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柴田よしきの本棚

  1. 桜さがし
  2. ふたたびの虹
  3. ワーキングガール・ウォーズ
  4. 窓際の死神
  5. 観覧車
  6. 朝顔はまだ咲かない
  7. やってられない月曜日
  8. 謎の転倒犬 石狩くんと(株)魔泉洞
  9. 竜の涙 ばんざい屋の夜
  10. あおぞら町 春子さんの冒険と推理
  11. 青光の街
  12. さまよえる古道具屋の物語

桜さがし 集英社文庫
 表題作を始めとする8編からなる連作短編集です。ミステリの形はとっていますが、内容は中学時代の同級生男女四人の成長の物語です。それぞれ恋愛や就職に悩みながらも進むべき道を決めていくが古都の風景の中で描かれていきます。そういった意味では青春ストーリーといった趣の作品といっていいでしょうか。
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ふたたびの虹 祥伝社文庫
 丸の内のオフィス街の片隅にある京料理の「おばんざい」が売り物の「ばんざい屋」の女将を主人公とする表題作ほか6編からなる連作短編集です。
 「おばんざい」と女将の魅力に惹かれて訪れる常連客に起こる事件や謎を女将が解き明かします。しかし、ミステリの要素はそれほど強くありません。ミステリというより、女将と古道具屋の清水との恋愛物語といったほうがいいのかもしれません。物語が進むうちに二人の間がしだいに近づいていくとともに、客の前では多くを語らなかった女将の過去が明らかとなっていきます。
 作品の中には季節の旬の素材を使った料理や、京の料理が出てきます。文庫の池上冬樹さんの解説にもありましたが、ちょっと池波正太郎さんの作品を思い起こさせます。
 賢くて、しかし、あまりでしゃばらない女将がいて、料理はおいしい、こんな「ばんざい屋」のように居心地のいいお店があったら僕も常連客になってみたいと思ってしまう、そんな作品でした。
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ワーキングガール・ウォーズ  ☆ 新潮社
 今年は酒井順子さんの「負け犬の遠吠え」のせいで、“どんなに美人で仕事ができても、「30代以上・未婚・子ナシ」は女の負け犬”という女性観が巷を吹き荒れました。
 この物語の主人公翔子は、37歳の未婚の女性という典型的な“負け犬”です。一人でランチを食べるのを気にする時期はとうの昔に去った、しかし、それがどうしたと突っ張る女性です。もう一人は翔子とひょんなことからメル友となったオーストラリアのケアンズ在住の旅行代理店契約社員の愛美。負け犬直前の29歳独身。この二人の働く女性、負け犬と負け犬直前の女性をめぐる表題作を始めとする7編からなる連作短編集です。
 つい最近までは働く女性は“キャリアウーマン”として、もてはやされていたのに、今では“負け犬”では、女性としてはたまったものではないですよね。この物語は、そんな“負け犬”の女性たちの本音が描かれています。でも、けっして後ろ向きではありません。会社の男性にそれでも女かと言われた翔子が、“女らしいってことは、男の都合のいいように動く、男に逆らわないってことじゃないのよ。本物の女らしさってのは、女としてのプライドを簡単に譲らないことなのよ”と言いきるところは爽快です。女性の皆さんは喝采をあげるのではないでしょうか。男性である僕としても拍手喝采です。僕自身は、そんな女性が大好きです。
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窓際の死神 双葉社
(ちょっとネタばれあり)

 おとぎばなしの「おむすびころりん」と「舌きりすずめ」をモチーフに描かれた二編からなる物語です。
 二編に登場するのは、それどれどこにでもいる普通のOLです。「おむすびころりん」の主人公多美は、同じ会社の同僚を好きになりますが、告白もできないまま、男は同僚の女性と婚約してしまい、その後多美は婚約者が死ぬところを想像するようになります。一方「舌きりすずめ」の主人公麦穂は、OLをしながら小説家になる夢を抱き、賞への応募をしていましたが、ある時、同じ会社の女性が麦穂が応募した賞を受賞してしまいます。落胆した麦穂は会社を辞めウェイトレスとして働き始めます。
 好きな男の婚約者の死を想像する自分を嫌悪しながら、愛される女性になりたいとダイエットに励む多美。だらだらとした愛人生活の中での生きがいだった小説の執筆に打撃を受けた麦穂。そんな二人の前に死神が現れることから物語は進んでいきます。
