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連城三紀彦の本棚

  1. 人間動物園
  2. どこまでも殺されて
  3. 黄昏のベルリン
  4. 白光
  5. 造花の蜜
  6. 流れ星と遊んだころ
  7. 小さな異邦人
  8. 夜よ鼠たちのために
  9. 連城三紀彦 レジェンド
  10. わずか一しずくの血

人間動物園  ☆ 双葉社
 数十年ぶりの大雪の中、女の子が誘拐されます。誘拐された子は汚職事件の渦中にある大物政治家の孫娘。家には犯人によって盗聴器が仕掛けられており、警察には連絡をとることができません。母親は隣家へと手紙を投げいれ、通報を受けた警察は隣家へと入ります。しかし、盗聴器のため警察も身動きが取れません。
 前日に起きている動物の失踪事件との関係など、話は思わぬ様相を見せ、二転、三転します。最後には僕には予想もつかなかった結末を迎えます。さすが連城さん、単純な謎解きというわけではありませんでした。

(ちょっとネタばれあり)

 本の帯に書かれた『自宅が「檻」になる』は、ちょっと書きすぎという気がします。僕自身は気にも止めませんでしたが、勘がいい人には、話の筋がわかってしまうのではないでしょうか。
 また、犯人はそれまでの生き方からすると、ああした事件を考えるほどの能力を持った人なのかそれだけはちょっと疑問です。
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どこまでも殺されて  ☆ 双葉社
 冒頭、今までに7回殺されたという男の独白で物語が始まります。そして、今また8度目に殺されようとしているという・・・。何回も殺されるなんてことはあり得ない、叙述トリックか?と考えたときからすっかり連城さんの術中にはまりこんでしまいました。
 話は第2章から、高校教師の横田を主人公として、進んでいきます。ある日、高校教師の横田のもとに「助けてください。殺されかかっているんです。僕は今」という電話が入る。彼は、教え子のうちの誰かからと考え、その正体を探り始めます。ここからは、教え子の女子高校生らが活躍を始め、いわゆる学園ものという感じになります。
 最後に7回も殺されたということが説明されます。そして、殺されていた(?)のが誰かということが。このあたりの衝撃は某作家の作品を読んだときと同じです(もちろん、この作品の方が先に書かれていますが)。さすが連城さんという作品です。お勧めです。

 ※新潮文庫版が刊行されています。 
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黄昏のベルリン  ☆ 文春文庫
 第二次世界大戦下でのナチスによるユダヤ人虐殺問題、戦後逃亡したナチ戦犯問題などに、なんとユダヤ人強制収容所で生まれた日本人の赤ん坊の行方を絡めて、リオデジャネイロ、ニューヨーク、パリ、ベルリンを結んで展開する壮大な国際サスペンス小説といった趣の作品です。
 ベルリンの壁が崩壊したのは1989年のこと。この作品が発表されたのは88年のことですから、その1年後には、小説に書かれた状況が大きく変化したことになります。あれから既に18年が過ぎた現在、この作品の背景にある東西冷戦時代の状況を思い浮かべることは難しいかもしれません。それでも、なお、連城さんの筆力によって、ぐいぐいと物語の世界に引き込まれていきます。
 さらには、単にサスペンスだけではなく、この作品はミステリーとして読んでも一級品で、終盤に明らかにされる事実は驚愕のものがあります。多くの読者がミスリーディングされたのではないでしょうか。

 今年文春文庫で久しぶりに復刊されたのを機に再読しましたが、いまだに色褪せない傑作です。1988年「週刊文春ミステリーベスト10」で堂々の第1位に、そして「このミス」の日本編第3位に輝いただけのことはあります。おすすめです。
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白光 光文社文庫
 娘を連れて歯医者に行っていた間に、預かっていた姪が殺される。家にいたのは認知症気味のある舅だったが、彼は姪は若い男に殺されたという要領の得ない話をするばかり。果たして女の子は誰に殺されたのか。
