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王谷晶の本棚

  1. ババヤガの夜

ババヤガの夜  ☆  河出文庫 
 英国推理作家協会のダガー賞の翻訳部門に選ばれた作品です。これまで、村上春樹さんや伊坂幸太郎さん、東野圭吾さんが候補にあげられましたが受賞はなく、今回日本人として初めての受賞となります。それも柚木麻子さんの「BUTTER」と争ったというのですから、日本作品頑張ってますねえ。
 新藤依子は夜の繁華街を歩いている途中、尻を触った男たちと争いになり、昏倒させられてある屋敷に連れていかれる。そこは関東最大規模の暴力団興津組の直参である内樹會の会長、内藤源造の邸宅で、依子は子分たちを叩きのめした腕を買われ、会長の娘、尚子のボディーガードになるよう命ぜられる。逃げればどこまでも追いかけていくという若頭補佐の柳の脅しに、依子は嫌々引き受けることになるが・・・。
 男のボデイーガードだと娘に手を出す可能性があるからダメだという会長の考えで、たまたま組員と喧嘩をして強かった依子をボディーガードとしてそのまま連れてきてしまうなんて、冒頭の展開はちょっとご都合主義という感じがしないでもありません。しかし、余計なことはそぎ落として、スピーディに物語が展開していくことをよしとしたのでしょう。
 また、そのためか、依が格闘に秀でているのは祖父に習ったことが語られますが、なぜ祖父が彼女を鍛えたのか、そもそも彼女の両親はどうしたのかなど依子の出自の詳細は描かれていません。普通はその辺りのことは描かれるのでしょうけど。
 依子のボディーガード生活を描く合間に、逃亡生活を送っているらしい二人の人物のことが挿入されますが、これは見事に読者をミスリーディングしますね。
 それにしても、女性作家のこれだけのバイオレンス作品というのは読んだことがありません。依子を主人公に続編を期待したいところでしたが、この展開では無理ですね。
 ちなみに題名にある「ババヤガ」とはスラブ民話に登場する魔女のことだそうです。 
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