 作品的には「おむすびころりん」の方がおもしろく読むことができました。好きな人を救いたかったら、代わりに自分の命を差し出さなくてはならないと死神に言われた多美はどうするのか。果たして簡単に「彼の代わりに私の命を」と言えるのか、結末が楽しみでした。僕の場合はそんなに簡単に命を差し出すことはできないですけどね。やっぱりいくら愛した人といっても、自分のことが大切です。
 二人の主人公とも、死神から死というものを目の前に突きつけられて、改めて生きるという意味を考えることになります。そうして、彼女たちの出した結論はというと・・・。
 死神が言います。「生きるということは、すべての価値を生きていることそれ自体に見い出すこと。他のことはどうでもいいんです。生きていることそのものが大事なんです。」と。
 彼女たちに生きるということを考えさせた死神は、死神としての仕事を果たしていないことになりますね。
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観覧車 祥伝社文庫
 女性の探偵下澤唯の活躍を描く連作短編集です。唯は探偵事務所を経営していた夫が失踪してから、夫の帰りを待ちながら夫の事務所を守って探偵をしています。最初の話が夫の失踪から3年後、その後最後の話は10年後となります。
 夫の事務所を引き継いだ女性探偵となれば、同じく芦原すなおさんの「雪のマズルカ」の主人公笹野里子がいます。しかし、唯は里子ほどハードボイルドではありません。里子のように鍛えて格闘技を習得したという様子はありませんし、銃を撃つということもありません。こんな女性が探偵稼業をできるのかと危ぶまれるのですが、夫が帰ってきたときに事務所がなければという彼女の思いは悲しいものがあります。
 各編はそれぞれ一話完結です。ただ、作品全体を通して失踪した夫への思いが流れています。自分の元に戻ってこないのは、愛されていないせいではないかと悩み苦しむ唯が哀れです。
 最後は謎を抱えたまま終わります。作者のあとがきを読むと続編があるようですが、その謎がどう明らかとなるのか。果たして唯には再び幸せが訪れるのか、続編が待ち望まれます。  
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朝顔はまだ咲かない 東京創元社
 いじめによって高校を中退し、引き籠もりとなった少女、小夏。そんな小夏の部屋を大した用事もないのに遊びにやってくる秋。この作品は、そんな二人の前に提示される日常の謎(日常の謎というにはちょっと怖ろしい事件も起きますが)を解き明かしていく連作ミステリーです。ミステリーの謎解きとしてはちょっと強引な部分も見られますが、しかし、それよりこの作品は、小夏と秋の友情や、それぞれの恋、そして小夏の引き籠もり生活から外の世界へと飛び出していく成長物語として読んだ方がいいかもしれません。
 脳天気な今時の女子大生という感じの秋のキャラクターが秀逸です。小夏のことを心配しながらも、言うべきことは言う秋が最高です。また、秋だけでなく、小夏を取り巻く人物たち、秋の恋人の俊雄や小夏に恋心を抱く巽らのキャラクターも魅力的で、物語を爽やかなものにしています。
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やってられない月曜日  ☆ 新潮社
 出版社の経理部門に勤めるOL、高遠寧々を主人公とした連作短編集です。それぞれ題名に曜日が入った7編の作品が収録されています。
 コネで入社した寧々が、心の片隅に劣等感を抱きながらも、頑張って生きていく様子が描かれます。Nゲージ用の1/150スケールの住宅模型づくりが趣味という寧々に対し、ボーイズ・ラブの同人誌づくりが趣味という寧々と同じコネ入社の百舌鳥弥々の凸凹コンビのキャラクターが愉快です。自分でブスだと承知しながら、ほっとけと言いきれる寧々、また、自分の気持ちに正直に生きて、コネ入社だからなんなのさと開き直ってしまう心の強さを持つ弥々。まったくうらやましい限りですね。
 各話とも仕事場での様々な人生模様(社内不倫、リストラ、いじめなど)を描いていますので、何だかうちの会社にもありそうな話だなあと思って楽しく(?)読むことができます。
 「ワーキングガール・ウォーズ」の主人公墨田翔子が寧々の従妹として登場しています。この作品の主人公寧々は、翔子のように美人で強い女性ではないですが、女性としてはこちらも魅力的ですよ。
 ちょっと頑張りすぎている友人の女性に、読むのを勧めたい作品です。
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謎の転倒犬 石狩くんと(株)魔泉洞 東京創元社
