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関口尚の本棚

  1. シグナル

シグナル 幻冬舎
 恵介がアルバイトを始めた映画館の映写室には3年間映画館から外に出ていないという映写技師の女の子・ルカがいた。彼がアルバイトに採用される際に支配人から出された条件が3つ。1はルカの過去について質問をしてはいけないこと、2は月曜日になると神経質になるルカをなるべくそっとしておくこと、3はルカとの恋愛は御法度。
 映画館の映写室が舞台となる物語といったら、映画好きとしては忘れられない映画があります。イタリア映画の「ニュー・シネマ・パラダイス」です。あの映画は、映写技師と幼い少年の話でしたが、この作品は映写技師の少女と少年の話です。
 帯には青春ミステリーの傑作とありますが、それではこの作品の一面しか捉えていない気がします。確かに3年間、一度も映画館の外に出たことのない少女の謎には興味が引かれますが、そこには別にミステリ的な要素があるわけではありません。それよりは、これは当然恋愛小説として読むのが真っ当な読み方でしょう。
 作品中には本当に嫌な男が登場します。自分自身のことしか考えずに、すべてが自分中心に回っていると考え、思うどおりにならないと幼稚なまでに異常な行動を起こす人間。その男の登場とともに、読むのが辛くなります。今の世の中、こんな年齢に合わない幼い人間の犯す犯罪が後を絶ちませんね。それにしても、あれだけで、彼からの攻撃がやむとは思えません。この作品の甘いところといわれれば頷かざるを得ないところですね。
 映写技師として、仕事に厳しさを見せるルカの姿と映画館に閉じこもることとなった謎が明らかになったときのルカの姿に大きな違いを感じますが、結局誰もが強い心と弱い心を持っているということなのでしょう。
 とにかく、ある意味この作品はファンタジーです。ラスト、彼が電車の窓から見る光景が目に浮かび、映画好きとしては感動します。
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