▲トップへ   ▲MY本棚へ

沢村浩輔の本棚

  1. 夜の床屋
  2. 週末探偵

夜の床屋 創元推理文庫
 ラストのエピローグを除いて6編が収録された作品集です。どの作品も主人公は佐倉という大学生(時には彼に高瀬が加わります)。物語は彼らが遭遇した不思議な出来事が描かれます。
 表題作である冒頭の「夜の床屋」は第4回ミステリーズ!新人賞を受賞した作品です。佐倉と高瀬が山道に迷い、やっとたどり着いた寂れた駅で夜を過ごすことになります。駅の前にある廃屋同然の床屋が真夜中営業しているのを見た佐倉たちは床屋を訪れるが・・・。真夜中に営業している床屋で二人が遭遇した出来事の裏側にある真実を、二人の話を聞いた新聞記者が明らかにするという話。これは、こういうことだからだと、理詰めに事実が明らかにされていきますが、理屈づけの中に破綻があると思うのは僕だけでしょうか。
 次の「空飛ぶ絨毯」でも、人が眠っている部屋の中に敷かれていた絨毯が消えたという状況の種明かしを聞いて、そんなこと本当にできるのかなあと疑問を感じてしまいます。それに、作中に出てくる衛星携帯電話なんてそうそう持っている人はいないでしょう。ミステリというよりホラーぽい話です。
  「ドッペルゲンガーを探しにいこう」は、アパートの大家の孫からドッペルゲンガー探しの手伝いを頼まれた佐倉を描きますが、ある目的のために、なぜ、そんなことまでする必要があったのか説得力がありません。
 などと、不満を持ちながら次の「葡萄荘のミラージュT」から最後のエピソードまでの合わせて中編といっていいストーリーを読んだら唖然となってしまいました。日常の謎系の話だったはずが、なんとすべての話が関係のある幻想的な作品へと変貌してしまいました。でも、わざわざ前半3作を後半のストーリーに関連づけ、連作短編集のようにする必要があったのでしょうか・・・。
リストへ
週末探偵  文藝春秋 
 仕事を別に持ちながら、週末限定で探偵業を始めた大学時代の友人、瀧川と湯野原の活躍を描く7編が収録された連作短編集です。コンビとなれば、どちらかがホームズで、どちらかがワトソン役でしょうが、二人ともホームズ役を譲らず、どちらも積極的に推理を披露します。
 二人が探偵業を始めるきっかけとなる冒頭の「最初の事件」では、住宅街の中に車掌車が置かれている謎を、「桜水の謎」では、上流に桜の木がないのに、川に桜の花びらが流れてくる謎を、「月と帽子とひったくり」では、飲み会から帰る途中の女性がひったくりに遭ったが、何も取られなかった謎を二人が解き明かします。
 真ん中に置かれた「探偵たちの雪遊び」は、他の話とは異なって浜口くんという小学生の一人称で彼と雪だるまで遊ぶ二人の探偵を描きます。これはもう“日常の謎”とも言えないストーリーです。インターミッションとも言うべき位置づけでしょうか。
 次の「夏の蝉」では、再び二人の謎解きに戻り、家計を助けようと新聞配達をする高校生の配達先の家の新聞受けに毎日蝉の死骸が入っている謎を解き明かします。
 第6話の「ちょっと変わった依頼人」とこれに続くラストの「週末探偵事務所へ、ようこそ!」では警察沙汰の事件は取り扱わないはずが、二人がいつの間にか思わぬ事件に巻き込まれていく様子を描きます。
 そもそも週末探偵を始める動機に説得力がありませんが、それを疑問に思っていても先に進まないので、それは横におくとしても、これが謎解きかなぁと思うようなストーリーや、「桜水の謎」のようなあまりに強引な謎解き、更には凄すぎる犯人のキャラに引いてしまって物語の世界に入っていくことができませんでした。 
 リストへ