人間が描けていないなどと難しいことをいわずに純粋に謎解きを楽しめる2編の短編と1編の中編による連作集です。謎解きを行うのは「AHM」というマンションに住む元弁護士のマンションの所有者、そのマンションに住む翻訳家、精神科医、そして刑事(刑事の年収でいわゆるマンションに住めるのかは疑問ですが)の4人です。
「Pの妄想」・・・家政婦に毒殺されると恐れて缶紅茶しか飲まなくなった女性が毒入りの缶紅茶を飲んで死にます。あれほど毒入りを恐れていた女性が、何故に毒入りの缶紅茶を飲んでしまったのか、その論理展開は見事としかいいようがありません。
「Fの告発」・・・メインとなるトリックよりも、警察への通報がなぜその時間でなくてはならなかったかの謎解きがあまりに見事です。
「Yの誘拐」・・・やはり3編の中ではこの作品が一番でしょうか。12年前に起こった誘拐事件、誘拐された子供の爆死という結果で未解決で終わった事件を被害者の父のホームページで知った4人は真相を明らかにしようとしますが・・・。後半4人による推理がなされ、真相は二転三転します。まさか真相があんな形で現れてくるとは思いも寄りませんでした。
三作品とも謎解きに徹した本格的パズラーです。シリーズ化して欲しかったのですが。 |