▲トップへ    ▲MY本棚へ

乙一の本棚

  1. GOTH
  2. 失はれる物語
  3. ZOO
  4. 暗いところで待ち合わせ
  5. 箱庭図書館
  6. メアリー・スーを殺して
  7. サマーゴースト
  8. さよならに反する現象
  9. 沈みかけの船より、愛をこめて

GOTH  ☆ 角川書店
 僕にとって初めての乙一作品です。猟奇的な殺人に興味を持つ主人公「僕」とそのクラスメートの森野夜(夜という名前もすごい)を描く6編からなる連作短編集です。女性をバラバラに解体して飾り立てる犯人、手首を切断して収集する犯人、人間を棺桶に入れて生き埋めにする犯人など、猟奇的な犯人が登場してきますが、彼らよりも、よほど二人の方がはるかに異様です。特に表面的にはクラスメートと話を合わせる「僕」より、全く他を拒絶している森野という女子高校生が、美貌ということもあり恐ろしさを感じさせます。この二人の関係がまた、奇妙です。表題作でもある「リストカット事件」を読むとその関係の異様さがわかります。
 不思議な雰囲気の作品集ですが、ミステリの味も十分に楽しめました。「犬」は、なにかおかしいなあと思いながら読んでいましたが、最後にそうきたかという作品です。そのほか「記憶」にしても「声」にしても、最後にアッと言わされる作品となっています。それから、カバーの裏には思わぬ秘密が施されています。僕も人から教えてもらわなければ気づきませんでした。
 
 GOTHというのは、ゴシック小説のGOTHICから派生した言葉で、人間がもつ暗黒面に強く心を惹かれる者を指すそうです。
リストへ
失はれる物語  ☆ 角川文庫
 この文庫のハードカバー版は、角川スニーカー文庫から刊行された『失踪HOLIDAY』『きみにしか聞こえない』『さみしさの周波数』に収録の5編に、書き下ろしの「マリアの指」を加えたいわば再編集版でした。今回はそれにさらに2作を加えて文庫化されたものです。
 角川スニーカー文庫は、さすがにこの歳の男性が手にとってレジに持って行くのは恥ずかしいし、たぶん、今回角川文庫で刊行されなければ手に取ることはなかったと思うのですが、最初の「Calling You」を読んで、これはいいと一気読みしてしまいました。語彙が乏しくて上手く言えないのですが、素晴らしい作品集です。
 サイトの感想を読むと「せつなさ」が描き出された作品だという感想が多いのですが、本当にそうでした。
 最初の「Calling You」は、他人とうまくコミュニケーションがとれない女の子が、頭の中に思い浮かべた携帯電話で男の子と話をすることによって心を通じ合う話なのですが、頭の中の携帯電話という発想がすごいですよね。さらにそれだけでなく時間の隔たりという要素も加えられていて、ラストは予想がつくのですが、感動してしまいました。まさに僕好みの作品です。
 「せつなさ」が一番といったら表題作の「失はれる物語」でしょうか。自動車事故により右手の肘の先の感覚しかなくなった男を主人公とする話です。ラストは、これは辛いとだけではとても言い表せません。
 幽霊との生活を描いた「しあわせは子猫のかたち」、これもまたいい話です。ミステリ仕立てのストーリーは、謎解き自体は予想がついてしまうのですが、それは二の次です。ラストの手紙には胸が熱くなりました。
 「手を握る泥棒の物語」は、壁を隔てて手を握り合い手を離すわけにも行かなくなった状況に陥った男女を描いたちょっとコミカルな話です。この物語は、この作品集の中では怖さとか切なさとかは感じられない作品ですが、ラストがまたいいんですよね。
 「マリアの指」は、猫が持ってきた轢死した人の指をホルマリン漬けにするということから始まります。この作品集の中で一番乙一さんらしい残酷さとかホラー風味が感じられる物語です。ミステリーという体裁をとって、最後に思わぬ真相が明らかになりますが、これも辛いラストでした。
