表題作ほか8編からなる短編集です。なかでも印象深いのは「街の情景」です。「街の情景 その1」は男女の別れの場面を描いています。といっても、男のセリフはただひとことだけで、あとは男をなじる女のセリフのみです。これは男性の描いた別れの場面ですが、女性の方はこの場面をどう考えるのでしょうか。聞いてみたい気がします。さて、最後男がただひとこと言った後は果たして・・・。
もう一つの「街の情景 その2」は、主人公が街でネコと名乗る女の子と知り合い、そのネコをオートバイの後ろに乗せて走っているときに、オートバイに乗った男達に取り囲まれる“発端または古風な物語”から選択肢と題する3つの話に分かれます。ネコを助けて二人で逃げる“現代風ロマン主義”、ネコを助けようとして殺されることになってしまう“蓋然性”、そして、ネコが乱暴されるのを見ているしかない“沈黙の罪または継続する時間”に分かれます。若い頃読んだときに、果たして自分はどれを選ぶのかを真剣に考えてしまったものです。ただ、結論としては今でもどれをとるのか分かりませんが・・・。 |