 ひょんなことからカリスマ占い師・摩耶優麗の下で働くことになってしまった青年・石狩くん。この本は、彼が働くこととなった占いの館“魔泉洞”に持ち込まれる事件を鮮やかに占う摩耶と石狩くんの活躍(?)を描いた連作短編集です。
 各話の題名を見て、あれっ?と思った人は僕と同じ年代の人ですね。「時をかける熟女」は「時をかける少女」、「まぼろしのパンフレンド」は「まぼろしのペンフレンド」、「謎の転倒犬」は「謎の転校生」、「狙われた学割」は「ねらわれた学園」、「七セットふたたび」は「七瀬ふたたび」と、これはかつてNHKで放映されていた少年ドラマシリーズ(ひいては、その原作であった筒井康隆さんや眉村卓さんらのジュブナイル)の題名をもじったものですね。少年ドラマシリーズの大ファンであった身としては、この題名を見ただけで思わず購入してしまいました。
 とはいえ、話の内容はドラマとはまったく異なるものです。少年ドラマシリーズの方はジャンルとしてはSFですが、こちらはユーモア・ミステリで、気楽に読むことができます。占い師の麻耶優麗のキャラクターが凄すぎです。化粧により20代から50代に見えるという、その外観だけでもすごいのに、占いというより超能力を使ったかのように初めて会った石狩くんの過去を言い当てます。そして、もう一人。オカマ言葉で“魔泉洞”の事業を引っ張る宇佐美儀一郎、通称ウサギちゃんのキャラも強烈です。彼らに振り回される石狩くんがかわいそうです(笑)
 このまま終わるのではもったいない。ぜひシリーズ化してほしい作品です。
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竜の涙 ばんざい屋の夜 祥伝社
 「ふたたびの虹」の続編、6編からなる連作短編集です。
 「ふたたびの虹」はだいぶ前に読んだので、すっかり内容は忘れてしまいましたが、女将が日常のミステリの謎を解くという雰囲気もあったような気がします。料理屋とミステリというと、北森鴻さんの"香菜理屋"シリーズを思い起こしますが、今回の作品は、前作と比べるとミステリという要素は少なくなった、というよりほとんどなくなり、東京丸の内にある小料理屋"ばんざい屋"を舞台に、そこを訪れる人たちの人間模様を描いた作品といった方が適切かもしれません。特に同じ広告会社に勤める3人の女性が登場しますが、働く女性として、仕事に恋に、そして健康に悩む姿がそれぞれ描かれており、女性読者はもちろん、男性読者の僕としても非常に興味深く読むことができました。
 料理に素養がないので、女将が作る料理をビジュアルに想い浮かべることができないのが残念なのですが、でも"白い大根に柚子味噌"なんて出てくると日本酒飲みたいなぁと思ってしまいます。こんなお店の常連客になってみたいですねえ。ラストは、シリーズが続くのか、これで終わるのか、ちょっとわからない終わり方でした。できれば続いてほしいのですが。
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あおぞら町 春子さんの冒険と推理  原書房 
  3編が収録された連作短編集です。あとがきに柴田さんが書かれているように、そもそもは2015年に刊行されたアンソロジー「捨てる」(文藝春秋)の1編として書かれた「花子さんと捨てられた白い花の冒険」を土台に生まれた作品だそうです。なお、今回連作短編集を編むに当たって、主人公の“花子さん”が“春子さん”に変更されています。
 主人公は埼玉県の青空市の古いマンションに住む新婚間もない春子さん。彼女の夫はプロ野球選手ですが、一軍登録されるのは年に何回かあるだけの二軍の選手。物語は、捕手として一軍を目指す夫を日夜支えるために頑張る春子さんが、彼女の周囲で起こる奇妙なことに気づいて、それを解き明かしていくというストーリーになっています。
 マンションのベランダからゴミ集積所に男性がダンボール箱に入った咲き終わりのパンジーを捨てるのを見た春子さんは、慌てて部屋を飛び出し、男性から捨てようとしていたパンジーを譲り受ける。男は病気で外に出られない妻に代わって捨てに来たらしい。その三日後、再び男性はダンボール箱を抱えて花を捨てに来る。今回も、花をもらい受けた春子さんだったが、箱の中にはまだ蕾がある花が入っていた。男の妻は土は集積所に捨ててはいけないことを知っているはずであり、また、蕾のある花をなぜ捨てようとするのか・・・「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」。
 夫が試合をする球場で、いつも同じ席に座る女性がいるとチームの中で話題になっているらしい。ところが、彼女は試合中も誰も応援せず、なぜか無表情で試合を楽しんでいるようこは見えない。いったい彼女は何のために球場に来ているのか・・・「陽平くんと、無表情なファンの冒険」。
