宝島 ☆ | 講談社 |
第160回直木賞受賞作ということで、初めて手にした真藤作品です。沖縄が戦後のアメリカによる統治下の時代から沖縄返還に至るまでの時代を舞台に、その時代を生きた二人の男と一人の女の生きざまを描いた作品です。沖縄の方言が頻繁に出てくるので、読みにくいところはありましたが、ストーリー展開はスピーディーで一気に読ませます。 冒頭「戦果アギヤー」という耳慣れない言葉が出てきますが、これは、Wikipediaによると、アメリカ統治下時代の沖縄県で起きたアメリカ軍からの略奪行為のことで、「戦果をあげる者」という意味だそうです。元来は沖縄戦のときに、敵のアメリカ軍陣地から食料等を奪取することを指していたとのことです。 戦果アギヤーであるオンちゃんは、奪ってきた”戦果”を貧しい家々に配っており、地元のコザでは、みんなから愛され、尊敬と憧れの存在であった。そんなオンちゃんが弟のレイや友人のグスクらとともに「嘉手納空軍基地」に侵入し、抱えきれないほどの物資を盗み出す。しかし、脱出するときになって警笛が鳴り響きオンちゃんたちは米兵たちに追われるはめになる。米兵からの容赦のない銃弾が飛び交う中、グスクとレイはオンちゃんとはぐれてしまい、二人は無事脱出できたが、それ以降、オンちゃんは忽然と姿を消してしまう。必死に行方を捜すグスクとレイは刑務所の中で基地の外に逃れたオンちゃんと出会ったという男を見つけるが、その男は、オンちゃんが予定とは違うものを手にしていたということを言い残して病で死んでしまう・・・。 第一部では、オンちゃんの行方を捜すグスク、レイ、そしてオンちゃんの恋人のヤマコを描いていきます。第二部では、警察官になったグスク、「戦果アギヤー」からそのまま町の暴力集団の一員となったレイ、教師になったヤマコと、それぞれ進む道を異にした三人が沖縄返還前の激動の時代を生きていく様子が描かれます。ここで語られる米軍の軍人が加害者となり、日本人が被害者となる事件の様相は、沖縄が返還されても日米安保条約、それに基づく日米地位協定の前に、全然変わっていないですよね。そして、第三部はいよいよ本土復帰に向かう中での基地に隠されていた事実や様々な謎が明らかになっていきます。 果たして、オンちゃんは生きているのか。オンちゃんが嘉手納基地から持ち出した“予定外のもの”とは何だったのかという謎を抱えながら、「戦果アギヤー」が現在の暴力団に至っていく経過や実際に起こった小学校への米軍機の墜落事件(火だるまになった生徒が水飲み場まで走り、そのまま息絶えたという描写も実際にあったことだそうです。)やコザ暴動の様子が描かれるほか、瀬長亀次郎や屋良朝苗などの実在の人物も登場し、沖縄の歴史を語る物語ともなっている作品です。改めて、沖縄という存在を考えさせられるきっかけになってくれる作品でもあります。 |
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英雄の輪 ☆ | 講談社 |
5編の短編と1編の中編からなる「宝島」の続編というべき作品集です。 「ブーテン」・・・米軍の貨物廠に侵入し捕まったオロクは芸人のブーテンに請われ、慰問芸能団に加わることになる。あと一人、団員として琉球古典舞踊の大家を候補者として探したが、彼は国頭で降伏をせずに一人徹底抗戦をしていることが判明する。オロクとブーテンは米兵とともに説得に向かったが・・・。 「アーニーパイルで逢いましょう」・・・映画館に潜り込んでただで映画を観ていた浮浪児の男の子は隣に座っていた少女と映画の話で盛り上がるが、タダで潜り込んだことを非難されてしまう。また彼女に会いたいと思った男の子は映画館にタダで潜り込むことを止め、映画の看板描きの仕事をした収入で映画を観るようになり、彼女の姿を探すが・・・。 「五つ目の石」・・・マカビは30年ほど前、仲間とともに強盗事件を起こして服役したことがあったが、当時の仲間から出版社から事件のことを本にしたいという話が来ていると連絡があり、沖縄に向かう。事件現場の道路を訪れたマカビは、道路上に5つの石が置かれ、「おまえたちにはまだ、裁かれていない罪がある。ちゃんと償え。五人目より」と書かれた脅迫状らしきものがあるのに気づく・・・。 「25セント」・・・歌が好きなタミコは沖縄の歓楽街に歌を聞きに行っていたが、そこで常に彼女に25セントをくれるギターケースを抱えたアメリカ人・サッド・ジョーに出会う。彼女は彼の後をついてマイクやいすを準備したり、あっちのバー、こっちのクラブと移動する道案内をしながら彼の演奏を見て、ギターを弾くことを覚えていく。そんなある日、サッド・ジョーが何者かに銃で撃たれて殺害される・・・。 「家族の唄」・・・ウタはレコード会社の社長・マルブシ屋から、関西弁のベンジャミン三吉、バーのママ・チバナ、少年院を脱走してきたアンジと4人で家族に扮して「家族対抗のど自慢大会」に出場し、審査員をする“沖縄の歌姫”と言われる渡久地ノエを拉致してくるよう命令される。ノエは、かつてマルブシ屋のレコード会社にいたが突然ライバル会社に移った上にそこの社長と結婚し、表舞台になかなか顔を見せていなかった。 「ナナサンマル」・・・教師になって20年が過ぎ、復帰に当たっての国会前行動で知り合い結婚した夫との間に初めての子どもがお腹の中にいるヤマコは、教え子が催す同級会に出席する。その席で、かつて沖縄返還時に国会内で爆竹を鳴らし騒動を起こして逮捕されたことのあるトウゴが沖縄に戻っているという噂とともに、彼と親しかった何人かの同級生が会に出席していないことを知り、もしかしたら彼らが「人は左、車は右」が日本本土と同じ「人は右、車は左」になる1978年7月30日に何か起こすのではないかと気になり、彼らの行方を捜す・・・。 最後の「ナナサンマル」は「宝島」に登場するヤマコが主人公であり、グスクも警察官を辞め、探偵として生きていることが描かれるので、「宝島」の読者には気になる作品です。また、その前に置かれた5作品の登場人物のこともちょっと触れられており、ラストに置かれるのに相応しい作品となっています。 どれもがアメリカ軍基地のある沖縄を舞台にした沖縄の人の苦しみ、悲しみを描きます。個人的には涙腺が緩むストーリーの「アーニーパイルで逢いましょう」が一番印象に残ります。ようやく出会えた映画好きの女性のために彼がしてあげたことは・・・。彼はなんて素敵な男になったのでしょう。 |
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