丸の内のオフィス街の片隅にある京料理の「おばんざい」が売り物の「ばんざい屋」の女将を主人公とする表題作ほか6編からなる連作短編集です。
「おばんざい」と女将の魅力に惹かれて訪れる常連客に起こる事件や謎を女将が解き明かします。しかし、ミステリの要素はそれほど強くありません。ミステリというより、女将と古道具屋の清水との恋愛物語といったほうがいいのかもしれません。物語が進むうちに二人の間がしだいに近づいていくとともに、客の前では多くを語らなかった女将の過去が明らかとなっていきます。
作品の中には季節の旬の素材を使った料理や、京の料理が出てきます。文庫の池上冬樹さんの解説にもありましたが、ちょっと池波正太郎さんの作品を思い起こさせます。
賢くて、しかし、あまりでしゃばらない女将がいて、料理はおいしい、こんな「ばんざい屋」のように居心地のいいお店があったら僕も常連客になってみたいと思ってしまう、そんな作品でした。 |