表題作を含む5編からなる連作短編集です。駅ビルにある書店・成風堂を舞台に、店員の杏子とアルバイトの大学生多絵のコンビが、書店にもたらされる謎に取り組みます。
元書店員が描く書店を舞台にしたミステリとなれば、本好きで本屋さんに行くのが大好きな僕としては読まないわけにはいきません。
「パンダは囁く」は、まさしく元書店員さんらしいミステリです。パンダが何を意味するかは本好きにとってはすぐにわかるのですが、そのあとは元書店員さんらしい発想ですね。「標野にて 君が袖振る」はストーリーはよくある話。後日談もよくあるパターンの話でした。話の中に出てくる『あさきゆめみし』は、妻も発売当時せっせと読んだそうです。
表題作にもなった「配達あかずきん」は、この作品集の中ではミステリとしては一番でしょう。それだけでなく、登場人物の一人“ヒロちゃん”が個性的で印象に残ります。あんな店員さんがいたら、足繁く通ってしまいそうです。「配達あかずきん」という題名が、ストーリーに見事にマッチしています。「六冊目のメッセージ」は、素敵なラストで、今回の作品集の中では「配達あかずきん」とともに好きな作品です。自分が薦めた本が相手に気に入ってもらえるなんて本好きにとっては最高ですね。ちなみに6冊のうち知っていたのは『夏への扉』だけでした。最後の「ディスプレイ・リプレイ」は、ミステリとしては犯人の予想がついてしまうのですが、後日談がほのぼのとしていて素敵な着地でした。
表紙カバーも凝っています。ミステリ・フロンティアシリーズの本が並べられていますが、実物とはカバー絵を変えているんですよね。これから発売される『八月の熱い雨』や『ハンプティ・ダンプティは塀の中』までありますよ。 |