| カフェーの帰り道 ☆ | 東京創元社 |
| 第174回直木賞受賞作です。物語は上野の片隅にある「カフェー西行」、本当の名前は偉人から取った「アウグスティヌス」だったが、店主の菊田が誤って「アウグイステヌス」と看板を作ってしまい、間違いだという指摘を受けて名前を西行の置物で隠したところから「カフェー西行」と呼ばれるようになったカフェーを舞台に、大正末期から第二次世界大戦終了直後まで、その店で女給をしていた女性たちを描いていきます。 冒頭「稲子のカフェー」は大正14年が舞台。主役となるのは28歳の女給、タイ子。シングルマザーのタイ子は竹久夢二の絵から出てきたような細面の美人だが、幼い頃きちんと学ばなかったため、読み書きができない。それを知った客で高等女学校の国語教師の俣野はタイ子に読み書きを教えるが、俣野の妻・稲子は夫が浮気をしているのではと友人から忠告される。 「嘘つき美登里」は昭和4年が舞台。主役は26歳の美登里。美登里は嘘つきだが、そんな彼女を翻弄するのがカフェー西行に雇ってほしいとやってきた園子。どう見ても40歳以上なのに19歳といってはばからない園子の正体が気になった美登里は彼女の帰る後をつけるが・・・。園子がどうなったのかは知りたかったですねえ。 「出戻りセイ」は昭和14年が舞台。主役となるのは高等女学校出の小説家志望でカフェー西行に勤めたが辞め、10年ぶりに戻ってきたセイ。セイに対し、髪型は、服はこうした方がいいとセイにうるさく言う常連客で理髪師の向井とセイの恋愛模様が描かれますが、戦争の気配が二人の関係に暗雲となります。 「タイ子の昔」は太平洋戦争真っ最中の昭和17年が舞台。35歳で女給をやめたタイ子はカフェーの客で愛人でもあった江木の援助を受け家を買ってもらいタバコ屋を始める。そんなタイ子は出征している一人息子の豪一と手紙のやり取りをしているが、しだいにその内容に不穏な様子が記される中、タイ子はふと西行に寄ってみる。 ラストの「幾子のお土産」の舞台は太平洋戦争終了後の昭和25年が舞台。主役となるのは西行で働き始めたばかりの17歳の幾子。戦後5年がたっても戦争の傷跡がみんなの心の中に残っている様子が語られます。戦後の西行でタイ子、美登里、セイの姿を見ることができたのは嬉しいです。みんな逞しく生き抜きましたね。それにしても、まさか、彼女があんな立場になっているとはねえ。 発行元の東京創元社といえばミステリという印象が強いのですが、よく、ミステリでもないこの作品を発行しましたね。担当編集者はなかなかの慧眼の持ち主でしたね。 |
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