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佐藤青南の本棚

  1. 市立ノアの方舟

市立ノアの方舟  ☆  祥伝社 
 野亜市役所の企画部でテーマパークの誘致計画に携わっていた磯貝健吾は、反市長派による報復人事で突然畑違いの市立動物園の園長を命じられる。動物の飼育にはまったくの素人の磯貝を待っていたのは、市のお荷物となっている赤字を抱える経営と、市役所から腰掛けでやってくる園長たちにうんざりしている飼育員たちだった・・・。
 初めて読む佐藤青南さんの作品です。プロフィールを見ると、今までの作品はミステリー系のようですが、この作品は違います。簡単にいってしまえば、4つのエピソードを通して、最初は煙たがれていた磯貝が飼育員たちにやる気を出させ、彼らと力を合わせて、動物の本能を発揮できる環境を整え、精神面でも健康面でも豊かに暮らさせてあげようという「環境エンリッチメント」の取り組みを行うとともに、赤字経営からの脱却を図っていこうという、ある意味お仕事小説となっています。
 4つのエピソードで語られる動物たちの行動も興味深く読むことができます。「アジア象の憂鬱」の土日になると情緒不安定になるゾウ、「気まぐれホッキョクグマ」のホッキョクグマの“常同行動”、「恋するフラミンゴ」の種類の異なるフラミンゴの恋、「市立ノアの箱舟」の自分より大きな相手にしか攻撃しない勇敢なキリンなど、読んでいて「へぇ~」と思うことばかりです。また、それらの動物の行動が周りの人間に影響を与えるというストーリー展開も、ありがちですが、おもしろいです。物語の中で唯一擬人化されたゴリラでラストを締めるところもなかなかです。
 ハッピーエンドというわけでもないですが、明るい未来が期待できそうな終わり方で、読後感も最高です。たまには、こういう温かい気特ちになれる作品も読みたいです。 
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