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島村洋子の本棚

  1. あんたのバラード
  2. 野球小僧

あんたのバラード 光文社
 表題作である「あんたのバラード」等、主に80年代に流れていた曲を題名とした8編からなる短編集です。この8編の題名を聞いて懐かしいと思う人は、僕と同じ年代の人が多いのではないでしょうか。思わず平積みされていた本の題名を見て手に取ってしまいました。僕が購入した書店では、かなりの島村ファンの店員がいて、ポップで島村洋子さんに"次の直木賞を期待"とかなり入れ込んでいました。
 曲自体がテーマになっているわけではないのですが、物語の一場面にさりげなく流れてきます。
全編をとおして関西弁なので、関西弁を使う女性が友人にいない僕にはちょっと違和感があったのですが、物語は淡々と男と女の関係を描いていきます。直木賞が取れるかはちょっとどうかなという感じですが。
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野球小僧 講談社
 中学時代、それなりに野球の名門のボーイズリーグで活躍し、どこかの高校から勧誘があると思っていた佐久間雪彦。ところが、期特に反して彼にはどこの高校からも勧誘がなく、仕方なく入った高校の野球部には失望して学校も辞めてしまう。叔父の勧めで甲子園球場のグランド整備のバイトを始めた雪彦だったが、そこでビールの売り子をしているカオルに一目惚れしてしまう。
 高校野球で活躍する夢が破れた男、有名高校の野球部に入部したが自分の居場所がなくした男、若き頃高校野球で活躍しながらもある事件がきっかけでプロの夢が破れ、今は有名選手を高校に紹介するブローカーとなった男、そしてそんな父と違う道を歩こうとする訳ありの息子、更には、甲子園球場の整備の仕事に命をかけてきた定年間近の男。そんな彼らが経験する不思議な一夜が描かれます。
 ネットで読んだあらすじから、感動の物語かなと勝手に想像していたのですが、序盤に主人公雪彦の恋の行方が思わぬ展開となり、これはユーモア小説だったのか、作者の島村さんに騙されたかなあと本を買ったことをちょっと後悔しました。本当に大笑いで、待ち望んだ夜がそんな形になってしまった雪彦に同情してしまいましたけど。しかしその展開も感動のひとつの要素となり、ラストに向かって徐々に感動が盛り上がってきました。
 ただ、グランドで起こる奇跡は、僕らの世代でようやく聞いたことがあるなあというくらいですから、8月15日の正午に甲子園で行われる終戦記念日の黙祷と同じで、今の時代に果たしてどれだけの人がその意味をわかるでしょうか。世代のギャップがあるかもしれません。
 島村さん、もうひとつのグッとくる仕掛けも用意しているのですが、これは気付きませんでした。
 ケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」という映画がありましたが、この作品を読みながら、その映画のことが頭の中に浮かんできました。
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