 姉、妹、妹の夫、舅、姉の夫、妹の愛人、姉の子、それぞれの語りで事件が描かれます。それぞれの話が事実を曲げたり、自分勝手な思い込みによって話されたり、誰かを庇ったりで、事件の様相は二転三転します。各人がそれぞれ胸の内に隠していた事実が独白によって明らかにされていく過程が怖いですね。しかし、それ以上に怖ろしかったのは、文庫本の解説にもありましたが、語り手の誰もが殺された女の子の死を冷静に見ていることです。親である妹やその夫でさえ淡々と自分なりの事実を述べるだけです。親だったらもっと半狂乱になるでしょうに。
 死の直前の女の子の言葉には悲しくなってしまいます。
造花の蜜  ☆ 角川春樹事務所
 連城さん、やっぱりうまいですよねえ。読み始めたらあっという間に物語の中に引きずり込まれてしまいました。
 幼稚園から娘が蜂に刺されて病院に運ばれたと聞いた母親が、 不審に思って幼稚園に行くと、先生から幼稚園では電話はしていない、あなたが迎えに来て連れて行ったではないかと言われるという衝撃的な出来事から物語は始まります。
 とにかく、登場人物が皆胡散臭い人物ばかり。被害者であるはずの離婚して子連れで実家に戻ってきた母親からにして、何かを隠しているようですし、やたらと警察の前で推理を披露する兄嫁もうるさすぎる。祖父も事業が傾き借金をしていて喉から手が出るほど金が欲しい状況にあるし、前夫も前夫の隣家の主婦も怪しすぎます。連城さん、意図的に読者を混乱させ、これが真実かと思わせておいて、実は真実は異なるという状態で、もう先が読みたくて読みたくて我慢できません。おいおい、これで収まりがつくのかとの心配は無用。連城さん、見事な着地を見せてくれます。
 前半は誘拐事件をめぐる被害者家族、警察と犯人との駆け引きがサスペンスフルに語られますが、後半は一転、ある犯人側の人物の半生を描きながら意外な真相が語られていきます。このあたり連城さんの真骨頂でしょうか。今までに現われていた事実をまったく異なったものへと反転させてしまいます。いやぁ〜見事です。僕自身としては、心情的にはちょっと気に入らない終わり方なんですが・・・。
 ラストの「最後で最大の事件」の章は、なくても別に物語としてはかまわない、おまけみたいな章ですが、このおまけみたいな章がまたとんでもないストーリーとなっています。贅沢なおまけです。おすすめ。
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流れ星と遊んだころ  ☆ 双葉文庫
 花ジンという俳優のマネージャーをしている北上梁−。傲岸不遜な花ジンに対し、いつかしっぺ返しをしてやろうと考えていた。ある夜、彼は美人局をしようとした男女秋場と鈴子に出会い、秋場に俳優として大成する可能性を感じ、彼を花ジンの代わりのスターとして育てようと画策する・・・。
 中盤までは梁一が秋場をスターにするために悪戦苦闘する姿が描かれていきます。果たして、どんな形で梁一は危険な雰囲気の秋場をスターに仕立てていくのか、単に一人の男が危ない橋を渡りながら芸能界で新しいスターを作っていく過程を描くストーリーかと思って読み進みました。
 自分が担当する俳優のために、男好きの監督に自分の身体を投げ出すなど、マネージャーというのも辛い職業だなあと思わず感想をもらしたくなる芸能界の内幕ものみたいなストーリーだったのですが、中盤の秋場の思わぬ告白からは物語は急展開。いやぁ〜すっかり連城さんに騙されました。読みながらの違和感はあったのですが、そうきたかぁ。さらには、登場人物たちの「実は・・・」という話も加わり、そこまでの状況が一変してしまいました。
 非常に読みやすい作品です。おすすめ。
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小さな異邦人  ☆ 文藝春秋
 昨年(2013年10月)、亡くなられた連城三紀彦さんの遺作になる8編が収録された短編集です。
 冒頭の「指飾り」は、別れた妻に未練を持つ男の話です。果たして自分が見かけた女は妻なのかという謎解きがなされていきますが、全体的に暗い雰囲気の作品集の中では明るさが感じられるラストになっています。