 とにかく、どの物語にも引き込まれます。乙一さんを初めて読む人には最適な作品集ではないでしょうか。おすすめです。
リストへ
ZOO  ☆ 集英社文庫
 ホラーあり、SFあり、ミステリありと、まさしく題名の「ZOO」、“動物園”のように様々なジャンルの作品が収められた短編集です。ハードカバーで刊行されたものを今回2冊に分冊して文庫化されました。1はオムニバス作品として映画化された作品を集めたもの、2はそれ以外の作品を集めたものです。
 一番印象的だったのは、1に収録されている「SEVEN ROOMS」です。理由もわからずに誘拐され、窓もない部屋に閉じこめられた姉弟。部屋の中の溝を流れる水をくぐると、そこは同じように誘拐された女性が閉じこめられた部屋が5つと、空き部屋が1つ。姉弟が知ったのは、誘拐されてから7日目に殺され、死体は切り刻まれて溝を流れる水の中に捨てられるということ。誘拐された理由の説明もなく、犯人の男の描写もなく、ただ殺されるときが近づいていくのを待つ姉弟を描くこの作品は、読者をしてなんともいえない気分にさせます。胸を締め付けられるようなラストはやりきれません。強烈な読後感を残します。

 以下簡単にあらすじの紹介。
 1の冒頭の「カザリとヨーコ」は、母親にかわいがれる妹と虐待される姉の双子の話。すごい設定を考えるものだと思ってしまいます。「SO-far そ・ふぁー」は、奇妙な世界に迷い込んでしまった少年の話。「陽だまりの詩」は、手塚治虫の漫画のような雰囲気のSF作品。ラストで明かされる真実は感動的ですがあまりに哀しいものです。表題作の「ZOO」もサイコ・ホラーといった趣の作品。
 2の冒頭の「血液を探せ!」は、ミステリかと思ったら、どこかコミカルタッチな作品。一転して、「冷たい森の白い家」は童話タッチの書きぶりでしたが中身はサイコ・ホラーです。「Closet」は、この中では純粋なミステリ作品です。「神の言葉」は、自分の言ったことが現実となる能力を持った少年が陥る皮肉な世界を描いた作品。「落ちる飛行機の中で」は、ハイジャック犯の少年と自殺しようと考えていたセールスマン、人を殺そうと考えていた女性との話。サスペンスなのですが、ハイジャック犯に立ち向かう乗客が転がってくる空き缶に足を取られるというところは、どこか滑稽です。
 そのほか文庫版だけに収録された作品もあって、乙一という作家を知るにはお得な作品集です。
 それにしても、これだけの様々なジャンルを書き分ける乙一という作家はすごいとしか言いようがありません。
リストへ
暗いところで待ち合わせ  ☆ 幻冬舎文庫
(ちょっとネタバレ)
 非常に感想を書きにくい作品です。ちよっと書いただけでネタバレになつてしまいそうです。その点、作者の乙さんはうまいですね。あとがきにこの作品のことを『「警察に追われている男が目の見えない女性の家に黙って勝手に隠れ潜んでしまう」という内容です。』とありますが、まさしくネタバレなしに言えばそのとおりです。
 会社の同僚を駅のホームから突き落として死亡させた容疑で警察に追われたアキヒロは交通事故で視力を失った一人暮らしの女性・ミチルの家に潜みます。日の見えない故の感覚の鋭さのためか、アキヒロのいることを知ったミチルでしたが、いつしかお互いを意識しながら口には出さない不思議な同居生活を送ります。
 お互いに他人と関わるのが苦手な男女が言葉にしないながらもしだいに相手を思いやるようになるお話です。それで肝心の事件の解決はどうなるのかと思ったら、後半は思いもよらぬ展開となります。それまでに思っていた事実があっという間にひっくり返されます。読後感はすごくいいですよ。
リストへ
箱庭図書館  ☆ 集英社文庫
 集英社のWEB文芸「RENZABURO」の企画「オツイチ小説再生工場」から生まれた6編からなる短編集です。
