を述べています。
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失楽の街 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社ノベルス
 建築探偵シリーズ第二部終了編です。表紙の折り返しに、『本編に仕掛けられているトリックは「探偵=犯人」である』と書かれていたので、「え!探偵が犯人ということは、桜井京介が犯人なの」とびっくりしてしまいました。第二部終了にして、ついに京介が犯罪を犯すのかぁ〜と思ったのですが、結局そういうこと(どういうことかは、読んでください)だったのですね。
 インターネットのサイトによって犯人たちが知り合うなんて、あまりに現代的ですが、ある方面の知識のある人にはこの点のあることから(「ある・・・」ばかりですが、ネタばれになるので明らかにできません)、すぐに犯人がわかってしまうのではないでしょうか。ただ、僕には犯人が明らかとなったあとにおいても、どうして犯人があのようなサイトを立ち上げたのかが、今一つ理解できないのですが・・・。
 第三部では、いよいよ桜井京介の謎が描かれていくようです。そちらに期待しましょう。

 作品は1970年代に起こった連続企業爆破事件を題材としています。当時、僕はまだ中学生ぐらいだったと思いますが、ガラスの破片がそこらじゅうに飛び散っていた事件の惨劇は、記憶の片隅に残っています。罪もない通行人が被害にあったということに幼い心ながら大いに憤りを感じたものでした。
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風信子の家 神代教授の日常と謎 東京創元社
 講談社から刊行されている「建築探偵」シリーズ番外編です。
 「建築探偵」シリーズの主人公桜井京介の恩師であるW大学教授の神代宗を主人公にした5編からなる連作短編集です。シリーズの初期作品はあまり読んでないという、それほど熱心でない読者の僕にとっては、神代教授の印象は薄いのですが、どうもこのシリーズにはなくてはならない人物の一人のようですね。
 今回桜井京介や蒼、深春は脇役です。まだ青は10代前半、京介は大学生という頃の話ですから、時期は建築探偵シリーズの始まる前の話となっています。とはいえ、やはり「建築探偵」シリーズの番外編ですから、“風信子の家”“夢魔の目覚める夜”には館も登場します。神代教授の生い立ちや、京介に負けず劣らず切れ者の親友(?)ともいうべき人物も登場しており、「建築探偵」シリーズのファンにはたまらない1冊になりそうです。
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一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社ノベルス
 建築探偵桜井京介シリーズ本編の13作目です。
 このシリーズは、単にミステリというだけでなく、登場人物の歴史(といったら大げさか。人生と言い換えてもいいでしょうか)を描いていますので、できればシリーズの順を追って読むのがいいですね。なかでも薬師寺香澄、通称蒼のことを知らないで読むと、このシリーズの魅力は半減します。そういう僕自身も、シリーズの中でおもしろそうなものをつまみながら読んでいるので、シリーズ全体のおもしろさがわかっていないかもしれません。
 物語は深春が京介に敵意を燃やす松浦窮から蒼を守るために、前作で心身共に傷ついた蒼をともなって、一部の人だけのための隠れたリゾート地を訪れるところから始まります。都会から隔絶された地で起こる事件の中で松浦が事件にどうかかわっているのか。いったい誰が彼に操られているのか。
 このシリーズは、今作を入れてあと3作でラストだそうですが、今回はラストに向けてあることが起こります。前作のあとがきで作者が述べていたように桜井京介は・・・。今回の作品は、このあとがきを読んでいたので、描かれる事件のことより、京介がどうなるのかの方が興味津々でした。そこまでたどり着くのが大変でしたが。次作は過去の出来事に戻ってしまうようですが、出し惜しみしないで早く続きを書いて欲しいですね。
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桜の園 神代教授の日常と謎 東京創元社
 神代教授を主人公とする建築探偵シリーズ番外編第2弾です。「桜の園」「花の形見に」の中編2作が収録されています。
 建築探偵シリーズでは桜井京介たちのよき相談相手の神代ですが、この作品では主人公。といっても、探偵役ではありません。謎を解くのは神代ではなく、神代の幼なじみの小児科医・辰野と京介です。
 「桜の園」は、大学の同僚、大島に頼まれて、彼と一緒に親戚の三人の老女の住む桜館に出向いた神代と辰野が、そこで40年前に起こった出来事の裏に隠された事実を解き明かしていきます。魔女と称される三人の老女たちとのやりとりが読みどころです。
 「花の形見に」は、神代の母の墓に添えられた花と短歌の謎解きを養母である歳の離れた姉から依頼されることから始まります。そこに、「桜の園」に登場したお手伝いの道子や三人の老女の一番上の鏡子から依頼された事件が絡み合って、思わぬ事実が浮かび上がってきます。神代の家に蒼や京介が居候している時代の話なので、蒼や深春も登場し、京介も安楽椅子探偵として登場しますので、建築探偵シリーズファンとしては、うれしい作品となっています。浮かび上がった事実はちょっと偶然が重なりすぎですけど。
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桜闇 建築探偵桜井京介の事件簿 講談社文庫
 先月発売の「燔祭の丘」で終幕を迎えた建築探偵シリーズ初の短編集です。表題作を始めとする10編からなります。背景となる時代は古くは「桜闇」の回想シーンである桜井京介の高校生のときから、新しいところは同じ「桜闇」の蒼がW大に入学した現在時点まで、15年の間に及ぶ様々な話が収録されています。主人公も京介、蒼、深春、神代宗と様々です。
 収録作は、「井戸の中の悪魔」を始めとする二重螺旋の階段がある建物を舞台とした二重螺旋4部作ほかのミステリ以外には、「神代宗の決断と憂欝」や「君の名は空の色」のようにミステリ色は薄いか、あるいはまったくないが、しかしシリーズの全体像を理解する助けになる作品となっています。こういう作品は、シリーズファンとしては他の作品以上に気になります。
 二重螺旋4部作については、頭の中に二重螺旋の建物がうまく思い描けず、そのためミステリとしてのおもしろさをなかなか感じることができませんでした。ただ、4部作の最後の京介が妹の敵として狙われる話を描いた「永遠を巡る螺旋」は、ミステリではよく使われるトリックがメインにあって、おもしろく読むことができます。
 建築ともキャラクターの生い立ちとも関係のない話が「オフィーリア、翔んだ」です。酒場で隣り合わせた京介らしい青年に初老の男性が語る身の上話から青年がある事実を明らかにします。この話はこの短編集の中では異色ですが、安楽椅子探偵もののミステリとしてお気に入りの1作です。
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