 かつてプロ野球選手であり、今では解説者やタレントとして活躍している本橋滋の妻・有希と知り合いになった春子さんは、彼女から障害を持った夫の隠し子・ひかりに一緒に会いにいって欲しいと頼まれる。春子さんを見たひかりは突然春子さんに抱きつき、「まきゅう」と言う。果たして「まきゅう」とは何なのか・・・「有希さんと、消える魔球の冒険」。
 活躍しなければ即クビという不安定な野球選手(それも二軍)の妻という立場にある春子さんの生活と春子さんのちょっとした疑問から明らかにされていく事実を描く柴田さんの新シリーズです。単なる“日常の謎”に留まらず、明らかにされる事実には犯罪もあります。シリーズ化されるそうなので、今後どういう展開になっていくのか期待です。そうそう、「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」で春子さんが終わりかけの花を貰おうとした理由も、春子さんの人柄を知ることができてちょっと楽しいです。 
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青光の街  ☆  早川書房 
 柴田さんには、これまでも「観覧車」の下澤唯のように女性の探偵を主人公にした作品がありましたが、今回は女性探偵といっても孤独な一匹狼的存在ではなく、何人かの探偵を抱える探偵事務所の所長です。
 草壁ユナは作家にしてブルーライト探偵社の所長。かつて自分を担当してくれていた編集者の高橋が設立したブルーライト探頂社だったが、健康を損ねた高橋から、突然、所長を務めて欲しいと依頼され、断ることもできずに作家兼所長となった経緯があり、今では事件を引き受けるに当たっての依頼人との面談を担当する毎日を送っていた。ある日、探頂社に婚約者である元プロ野球選手の芸能人の身辺調査を行ってほしいと有名ネイリストから依頼が入る。そんな中、ユナに大学からの友人である中村秋子から件名が「ユナ、助けて」という本文のないメールが届き、秋子は行方不明となる。一方、世間ではクリスマスツリーに飾る青い電飾が遺体の周囲に撒かれる連続殺人事件が起こっていた・・・。
 物語は、草壁ユナはじめ、捜査に臨む警視庁捜査一課の刑事や機動捜査隊の刑事など多視点から語られる上に、ブルーライト連続殺人事件、ユナの友人の失踪事件、婚約者の身辺調査と、いくつもの事件が絡み合って進んでいきますが、柴田さんのリーダビビリティの高さ故か非常に読みやすく、ストーリー展開が頭の中でごちゃごちゃになってしまうことはありませんでした。
 絡み合った事件が次第にほぐれていく中で、思わぬ事実が明らかとなっていきます。それぞれ関係のなかった事件がやがて関連を持ちながら収斂していく過程が読ませます。
 所々に挿入される犯人らしき者の独白から、連続殺人事件の大まかな姿は想像することができます。しかし、それが他の事件にも関わりを見せてくるとは、予想がつかない意外な展開でした。ページの頭に昔のミステジーによくあった登場人物一覧が掲載されていますが、まさか、「この人とあの人があんな関係だったとは!(ネタバレになるので伏せます)」と、びっくりです。そして、ラストのもうひと捻りも見事でした。
 途中で語られるユナの最初の夫のエピソードについては、ラストであっけなく真相が語られるのには拍子抜け。シリーズ化を期待する上でも、もう少し、秘密めいたものが残った方が、今後の楽しみにもなったでしょうに。 
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さまよえる古道具屋の物語  新潮社 
 生きるのに疲れた人、悩みを抱えた人の前に忽然と現れる古道具屋。その店に引き寄せられて、買うつもりがなかったのに、なぜか買うことになってしまった品物を手にした人々を描く6話からなる連作集です。
 各話の主人公たちが買った品物は、絵が逆さまに描かれている絵本、お金の投入口がない金色の豚の貯金箱、ポケットに穴の開いたエプロン、把手のとれたバケツといった、絵本以外はがらくたと言っていい品物ばかり。
 そんな品物を手にした人たちが、その品物によって幸せな人生を得ていくのか、もしくは“世にも奇妙な物語”風に人生の奈落に落ち込んでいくのか、そのどちらかだろうなあと思ったら、話はそんな簡単にはいきませんでした。
 物語の雰囲気は二転三転、終盤で登場人物たちが集合したところで、“さまよえる古道具屋”の謎が明らかとなって大団円。店主の顔が藤子不二雄のマンガの主人公、忍者ハットリくんそっくりなのは、そういうことだたんですね。柴田さんには珍しいファンタジー
作品です。