 読者から募集した投稿作の中から選んだ作品を乙一さんがリメイクするというもの。それぞれ投稿者が違うわけですから、そもそもバラバラな作品であったものを、リメイクに当たり6編の舞台をすべて「文善寺町」という架空の町に設定し、冒頭の作品の登場人物(大人になって小説家になった山里秀太とその姉で活字中毒の図書館の司書である潮音)を続く作品の中に主役として、あるいはちょっと顔を出させて、連作短編集としての体裁をとっています。元の投稿作がどういうものであったかはわかりませんが、すっかり乙-さんの作品の雰囲気となっています。「文善寺町」のキャッチコピーが「物語を紡ぐ町」というのが、また憎いですねえ。
 6編は、小説家になった青年と図書館司書の姉の話(「小説の作り方」)、ラストにあっと驚かすコンビニ強盗の話(「コンビニ日和!」)、たった二人だけの高校の文芸部員の話(「青春絶縁体」)、拾った鍵に合う鍵穴を探し歩く少年の話(「ワンダーランド」)、夜に幼い子どもたちが集まる王国の話(「王国の旗」)、雪の上に現われる足跡を追うことによって出会った男女の話(「ホワイト・ステップ」)といったミステリーであり、サスペンスであり、青春小説であり、ファンタジーでありという、いかにも乙-さんらしい作品が並びます。
 個人的にはファンタジーであり、ちょっぴり泣かせる最後の「ホワイト・ステップ」が一番好きです。
リストへ
メアリー・スーを殺して  ☆  朝日新聞出版 
 乙一さんら4人の作者による7編の短編に安達寬高さんの解説がつくという体裁の短編集ですが、実はこの短編集、作者も解説者も同一人物が書いた作品です。もともと乙一さんと中田永一さんが同一人物だとは知っていたのですが、山白朝子さんも乙一さんの別ペンネームだそうですし、越前魔太郎は乙一さんら8人の共同ペンネーム、更には安達寬高さんは乙一さんの本名だそうです。というわけで、乙一ファンには嬉しい1作となっています。

 乙一さんの「愛すべき猿の日記」は、仲間とドラッグ生活をしていた男が、死んだ父が残したインク瓶を使って日記を書き始めたことから人生が変わっていく話です。雑誌の創刊号に掲載された作品ですが、創刊に相応しいストーリーです。
 同じく乙一さんの「山羊座の友人」は、安達さんの解説によると、風の通り道に建つ一軒家のベランダに、毎回おかしなものがひっかかるというシリーズものの1作だそうです。そんな家に住む高校生・松田ユウヤが主人公。今回、風が運んできたものは未来の日付の新聞。そこには都内で山羊が動物園から脱走し、山手線の車内で捕らえられたという記事とその裏面には高校生がクラスメートを殺し、取調中にトイレで首を吊るという記事が掲載されていた。深夜コンビニに出掛けたユウヤは血のついた金属バットを持ったクラスメートの若槻ナオトと出会う・・・。乙一さんらしい少年を主人公にしたミステリです。ラストに語られる出来事にユウヤは果たして事前に気付いていなかったのかが気になります。この短編集の中で僕としては一番心に強く残る作品でした。
 中田永一さんの「宗像くんと万年筆事件」は、第66回日本推理作家協会賞短編部門の候補作となった作品です。小学6年生の山本さんは学校で盗みの疑いをかけられ、登校拒否になってしまう。そんな山本さんに同級生の宗像くんは以前山本さんから借りた10円のお礼に山本さんの無実をはらすという・・・。この宗像くんというキャラが何とも印象的です。家が貧しくて服も買ってもらえずいつも同じ服をきたまま、何日も風呂に入っていないため髪の毛は脂でてかてか、野良犬のような匂いもするという、ハンサムとは真反対のキャラです。そんな外見のため同級生からも避けられていた宗像くんが、山本さんのために勇気を出して犯人を糾弾する姿がかっこいいこと。10円玉を握って別れを告げるシーンも格好良すぎです。女性を助けてさっとどこかに去って行くなんて西部劇のヒーローみたいですね。爽やかな1編でした。
