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太田忠司の本棚

  1. 奇談蒐集家
  2. 道化師の退場
  3. 遺品博物館

奇談蒐集家 創元推理文庫
 7編からなる連作短編集です。
 奇談を求めているという新聞広告に誘われて、あるパーにやってくる男女がそれぞれ自分の身に降りかかった不思議な話をします。それを聞くのは、恵美酒(えびす)という名前のでっぷりとした、もじゃもじゃ頭、丸縁眼鏡にちょび髭の男。そして、恵美酒に仕える女性か男性かわからない外見の氷坂。
 持ち込まれる話は、自分の影にナイフで刺された話、古い姿見の中に現れる武家の姫君の話、パリで出会った運命を予見できる魔術師の話、目の前で連続殺人犯が消え、その代わりに残された死体の話、冬でもパラが咲き誇る豪邸の主人から一緒に住もうと誘われた話、邪眼の持ち主と一晩を過ごした少年の話です。どの話も、客が語った奇談を恵美酒が聞いて満足するが、それを氷坂が違う角度から論じて、奇談ではないと明らかにするパターンで進みます。
 単なるそれだけの話かと思うと、ラストの「すべては奇談のために」で、作者は連作短編集らしい更なるどんでん返しを見せてくれます。恵美酒と氷坂の正体は明かされないままです。続編を期待したいですね。
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道化師の退場  祥伝社 
 末期の膵臓癌で余命半年を宣告され、ホスピス「篤志館」に入院している俳優であり、数々の事件を解決し探偵としても名を馳せている桜崎真吾の元をひとりの青年、永山櫻登が訪れる。前年の夏、小説家の来宮萌子が自宅で殺害され、現場にいた櫻登の母、春佳が逮捕されたが、春佳は「彼女の死に対して、わたしに責任がある」との言葉を残して留置場で自殺する。母の無実を信じる櫻登は、以前春佳がマネージャーをしていた桜崎を頼ったのだった。桜崎の指示で関係者に当たる櫻登だったが、その先で新たな事件が起きる・・・。
 帯に「余命半年の探偵が挑む最後の事件」と書かれていますが、これは違うのではないでしょうか。主人公は永山櫻登であり、桜崎は病院内で安楽椅子探偵のように鮮やかな推理をするわけではありません。櫻登に指図はしますが、彼自身が鮮やかな推理を見せるわけでなく、櫻登が調べてきたことに対し、ああだこうだと言うだけです。重大な事実を櫻登には隠していましたし。
 主人公の櫻登が彼に会う人誰もが思うように、自分の母を春佳さんと呼ぶのをはじめ、思考がどこかズレていて、読んでいて疲れます。会話のキャッチボールにならないのですよねえ。
 ラストは事件の真相とは別にとんでもない事実が明らかとなって唖然としてしまいました。題名の「道化師」は、当初、道化師の仕事をしている櫻登のことだと思ったのですが、これは「リア王」の道化師を当たり役にしていた桜崎のことだったんですね。 
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遺品博物館  東京創元社 
 8編が収録された連作短編集です。どの話にも登場するのが、吉田・T・吉夫という変わった名の髪を七三にきっちりと分け、やぼったいスーツを着込んだ年齢のはっきりしない遺品博物館の学芸員。遺品博物館とはその名のとおり遺品を収蔵する博物館で、亡くなった人が生前に収蔵を希望することにより、死後、学芸員の吉田・T・吉夫が遺品の中からその人の人生において重要な物語に関わる物を選定して博物館に収蔵することになります。
8編の内容は、家族のもとに遺品の選定に現れた吉田が、「川の様子を見に行く」や「何かを集めずにはいられない」、「空に金魚を泳がせる」のように、故人の死の真相を明らかにしたり、「ふたりの秘密のために」のように遺言や遺品の裏に隠された故人の真意を読み取ったり、「燃やしても過去は消えない」や「不器用なダンスを踊ろう」、「時を戻す魔法」のように登場人物と故人との間の隠された関係を明らかにしたりします。ラストの「大切なものは人それぞれ」だけは他とはちょっと変わっており、読者へのあるトリックが仕掛けられています。
8編の中では、交通事故死した息子に過失があったことに納得できない妻と妻の行動に理解できない夫を描く「空に金魚を泳がせる」が個人的には一番好きです。
“遺品博物館”の詳細も“吉田・T・吉夫”という不思議な名前の男の正体も描くこともなく終わったので、続編があるかもしれません。 
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