 「無人駅」は、時効成立直前の男を待つため、寂れた温泉宿のある駅に降り立った女の話です。犯罪者を待つにはあまりに目立つ行動をとる彼女の目的は・・・。女の行動にあんな動機を持たせるとは、さすが連城さんという作品です。
 「蘭が枯れるまで」は交換殺人もの。小学生の頃の同級生を名乗る女から夫の交換殺人を持ちかけられた主婦が実行に移そうとしたとき見たもの・・・。ラストは怒濤の展開。まさかの事実が浮かび上がるところは、これまた連城さんらしいといえるかもしれません。収録された8編の中では一番の好みです。
 「冬薔薇」は、レストランで待つ男に刺し殺される夢を何度も繰り返し見る主婦の話です。この作品集の中では一番ホラー風味の強い作品となっています。
 「風の誤算」は、社内で無責任な噂を常に立てられる男の話です。いくら何でも、こんなに噂を立てられる人はいないでしょうけど、実は主流から外れてしまったこの男が怖いと思うのは僕だけでしょうか。
 「白雨」は、高校生の娘へのいじめと時を同じくして届けられた手紙に書かれた両親の無理心中事件が描かれていきます。関係のあるはずのない二つの出来事が連城さんの手にかかると、こうなるのかと唸らされる作品となっています。
 「さい涯てまで」は、若い同僚と不倫旅行をする男の話です。そこに不倫旅行の行き先の切符を求めながら金を支払わない謎めいた女を登場させ、単なる男女の不倫話をミステリ風味の作品にしています。ラストは、主人公としては、間違いなくそれでよかったのですよ。
 表題作の「小さな異邦人」は誘拐もの。母1人、子ども8人の家に、子どもを誘拐したと電話がかかってきたが、子どもは8人とも家にいた。果たして誘拐された子どもとは誰なのか。犯人はもちろん、被害者さえわからないという誘拐事件の意外な真相に脱帽です。
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夜よ鼠たちのために  ☆ 宝島社文庫
 9編が収録された短編集です。さすがに復刊が待ち望まれていた作品ナンバー1だけあります。どれも粒選りの短編です。この作品のように短編集でどの話も凄いというようなものは、なかなかありません。オススメです。
 「二つの顔」は、自分が自宅で殺したはずの妻が自宅から離れたホテルで殺されたと警察から連絡を受けた画家の驚きを描きます。不可能状況を見事に現実のものとする腕前はさすがです。
 「過去からの声」は、ある誘拐事件の捜査に関わった元刑事が、先輩刑事にその事件の裏で起こっていたある出来事について手紙という形で語っていきます。なぜその誘拐が行われたのか、幼い頃、誘拐された経験のある刑事だからこそわかる事件の様相でしょうか。
 「化石の鍵」は、部屋の鍵を取り替えた日に起こった女の子の殺人未遂事件の真相を描きます。新しくなった鍵を開けて部屋に入ることができたのは誰か。ある者の関与が密室を作り出します。
 「奇妙な依頼」は、妻の素行調査を依頼された興信所の調査員の話です。妻に尾行がばれ、逆に夫の素行を調査することを頼まれますが・・・。題名の“奇妙な依頼”がどういうことであるのか最後の1行に見事に言い表されています。
 表題作の「夜よ鼠たちのために」は、ある病院の医師が連続して殺害された事件の犯人の思わぬ動機を描きます。こういう状況がありうるかなとは思うのですが、読者をミスリーディングする筆力はさすがです。
 「二重生活」は、夫婦とそれぞれの愛人の男女4人の話です。これもまた、普通はこう考えるでしょうという読者を見事にミスリーディングし、ラストでそれまでの世界を反転させます。
 世界が反転するということでは次の「代役」も同じです。お互いに相手に飽きた俳優夫婦が、俳優にそっくりの男がいることを知ったことから、その男を使ってあることをする話ですが、俳優はラストで思わぬ事実を知ることとなります。
 「ペイ・シティに死す」は、自分を陥れた弟分と自分の女に、出所後復讐しようとする男を描きます。これまた主人公に見えていた事実がラストで反転します。
 「ひらかれた闇」は、退学となった元教え子に仲間が殺されていると助けを求められた女性教師が事件の真相を明らかにしていく様子を描きます。なぜ仲間が殺されなければならなかったのか。ここまで考えるのかと、この短編集の中ではちょっと釈然としないものが残った1編です。
