帰れない探偵 | 講談社 |
初めて読む柴崎作品です。探偵を主人公にしていることから謎解きミステリか、あるいはハードボイルドかと思いながら読み始めたのですが、違いましたねえ。 世界探偵委員会連盟の運営する探偵学校を卒業し、インターンをしながら専修コースを修了して連盟に所属するフリーの探偵になった「わたし」が故郷の国を出てから10年あとの話が語られていきます。どの章も「今から10年くらいあとの話」で始まり、ラストは「これは今から十年くらい後の話」で締めくくられます。 恩師の紹介でやってきた街で事務所兼自宅を構えたが、街に来て7日目に、顧客と会っている時に起こった停電のあとから、なぜか、事務所に戻ろうとすると事務所に行く路地がなくなっており、戻れなくなってしまう。それ以来最初は依頼者の家に泊まらせてもらいながら、その後は先輩の誘いや業務委託を受けた世界探偵連盟の仕事で様々な国を渡り歩くことになる。彼女の探偵の仕事といえば、祖父のメモが挟まった本を探したり、若い頃の恋人が住んでいた部屋を探したり、昔写真に撮られた場所を探したり、25年前に起きた殺人事件の被害者女性の恋人だった男を探したり、移民の子孫向けのルーツ調査をしたり、産業スパイの動向を探ることだったり、40年前に起きた立て籠もり事件の関係者に話を聞くことだったりで、何か事件が起きるわけではありません(「空の上の宇宙」ではちょっと危ない場面にも遭遇しますが。)。怪しいといえば、デジタルデータを扱うスノコルミー社がところどころ顔を出し、スノコルミー社がデータを操作したりしているのではないかと疑いを持たせますが、それについての結論も出ていません。 探偵学校に入学するために故郷の国を出てからその国は体制が変わり、彼女は国に帰れなくなり、友人たちとも連絡が取れない状態が続いている。このあたり、わたしには体制が変わったことによる怖ろしさもあるでしょうが、世界をさすらいながらも、望郷の念も本当は心にあるのではないでしょうか。そういう点では、ラストの「歌い続けよう」の展開はとても良かったですね。 彼女が渡り歩く国も、国の名前は出てきませんが、どことなくあの国だなあと想像できます。 |
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