 表題作である同じく中田永一さんの「メアリー・スーを殺して」は、二次創作小説を書くことに夢中な少女が主人公。“メアリー・スー”とは、作中にあるように、「二次創作における用語のひとつであり、作者の願望が不快なほどに投影されたオリジナルキャラクターを指す。」そうです。元々は「スター・トレック」の二次創作小説に登場するオリジナルキャラクターの名前、“メアリー・スー”からきているようです。物語は大福饅頭のような体つきで、引っ込み思案で口下手で鈍重と、自己を評する主人公が、自分が書いた二次創作小説が先輩から「メアリー・スーをどうにかしないと気持ち悪い」と言われたことから、「現実の世界で足りないと感じることを、執筆によって埋めるのではなく、おなじく現実の世界で埋めてやるのだ」と自分を変えていくストーリーです。でも、現実の世界で自己の思うことを実現をしていくのは本当は難しい。しかし、彼女はそれをやり遂げるのですから、“引っ込み思案で口下手で・・・”なんていう自己評価はあまりに過小評価だったのでしょう。中田さんらしい未来を感じさせるラストで清々しいです。
 山白朝子さんの「トランシーバー」が書かれた動機は、解説によると東日本大震災にあるということで、妻子を津波で亡くした男が主人公。悲しみを紛らわすため毎晩酒に溺れるが、ある日、震災前に息子と遊んでいたトランシーバーから息子の声が聞こえてくる。やりきれない話ですが、主人公が前を向いて進めるようになったところに救いがあります。ラストの一行が何ともいえない余韻を残します。
 同じく山白朝子さんの「ある印刷物の行方」は、怪談専門誌を執筆の場にしている作者らしいホラー作品です。ある研究所の焼却炉のアルバイトをすることになった女性が主人公。簡単な仕事なのに高額な報酬と研究所の所員の自殺が多いという噂に、彼女は自分が焼いている箱の中身がしだいに気になってくるが・・・。冒頭の解説を読むと焼却物が何かが想像できてしまうので要注意です。
 越前魔太郎さんの「エヴァ・マリー・クロス」もホラー系の作品です。売れない雑誌記者の“俺”は、恋人のエヴァから、亡くなった大金持ちの男の妻が遺品整理をしていたときに見つけた“人体楽器”に絶望して拳銃自殺したという話を聞く。記事になるのではと、“人体楽器”の正体を明らかにしようと調査を始めるが・・・。“人体楽器”という名称だけで何かは想像できてしまいます。あまり好奇心の強いのも身を滅ぼしますね。 
 リストへ
サマーゴースト  集英社 
 飛行場の跡地に集まった友也、涼、あおいの3人。1年前、母と二人暮らしで進路も生活すべてが母により決められることに嫌気がさした友也、不治の病気のため余命宣告を受けた涼、学校でいじめにあっていたあおいの3人は自殺することを考え、友也が開設した自殺サイトで知り合う。1年前、3人は飛行場の跡地で夏に花火をすると自殺した女性の幽霊が出るという噂を聞いて、死ぬことはどういうことかを聞くために幽霊に会いにやってきた。そこで女性の幽霊と出会った3人は。彼女が自殺したのでなく、殺され、死体も発見されていないと聞いき、幽霊の女性・絢音と彼女の死体を探し始める・・・。
 現在上映中のイラストレーターのloundrawさんが監督を務めた短編映画の原作です。loundrawさん自身の原案を乙一さんが小説としていますが、乙一さんらしいファンタジーともいえます。それぞれ自殺をしようとした高校生たちがどうなるのか。ちょっと悲しいハッピーエンドといったらいいのでしょうか。 
リストへ 
さよならに反する現象  角川書店 
 5編が収録された短編集です。
 冒頭の「そしてクマになる」は、会社をリストラされたが、その事実を妻に内緒にし、毎日出勤するふりをして、ときにクマの着ぐるみを身に着けて風船を配るアルバイトをしている男が主人公。住宅展示場に派遣されていたある日曜日、そこに妻と息子が見知らぬ男とやってきたのに気づく。妻に問い質すこともできず、そこから彼の心が壊れていくが・・・。悲惨な結末を迎えるかと思ったら、最後は乙一さんらしい優しいラストとなりました。