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連城三紀彦 レジェンド  ☆ 講談社文庫
 綾辻行人、伊坂幸太郎、小野不由美、米澤穂信の4人が選んだ連城三紀彦さんの短編集です。「依子の日記」(綾辻選)「眼の中の現場」(伊坂選)「桔梗の宿」(小野選)「親愛なるエス君へ」(綾辻選)「花衣の客」(米澤選)「母の手紙」(伊坂選)の6編が収録されています。
 「依子の日記」は、山奥での夫との二人の生活の中に入り込んできた女との関わりを描く妻の日記という形式を取っています。叙述トリックを日記でやるとなると、結果はだいたい予想がつくのですが、そこに僕には理解のできない男女の愛憎が入り込んできています。
 「眼の中の現場」は、妻の浮気相手という男と彼の訪問を受けた医者の二人の話で進んでいきます。いったい、彼は何を話しに来たのか。夫が診断した癌を苦にして自殺をした妻の死が浮気相手の男の話によって変容していきます。反転に次ぐ反転。果たして夫はどうするのかという余韻が残ります。
 「桔梗の宿」は、花街で桔梗を握って殺されていた二人の男の殺人事件の真相が描かれていきます。なぜ桔梗を握っていたのか考えもつかない理由でしたが、種明かしされたときには、「そういうことだったのかあ。」と巧妙に張られた伏線に納得させられました。それにしても、他の作品もそうですが本当に連城さんの書かれる文章は美しいですね。
 「親愛なるエス君へ」は、僕らの年代なら「ああ、あの話だな」と思い浮かぶ、パリで起こった日本人男性による人肉を食べるという事件に魅了された男の話です。この男はいったい何を望んでいたのか。これもどんでん返しにびっくりです。
 「花衣の客」は、夫を亡くした母とその母の元に通ってくる妻ある男を見る娘の語りで進んでいきます。母に男の妻が送ってくる着物にあんな理由があるとは。登場人物たちそれぞれの、その愛情の形は想像もつきません。
 「母の手紙」は、死の床に瀕した母から息子に宛てた手紙形式で語られていきます。母が、自分が息子に勧めた嫁でありながら、結婚以来ずっと嫁をいじめ抜いた理由が語られていきます。そこまで考える必要ないでしょうと母に言いたいですね。
 個人的にはあまりに哀しい動機からの殺人を描いた「桔梗の宿」、男女の愛憎とは関係ない「親愛なるエス君へ」がオススメです。
 巻末に綾辻・伊坂対談が掲載されているのも、ミステリファンとしては嬉しいところです。
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わずか一しずくの血  文藝春秋 
  1年以上前に失踪した敬三の妻・三根子から突然電話がかかってくる。10時のニュースに自分が出るから見るようにという妻の言葉で、つけたテレビからは群馬の山中から白骨化した左足が発見されたというニュースが流れていた。妻と同じように左足の薬指には指輪が嵌まっていたと知り、敬三は死体は妻ではないかと考える。翌朝、同じ群馬の温泉旅館で左足を切断された女の死体が発見され、その日以降日本各地で女性の死体の一部が発見されるようになる。果たしてバラバラ殺人の真相は・・・。
 長らく単行本化されていなかった作品が単行本となりました。連城さんが存命中に単行本にならなかったのは、作品の出来に連城さんが不満があったのかどうか、今ではもうわかりませんが、白骨化した左足の持主である妻からの電話という冒頭の幕開きには十分惹きつけられるものがあります。
 ただ、あまりに被害者となる女性たちが犯人に対レ隙がありすぎですし、そんなに簡単に舌先三寸で騙される、あるいは犯人に積極的に協力するものなの?と疑問に思ってしまいます。また、作品の紹介に“沖縄の悲劇を背景に描くミステリー”とありましたが、読んでいても“沖縄の悲劇”がこの作品の中に大きな場所を占めていたようには思えなかったというのが正直な感想です。それに、事件の謎を解く人物と思っていた刑事があんな行動に走るとは、これまた唖然として納得できません。
 結局、犯人は何のために目本全国で骨を発見させたのか、そもそも温泉宿での最初の事件の様相はどうだったのか等々、謎解きがされた後でも、どうもすっきりしません。
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