東京創元社ミステリ・フロンティアシリーズの1作です。初めて読む桜庭さんの作品になりますが、著者の経歴を見ると、いわゆるライトノベル系の作品を書いてきた人のようです。
P・D・ジェイムズの作品に「女には向かない職業」という作品がありました。その職業というのは探偵でしたが、今回この作品で描かれる「少女には向かない職業」とは、殺人者です。
物語は「中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人を二人殺した」という衝撃的な少女の独白で始まります。下関と橋で繋がった小島で生活する中学生の少女葵が主人公です。病気のため働かずに酒浸りの義父のもとで生活する葵。表面上は三枚目を演じながらも、自分の言いたいことがうまく言えない子です。一方、葵の同級生で近寄りがたい雰囲気の宮之下静香。彼女は、網元の祖父の元で、従兄と三人で暮らしています。この同じように家庭に安らぎを得ることができない二人の少女の闘いを、葵の視点で描いていきます。
ミステリといっても、謎解きという要素はほとんどありません。ただ静香がミステリアスな存在として葵の心を乱します。作者の桜庭さんが一樹という名前ながら女性ではないかと思えるほど、中学生という思春期まっただ中の女の子の気持ちの揺れを鮮やかに描いています。でも桜庭さんて男性なんでしょうね?
深く考えずに行動に移してしまうところが、中学生らしいといえばそうなのですが、痛々しいです。ラストの一行は、あまりに悲しい一行です。
飽きさせることなく、230ページを一気に読ませます。僕としては嫌いではなかったのですが、ミステリとして読んでしまうと評価が分かれるかもしれません。 |