 「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」は、アニメ「おそ松さん」の話に登場した「なごみ探偵」の世界を借りて、乙一さんが密室ミステリを書いています。「なごみ探偵おそ松さん」自体、私はまったく知らなかったのですが、いつもの乙一作品の雰囲気とはかなり違っていて戸惑ってしまいました。
 「家政婦」は親の紹介で作家の先生の家で家政婦をすることのなった”私”が遭遇する恐ろしい出来事が描かれます。その家はこの世とあの世をつなぐ出入口があるためか、幽霊が出るという。先生は、死者は自分の存在に気づいてくれる者がいると孤独をいやしてくれると勘違いして、付きまとうので、見て見ないふりをするようにと忠告する。ホラーの中にミステリ要素を含ませた作品です。
 星野源さんの「フィルム」という歌の歌詞を冒頭に置き、この歌詞を元に書かれた物語が「フィルム」です。幼馴染の好きだった少女と見るフィルムに映る映像は未来の自分の姿・・・。せつないけど温かい作品です。
 「悠川さんは写りたい」は心霊写真まがいを作ることが趣味の男が主人公。交差点で出会った地縛霊にとりつかれてしまうが、彼女の未練を晴らす手助けをしようとする。乙一さんらしい感涙ものの作品でしたが、最後の一行でホラーらしさ全開です。 
 題名の「さよならに反する現象」はどの短編の題名でもないし、直接の関りがあるとも思えませんでした。いったい、どういう忌み名のでしょうか。
 リストへ
沈みかけの船より、愛をこめて  朝日新聞出版 
乙一さんの乙一名義だけでなく、別名義の中田永一、山白朝子で既発表の11作品が収録された短編集です。更に各作品の解説が本名の安達寬高で本人が行っているという、乙一ファンにはうれしい作品集となっています。
 そんな安達寬高解説によると、「五分間の永遠」は二人の男子小学生のささやかな交流を描いた短編小説、「無人島と一冊の本」は無人島に漂着した男が奇妙な猿たちと出会って交流する話、「パン、買ってこい」は不良から使い走りをさせられる主人公の話、「電話が逃げていく」は“どんでん返し”をテーマとするアンソロジー集のために執筆された作品で、電話をかけようとすると電話がつるつると滑って手から逃げていくという話、「東京」は何やら得体のしれない男の子を生んでしまった女性の話、「蟹喰丸」は余命少ない酒飲みの男がある日、酩酊状態で歩いていたところ異世界に迷い込み、そこで乱暴者の鬼に出会って、一緒に酒を飲むことになる話、「背景の人々」は“嵐の夜、都内のとある舞台稽古スタジオで停電が発生し、参加しているキャストたちが百物語を始めた・・・”という設定が提示されて書かれた作品、「カー・オブ・ザ・デッド」は主人公が山道を車で移動中、男を轢いてしまったが、その男が実はゾンビだったという話、「地球に磔にされた男」は“十年”という時間をテーマにしたアンソロジー集のために書かれた作品で、タイムマシンに乗り別の時間軸を移動する男の話、「沈みかけの船より、愛をこめて」は“迷う・惑う”というキーワードをテーマとするアンソロジー集に掲載された作品で、離婚する両親のどちらについていくべきかを悩む少女の話、「二つの顔と表面」は人面瘡をテーマとした作品であり、とある新興宗教の二世問題について書かれた作品でもあるそうです。
 この中で個人的に一番好きなのは、「蟹喰丸」です。鬼の加護で命を永らえている男が、鬼の加護を捨ててしたことは・・・というラストが乙一さんらしい感動で余韻が残ります。「カー・オブ・ザ・デッド」はゾンビ映画を彷彿とさせるラストのシーンが秀逸です。11編の中では一番長編の掉尾を飾る「二つの顔と表面」は人面瘡という怪奇ものでありながら、中身はミステリーという点が面白いです。 
 リストへ